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番外740 ミネラリアンとの出会い

「この近辺の建材にかかっている術式を解呪してやれば、自由に動けるようになるかな?」

「……恐ら、く。いや、問題なく、いけると、思う」


 ミネラリアンのセワードにそう提案すると、少し思案した後にそんな返答があった。

 救出方法としては切り出してから解呪するか、解呪してからセワードに任せるか、というのを考えたが、まあ、何処から何処までがセワードの身体かはっきりしないし、力があまり発揮できないとはいえ、ある程度はセワードに任せた方が良い結果になりやすいのではないだろうか。


 セワードも言葉を訂正するぐらいには自信がありそうな様子なので、早速実行に移していくのが良いだろう。

 ローズマリーの魔法の鞄から魔石の粉が詰まった皮袋を用意し、セワードのいる床あたりに魔法陣を描く。範囲を広げる必要はないので、魔力循環は使ったままで大丈夫だ。床に魔力を込めて一気に解呪の術式を展開すれば、ガラスの砕けるような音が響いた。


 周辺の床に込められていた魔力が変質する、と同時に、建材に罅が入って、何か人型の物体が上体を起こすように床から立ち上がってくる。


 床は斜めになっているので、一部が人型になって垂直に立ち上がってきたような格好だ。呪法で抑え込まれる事もなくなったからか、生命力も魔力も一気に増大して、人で言うところの心臓のあたりに集中していく。

 ブラックオパールのような質感の核が現れたかと思うと、そこから生命力と魔力が石の身体全体に広がる。床を人型に切り取ったようだった雑な作りの手足や顔も……恐らくはミネラリアンらしい形に整えられていく。


 頭部から結晶が伸びて髪というか兜のようになって、オニキスのように黒い球体が目のあたりに形作られた。

 目蓋や口も形成されて……生きているゴーレムと呼ぶのに相応しい佇まいだ。重要な部位以外は床の建材をそのまま利用しているようであるが、元々床に無理矢理同化していた、という話だったな。


「おお……。久方ぶりに……自由に動けるようになった。大分……身体は縮んでしまっているが」


 と、セワードは手を握ったり開いたりしながら感動したような声色で言う。そうだな。身体を作り直している段階で、何やら段々小さくなって、最終的には子供ぐらいの大きさに落ち着いてしまったようだが。とはいえ、先程よりは大分言葉も流暢になったようだ。


「私の事を見つけ出し、助けてくれた事に礼を言う」


 と、コルリスと俺に向けて言うセワードである。コルリスはこくんと頷いて手を差し出し、セワードもそれに対して握手で応じる。

 そのままの流れでセワードはコルリスと俺に続けて握手をする事となった。


 まずは簡単に自己紹介を済ませてから、事情を掻い摘んで話す。


「実は――この場所に危険がないか調べに来たんだ。何か潜んでいたようだけど、知っている事を教えてくれないか? 勿論、安全な場所にも案内する」

「君達は恩人だ。私に協力できる事があるなら喜んで」


 セワードはそう言って快く応じてくれた。では、地上付近の偽装拠点に案内して、少し腰を落ち着けて話を聞かせてもらうか。この場所では落ち着かないだろうしな。

 流石に敵の罠という事は無いだろうが、念のためにエイヴリルにも同席してもらう、というのが良いかも知れない。




「私は……仲間達の住まう集落が手狭になったので、新しい土地を見繕う為の旅に出ていたのだ」


 というわけで場所を変え、一旦宮殿を離脱し通路の上部で布を敷き、話を聞く準備を整える。

 どうやらエイヴリルから見てもセワードの感情の動きには問題がないようだ。セワードを見ると静かに頷いて、自己紹介をしていた。


 セワード達ミネラリアンは通常の飲食物を必要とせず、適した魔力を有する場があればそれだけでも生きていけるらしい。

 寿命は相当に長い種族、との事であるが、成長や繁殖は場所に依存するので、人口が過密になると新しい集落を探すために旅に出たりする、との事で。


「あの時は――森を歩いて良さそうな場所を探していたのだが――ああ、そうだ。あの時、歌声が聞こえてきた」

「歌声?」


 イルムヒルトが首を傾げるとセワードは頷いた。


「そう。男とも女ともつかない不思議な歌声だったな」


 気になってその歌声を追っていくと、他の魔物も集まってきていたらしい。蛮族や危険な魔物もいたそうだが、誰も彼も周囲の事を気にせず、歌声に聞き惚れていたとの事だ。セワードも一瞬意識が薄れ――そこからは一瞬だった。

