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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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142 ミーティング

 跳躍したグレイスが、落下と同時に大上段に斧を振り下ろす。
 鉄で作ったゴーレムがひしゃげるような破砕音を立てながら縦に両断された。無造作に打ち下ろされただけに見えたがこの威力。なかなかに冗談じみた光景だ。

「どうでしょうかグレイスさん」
「良いですね。手に馴染みます」

 グレイスは手に持った新しい斧を眺めて、笑みを浮かべる。
 前の斧とバランスを変えずにという事だったが……素材も重量も違うはずなのに、なかなか好感触のようだ。流石に数回の調整が入ったけれどきっちり余裕を持って間に合わせてきた辺り、ビオラも流石である。
 アシュレイにもデッドシャークの魔石から魔道具を作成している。俺達のパーティーに関しては一通りの準備は整った。

「新しい武器ならもう少し慣れておいた方がいいし、このままゴーレム相手に訓練しようか」
「はい」

 グレイスは真剣な面持ちで頷く。アクアゴーレムでもアイアンゴーレムでもグレイスにとっては同じ事だ。訓練中の怪我を避けるためにアクアゴーレムを複数体用意してグレイスの訓練相手をしてもらう。

 ゴーレムを配置して動かすと、グレイスがそこに打ち掛かっていく。はっきり言えば、グレイス相手となるとゴーレムでは回避も防御もままならない速度と威力ではあるのだが、今回は武器に慣れてもらうという目的なのでそこまで複雑な動きをさせる必要はない。

 グレイスは左右の斧を自在に振るい、ゴーレムを微塵に切り刻む。
 武器の重量や振り切る勢いを物ともせずに力技で無理矢理に軌道を変える事もあれば、振り切る斧の重量に任せて身体を流し、ゴーレムの攻撃を回避しながら転身、もう一方の斧を死角から叩き込んで胴体を両断したりと、以前より細やかな技術も身についているのが見て取れた。

 結果どうなるかというと、技を力で。力を技で補い、暴風のような連撃となってアクアゴーレム達が再生する端から吹っ飛ばされていくという光景になるわけだ。
 他の仲間達はグレイスが斧の試運転と言う事で全力で動いているので休憩中である。巻き込まれたらただでは済まないしな。

 ……。ふむ。けれど連携を鍛えるならみんなもグレイスの動きに慣れておいた方が良いんだよな。グレイスの動きに合わせられるのは、感覚の鋭いシーラとラヴィーネ、それから形を自由に変えられるカドケウスぐらいのものだし。

 グレイスが立ち回っている場所から少し離れた場所にアクアゴーレムを配置する。同時に両手に斧を持った形状のクレイゴーレムを作り出し、クレイゴーレムにはグレイスの動きを僅かに遅れたタイミングでトレースさせる。
 やられ役であるアクアゴーレムにも同じ動きをさせるわけだ。庭の離れた場所でグレイスの訓練をゴーレム同士にリプレイさせるような感じである。
 グレイスの動きに注視している必要があるので、流石に他の作業をしながら訓練とはいかないが。

「また何か思いついた?」

 その様子を見ていたシーラが尋ねてくる。

「うん。あっちとこっちで時間差で同じ動きをさせて、そこに皆に混ざって貰えばグレイスと訓練しているのを模擬的に再現出来るかな、と思って」
「面白い。ちょっとやってみる」

 シーラがクレイゴーレムの背後について、動きに合わせてアクアゴーレムに斬撃を叩き込んでいく。グレイスが真横の薙ぎ払いを見せると、シーラは縦に飛んで回転しながらアクアゴーレムの頭部を断ち切って行く。

「どう?」
「うん。グレイスと一緒に戦ってる感じ」
「なら私も、後ろにシーラさんがいると思って戦ってみます」

 グレイスの方もそれと意識した物に変わる。動きの中にシーラと攻撃のタイミングを入れ替える瞬間を組み込んでいく。
 だがグレイスの訓練している方にシーラはいない。シーラにやられたアクアゴーレムのダメージを、グレイス側に反映させないと齟齬が出て来てしまう。

