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番外739 宮殿内部にて

 魔法の灯りを浮かべて――みんなと共に地底の宮殿へと繋がる通路を降りる。パルテニアラの記憶とシーカーの事前探索で、ある程度宮殿の間取りを立体模型に出来ている。

 通路が繋がっている西の塔を基点として行動する予定だが、今回は地下探索という事でホウ国から地中潜航の宝貝を借りている。宮殿外壁の破損個所も脱出経路にできるというわけだ。

 勿論、宝貝だけでなくコルリスの能力でも外部に通じている場所なら地中を進む事ができるので、撤退が必要になった場合は転移魔法と合わせて選択肢としたいところだ。


「立体模型の形をメダルゴーレム達に覚えさせたから、もし迷った場合はこれを瓦礫に埋め込んで、地図代わりに使って欲しい」


 と、宮殿に繋がる通路を下りながらみんなにゴーレムメダルを配っておく。まあ、万が一の備えだな。


「ありがとうございます」


 封印を解除したグレイスがメダルを受け取って微笑みを浮かべた。

 呪法防御が施されているので宮殿の壁や床はゴーレムに変えられないが、保存状態の悪い場所――つまり瓦礫に埋め込めば問題なく変形してくれるだろう。


「では――突入しましょうか」


 クラウディアの声にみんなが真剣な面持ちで頷く。そうして西の塔の窓から溶岩を除けて宮殿内部へと踏み込んだ。

 内部は……静まり返っていた。斜めに傾いた遺跡というのは……また随分剣呑な雰囲気があるが。

 微妙な傾斜があるのでやや動きにくいが、マジックシールドの発動で足場を作れば戦闘は勿論、移動にも支障はあるまい。


 ライフディテクションと片眼鏡の魔力感知での索敵。シーラとイルムヒルトも索敵班に加わりつつ、後衛となるアシュレイ、クラウディア、ローズマリー、ステファニア、エレナを、アピラシアの蜂達や動物組、魔法生物組と呪法兵や前衛メンバーが守りつつ、宮殿内部を慎重に進んでいく。


 最初に目指すのは、まずは西の塔から一番近い所にある骨塚だ。ウィズの記憶している宮殿内部の構造を辿り、骨塚のある部屋へと向かう。

 生命反応、魔力反応共に異常はなし。何事もなく骨塚に到着したが、安心できる雰囲気とはとても言えない。

 新しい死骸ではないので腐臭や血臭はしないのが救いと言えば救いか。完全に白骨化しているというのと、そこまで古い時代のものではなさそう、というところまでが水晶板モニターからの映像で分かっていた部分ではある。


「ここでは何を調べるのでしょうか?」


 アシュレイが首を傾げる。


「骨の状態から、ウィズに分析してもらって大体の古さを測定したり……後は骨塚の中心にあるほど古い骨になるから、捕食者の狩りの痕跡を分析して変化の過程が見られれば、と思っているんだ」


 生物の場合は炭素の放射性同位体で年代測定ができるのだとか、恐竜等を展示している博物館の見学に行った時に習ったな。確か……ええと、炭素14だったかな。生物が死ぬと新しい炭素が作られなくなるので、それの半減期で大凡の年代が分かるのだとか。

 ウィズでデータを取っておいてもらい、迷宮核で比較、測定等すれば大体の所は分かるのではないだろうか。


 まあ、年代の検証はそれで良い。骨塚の外側と中心部での違いも調べていく。アクアゴーレムを作り、中心部に送り込んで骨を持ってきてもらうのだ。俺から制御を受けたアクアゴーレムが、その身の内になるべく元の骨格を保ったままの状態のものを、ゴーレムの身体の内側に取り込んで持ってきてもらう。


「――ああ。やっぱり。底の方……古いもの程、小動物や甲虫みたいな、弱い生き物の骨が多い」

「外側の骨はオーガやトロールを平気で狩っている……。つまり、捕食者は成長している、という事ね」


 ローズマリーが眉根を寄せる。


「そうだね。骨の損傷から言って……新しい物ほど攻撃も巧みに、鋭く、強烈になっているのが分かる。宮殿を根城に獲物を捕食して……成長したのか、意識的に牙を研いで強くなろうとしたのか……。多分、後者だな」


