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番外742 古代呪法王国の遺産

 一先ず水晶球の大きな欠片同士を合わせてみると、それぞれの欠片に残された魔力が触れ合い、刻まれた術式の輪郭のようなものが見えた。一部が欠けたり、違う欠片同士が接合されても不完全な……というか間違いのある術式になって上手く機能しないので……やはり復元の精度が重要なようだ。


 ウィズの解析によれば、どうやらこの水晶球は自然物ではなく、魔石の粉末を練り込んで錬金術等で作り上げられたもののようだ。その為これ自体に術式を刻む事が可能で、魔石と同様の役割を持たせる事が出来る。

 かなり高度な魔法技術で作られたもののようで、魔石として見た場合でも結構なランクに相当すると思う。


 台座側にも魔石が組み込まれているようだが――この水晶球の補助的な役割なので、結局はこの水晶球を修復しないと何も機能しない。


 但し――。


「これならどうにかなりそうかな」

「テオドールがそう言うと安心よね」


 俺が言うと、ステファニアが笑顔になって、みんなもその言葉に頷いていた。


「水晶球の大きな欠片部分を見ていると術式を刻む容量に少し余裕があるようだからね。迷宮核無しでも上手く繋げそうだ」


 そんなみんなの反応に苦笑を返しつつ、そう答えて修復作業に移る。

 カドケウスが保管している大小の欠片をバロールのレビテーションで宙に浮かせたままで保持。一番大きな欠片の余白部分を使って、元々刻まれていた術式と形はそのままに一時的にゴーレム化する。

 接合中にゴーレムとしての機能以外が誤反応しないよう、封印術を用いて魔力の状態を固定。


 そうして隣り合う破片を接合させていく。ウィズの解析に従い、微細な破片も含めて正しい位置に来るものを一つ一つくっつけていけば最終的には形状は破壊前の通りになる、というわけだ。


 微細な破片を繋ぎ、少し大きな塊を繋ぎ、ウィズが解析してくれた接合面と欠片の形を照合。間違いがない事を確認してまた繋ぐ。


 暫く集中して肩の凝りそうな作業を続けていたが、水晶球が段々と元の形を取り戻すに従い、水晶球に刻まれている術式の種類も分かってくる。


「よし……もう少し」


 隙間に空気が入らないように風魔法も使いながら最後まで接合作業を進めていく。全てが終わった所でウィズに解析をしてもらい、修復の精度を見る。

 そうして問題がない事を確かめてからゴーレム化を解除。

 修復するとよく分かるが、随分と強い魔力を宿した水晶球だ。

 だが、まだ封印術は解かない。ウロボロスとオリハルコンを用いて術式の解析を行い、危険が無い事を確認してからでなければならない。


「ああ。呪法が仕込んであるな。正統な者が起動しないと、呪法が攻撃を仕掛ける仕組みなのか」


 呪法による攻撃も上手くいかなかった場合、魔道具が自壊するといったような術式が組んである。


「厳重な事だな」


 パルテニアラが眉根を寄せる。


「そうですね。ですが、これも何とかなりそうです」


 エルベルーレ関連の魔道具という事で、警戒はしていたからな。

 捕食者――恐らくは呪法から起動許可を与えられている対象から破壊されて機能停止しているところに封印術を用いる事ができたので、折角のセキュリティも働きようがないというのは皮肉な事だ。


 後は封印術で動きを封じている間にその部分のみを機能不全にしてやれば問題ない。

 というわけで早速セキュリティ部分だけを機能停止させる。解除されないように残った容量に封印術を維持するための記述を書き込んでしまえば事前の作業は完了、というところだ。


「よし。これで大丈夫だと思う」


 そう言って水晶球を台座に乗せる。解析して分かった事だが、この魔道具は月でオーレリア女王に見せてもらった記録媒体に近い機能がある。

 水晶球単独ではセキュリティ以外機能せず、台座部分と併せる事でようやく機能するわけだ。幾つか条件を満たして起動させる事で段階を踏んで記録された物が再生される、という具合だ。他にも幾つか術式が刻まれているようだが――さて。


 ウロボロスで軽く魔道具に触れて、初期段階で起動されるであろう機能を動かしてやると――水晶球が光を放ち、台座から地面に魔法陣の輝きが走った。


「これは――」

「魔法生物との対話に用いられる物に似ているね。この魔法陣内に設備を配置しておいて、無人でも自動的に魔法生物に学習させる……事が可能かな?」


 問題はどんな学習をさせたのか、という事になるが……それも少し術式で補助してやれば確認する事が出来るだろう。

 マジックサークルを展開。襲撃者がかつて感知したであろう、学習の内容が再生される。

 最初に――テープを何倍にも早回しにしたような言葉の羅列。いくつも浮かぶ光景。様々な知識。


「これは対象に文字や言語、言語に対応する事象を習得させるための物か」


 そして……次に聞こえてきたのは呪詛の言葉を吐露する者達の姿だった。


 戦いで負った傷の痛み。

 月や魔力嵐を起こした精霊への恨み辛み。

 地上に帰れないままで死にたくない。

 王の娘が反乱を起こすなど許される事では――。


 一旦、映像を切る。


「これを――魔法生物に学習させたのか」

「……今のは王の側近達だな」


 パルテニアラは感情を出さず、静かに言う。だとするなら、これは戦いの前に記録されたものなのだろう。恐らくは彼らが負けた場合にパルテニアラが死者の無念と呪法が結びつかないように対応する事も見越した上で。