 足元に魔法陣が広がったかと思うと、身体がどこかに引っ張られるような感覚があって、気が付いた時には見知らぬ建物の中にいたとの事だ。そして、そこが浮遊宮殿の内部だった、との事で。


 召喚術と転移魔法の区別は話を聞くだけでは難しいが、襲撃者は召喚術を使っていたし、ゼノビアは月の民だ。どちらであってもおかしくはない。


「呪歌の類、かしら。そんな事に利用するなんて」


 イルムヒルトは眉根を寄せて目を閉じる。……そう、だな。何かを誘き寄せて正常な判断能力を失わせるというのは、魔力溜まり絡みで凶暴化したハーピーやセイレーン等に見られる行動ではあるが……。イルムヒルトとしては良い気はしないだろう。


「そこはあの建物の広間で……そいつはいきなり襲ってきた。手近にいたオーガの首を刈り、手当たり次第に暴れ回り、食らいついて食い破る。獣のようであり、蟲のようでもあり、植物にも似ていた。私も食らいつかれて、身体を砕かれながらも必死に床と同化して逃げようとしたのだ」


 そうしてそれからずっと宮殿の建材に閉じ込められていたらしい。宮殿内部なら床や壁を伝うようにして移動は可能だったが、逃げる事が出来ずに困っていた、との事だ。幸い魔力は豊富で、生命活動に支障はなかったそうだが。


「それからずっと、というのは大変でしたね」


 アシュレイが言うと、セワードは少し自嘲するように笑う。


「脱出の方法がない事が分かってからは、万一にも見つからないようにあまり思考を働かせず、普通の石のように過ごしていたから、そこまで苦痛を感じていたわけではなかったが……どれほど宮殿にいたかは分からない」


 ミネラリアンからしてみると、環境さえ良ければという条件こそつくものの、数年、数十年単位で活動レベルを落として過ごすぐらいは簡単な事らしい。


「その相手は、こんな姿をしていませんでしたか?」


 マルレーンからランタンを借りて、知恵の樹で見せてもらったロギと襲撃者との戦いの記憶を見せると、セワードはその光景に目を見開く。


「似ている。あれは普段、ゆらゆらと蠢く得体の知れない影で、様々な生物を捕食してはその能力を取り込んでいる、ようだった。私が襲われた時は、もっとずっと小さかったが、段々大きくなっていた」


 そうか……。これで襲撃者と宮殿の捕食者がほぼ同一だという裏付けが取れたのではないだろうか。大きさから判断するに、時系列的にはロギの襲撃より前のようだ。食い破る、という表現からも、当時はもっと小さな姿だったという想像がつく。

 そして、セワードはそいつとそれなりに長期間宮殿で共に過ごす事を余儀なくされたようだ。


「やはり、エルベルーレ絡み、か。性質も厄介極まりないな」


 パルテニアラがセワードの言葉に眉根を寄せる。


「後は――その出自と、現在の魔界の状況に関係があるか、ですね」


 グレイスが真剣な表情で言うと、マルレーンもこくこくと頷く。


「そうだね。人為的な魔法生物なのか、何かの成れの果てなのか。それとも自然発生的に生まれた何かなのか……」


 判別にはまだ情報が足りていないが……いずれにしても魔界の状況と関係しているのなら、その行動原理はエルベルーレ王やゼノビアの意志を引き継いでの事のように思う。

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