 オーガを真正面から一撃で仕留めたといった痕跡が残っている骨格も発見した。

 捕食を目的とした単純な狩りならば奇襲、急所狙いがセオリーだから、捕食以外にも目的があった、という事だ。


 あまり明るい情報ではないが、そういう存在であるとしっかり認識しておく必要がある。そうして……骨塚でのデータ収集を終えて、続いて隠し書庫へと向かう。


 書庫は浮遊宮殿だからなのか、書棚は壁に固定されているようだ。蔵書は基本的に魔術書の類。保存の為の術が施されているのか、劣化は進んでいるがまだ何とか解読も可能だ。


 魔法の罠が仕掛けてある可能性もあるので異常な魔力反応がない事を確認しつつ、本を見ていく。


 捕食者が目を通したのが明らかな物はすぐに分かる。装丁や頁の端に乾いた血の痕があるからだ。血痕は歪な手や指の形だったりして……ある程度体格が大きく成長しているのも見て取れる。捕食者と襲撃者がイコールであるなら、本を読むのは人間の手の形が一番適しているという事になるかな? 


 いずれにしても宮殿の捕食者は手洗いや整理整頓等には興味がない事が分かる。

 この血の痕もデータとして収集していこう。ゴブリンやオーガ、オーク、トロールといった生物の血なら分かりやすいのだが。


「成長の痕跡で、何か分かるかしら?」


 と、イルムヒルトが尋ねてくる。


「んー。そうだね。気付いた点としては目を通している魔術書の内容が、段々高度になっている事……かな。そこから推測するなら……本を読んでいた者はエルベルーレ王やゼノビア本人の可能性は低くなるけど」


 最初期の頃読んでいたと思われる本は割と初歩的なものだ。ここから考えられるのは、本を読んでいた者は学習をしていた、という事だ。もしエルベルーレ王やゼノビアが生きていて、本に目を通していたと仮定するなら、基礎から読み直しというのは……些か考えにくい。

 捕食して能力を磨いていた事といい……宮殿で自らの力を蓄えていた、と言うのが一番しっくりくる。


 魔法生物か、それとも他の何かか。いずれにしても調査は続行だ。

 閉ざされている区画をしっかりと見てこないといけない。


 そうして通路を進んでいくと、何やらコルリスが鼻をひくひくと反応させた。


「何か……あの近辺の建材から不思議な匂いがするって言ってるけれど」

「不思議な匂い……?」


 ステファニアが怪訝そうな表情を浮かべ、前方を指差してそんな風に伝えてくるので、その方向を注視すると……何というか床にぼんやりとした生命反応と魔力反応が見えた。


「何か……いるな。あまり強い反応じゃない……というか、かなり弱々しく見えるけれど」


 俺がそう言うとみんなは――それでも油断せずに武器を構える。すると、何やら少し慌てたような声が響いた。


「ま、て。お前、達はあれの仲間、じゃない、のか?」


 これは……床そのものが振動して声が響いているのか。


『ミネラリアンか……! 魔界に住む希少な種族だ……!』


 こちらの様子を窺っていたメギアストラ女王が、少し驚いたように声を上げた。

 ミネラリアン――鉱物人間、というところだろうか? 生きているゴーレムのようなものかも知れない。


「如何、にも。化物に、食われそうになって、逃げる為に必死で壁と同化、したら……今度は建材から離れられなく、なってしまった、んだ。食われて、力がそがれた、からかも知れない」

「それは……いつの話なんだ?」

「わから、ない。大分前から、ずっとだ」

『時間感覚は大分緩いからな……』


 メギアストラ女王が言う。かなりマイペースで自分達の領分からあまり出てこない種族、という事らしい。

 なるほどな……。呪法が施された建材と一体化してしまったばかりに、宮殿から離れられなくなっていたというわけか。

 宮殿の建材から助け出してやれば、何か情報を聞かせて貰えるかも知れないな。

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