 それにしては魔法生物が動き出すのが随分と遅いように思うが……子孫への復讐だというのなら、これも壮大な呪法だと言えるのかも知れない。


 ともかく、彼らの呪詛は聞くに堪えない。当事者であるパルテニアラには聞かせたくない。それらの部分を飛ばして次の工程を見る。


「見たか? 感じたか? 我が同胞の無念を」

「もし、私達があの娘との決戦に敗れたとしても、貴方が私達の無念と意志、そしてエルベルーレの栄光を引き継ぐのです」


 身形の良い男女の姿と、その声。映し出された二人を見て、パルテニアラが眉根を寄せる。


「エルベルーレ王とゼノビアだ」

「これが……」


 自信に満ちた赤毛の偉丈夫が最後のエルベルーレ王。ゼノビアは――そうだな。言われてみればネフェリィに似た面影があるように思う。


「初めに――貴方が今疑問に思っている、貴方自身の事について教えましょう」

「お前は、我が栄光あるエルベルーレ王家が研究の末に辿り着いた叡智の結晶であり、新しく生まれ、受肉した精霊と言うべき存在だ。理論は完成していたが……我らの望む形の精霊を作り出すには長い時間とそれに相応しい場――歴史とも呼べる環境を整えてやる必要があった。くく、我らの敗北がその舞台を整えるかも知れないとは、皮肉な話だがな?」

「無論、勝利を掴むつもりではいますがね」


 エルベルーレ王は牙を剥くように獰猛な笑みを見せ、ゼノビアは薄く笑う。

 精霊。そうだ。宮殿の扉を封印していた術にも、精霊の気配があった。時間が経っていたからか、僅かなものであったが。

 精霊の力を借りる術でも同じような結果にはなるだろうから確証は無かったが……そうか。術者当人が受肉した精霊だというのなら納得だ。


 精霊を支配する術を弄び……ティエーラの力を暴走させてもまだ足りずに、こんな研究を進めていたわけだ。


 時間と場……積み重ねた歴史が精霊を生み出す、というのはまあ、分かる。死者の無念を呪法に乗せる事ができなくとも、戦いに破れて地の底に沈んだ宮殿というのは、彼らの望むような精霊を作り出す場としては、うってつけだったのだろう。


 そして自分の代ではどうやっても完成させようがない術だから。理論は出来ているから。負ける事で舞台が整ってしまうから。

 敗北したその時の意趣返しも兼ねて、未来に負の遺産を遺すような真似をした。


 記録が、移り変わる。精霊が目覚めて活動を始めた事に喜びの言葉を述べ、宮殿に残した遺産は全てお前のものだと、伝える王とゼノビア。魔法的知識を伝え、これから成長の為にすべき事。魔界が成立した経緯や、その外にルーンガルドがある事を伝える。


 また場面が切り替わる。最後の記録は、傷付いたゼノビアの姿だった。何時の記憶か。これは分かりやすい。パルテニアラ達に敗れ、溶岩に呑まれた後だ。


「……く、くく。ままならない物ですね。折角……私自身も新たな力を得るための手段を見出したというのに……あの方の力にはなれず……彼らの呪法の刃と、姫の術式が、私自身の覚醒を……半端な物にしてしまうとは」


 僅かにゼノビアの身体から立ち昇る瘴気。ゼノビアが咳き込んで血を吐き出すと、瘴気も霧散する。魔人として変化をしかけるも、状況がそれを許さず一歩及ばなかった。そんなところだろうか。


「私は……恐らく長くない。私が愛したあの方も、もういない。だから……あの方と共に作り上げた貴方に……最期に伝え、託しておきたい。貴方は――エルベルーレの栄光を受け継ぐ……選ばれた者です。だから……この半端な覚醒も、全てお前の力を高める為だけに捧げましょう。魔界、とルーンガルドの境界を打ち破り、地上も月も総べ……お前が全ての頂点に立つのです。それこそが、栄光あるエルベルーレに連なる者としての我らが、誉れ――」


 薄く笑うゼノビアの身体が、音を立てて変質していく。差し伸べた手も、身体も。結晶のように変わり。笑うゼノビアが目を閉じれば、それらが砕け散って、濃密な魔力が渦を巻く。記録は、それで途切れていた。


 これを見た捕食者は、何を思ったのか。

 自身の力を高め続け、旅立つ前に装置を笑って砕いて――そうして外界でファンゴノイドを襲撃したり、魔界に破滅を齎すような行動を始めたというのならば。


 恐らく奴はゼノビアにもエルベルーレ王にも、情を持っていない。

 しかしこの場所に積み重ねられた歴史が作り上げたというのなら。目的だけは引き継いだ、と見て間違いないだろう。自分の成すべき物と見定め、その為に行動をしている。そういう風に生まれついた存在だから。

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