 そこを解決するには……シーラの動きを俺が予測していく必要があるわけだ。
 通常のゴーレム制御。グレイスの動きを追随。シーラの動きを見て攻撃の種類と斬られるゴーレムの挙動を予測して反映。これらの操作を同時にこなしていかなければならない。
 これはなかなか……頭がこんがらがりそうではあるが、いい具合に制御の訓練になる。仲間の動きをきっちり見て取っているわけだから、実戦で予測しやすくなるという効果も期待出来る。
 だが流石に仲間全員を交えてというのはまだ厳しそうだな。

「……怪物だな、これは」
「やっている事は分かるけど……僕は見ているだけで何が何だか、という感じだよ」

 その訓練風景を見ていたタルコットとアルフレッドがそんな言葉を漏らした。



「それで……前日から当日にかけての事なんだけど。みんなの所在を確認しておきたい」

 しばらく訓練を続けていると、声をかけていた人達が集まってきた。
 何の為に召集をかけたかと言えば、信用の置ける知り合い達を工房に集めてミーティングをしているわけである。

 面子としては工房の関係者、フォレストバード、ロゼッタ、タルコット。騎士団からはチェスター、メルセディア、ミルドレッド。……それに、クラウディアも参加している。
 メルヴィン王に許可を取った上で、このメンバーに通信機を渡して当日の連絡を密にしておこうというわけである。当然秘密厳守を守れそうな顔触れしかいない。

 通信機の使い方とそれぞれの所在を確認しておく事で、迅速な対応を取れる態勢を整えておこうというわけだ。緊急事態に際して悠長にメッセージを書いている時間はない。予め所在が分かっていれば最短のメッセージで駆けつける事が出来る。

「僕は家かな。中央部付近に大物が攻めてくる事があれば連絡するよ」

 アルフレッドが言う。彼の言う家というのは王城の事に他ならない。オフィーリアとシンディー、ビオラも王城に避難してもらうそうだ。
 王城には多数の兵士、騎士の他、宮廷魔術師リカード、ステファニア姫もまだ滞在しているので戦力としてはかなりの物だろう。

「私は学舎に詰めているわ」
「俺もだ。学長には恩がある」

 ロゼッタとタルコットは学舎……と。学舎にも既に神官が担当として詰めている。信徒が現れた場合、その規模次第で2人が対応する事になるかも知れない。
 フォレストバード達はギルドと神殿周辺。孤児院の皆も神殿へ。ミルドレッドも司令部を置くそうなので、迷宮入口はとかく防備の厚い場所になるだろう。孤児院にいるよりは安全だと思われる。

「僕は飛竜隊を率いて北区から西区周辺を飛んで回る」
「では私は南区周辺を警戒させてもらおう」

 チェスターとメルセディアの配置も決まった。これで全域のカバーが出来ただろうか。

「前日の夜から当日にかけては……教団が暴れたときの事を想定して訓練を行うからという名目で外出禁止令が出されるという話でしたよね? 相手方も警戒してしまうのでは?」

 アシュレイが尋ねてくる。

「ああ。相手方が例の魔人集団と繋がっていないと仮定した場合、いかにも警戒されているタイミングで動くわけがないからだよ」
「なるほど……。逆に想定通りに繋がっている場合、彼らはこちらの動きがどうであれ予定を変える事が出来ないと見ているわけですね」
「そういう事」

 アシュレイが得心行ったと言うように頷いた。マルレーンもこくこくと頷いて真剣な表情で耳を傾けている。2人とも理解が早くて助かる。

 逆に……教団が魔人と繋がっているなら、警戒されていると分かっていてもそのタイミングで動かなくてはならない。
 もたもたしていると宝珠を俺に回収されてしまう。教団側が戦力の分散や重要施設の破壊を目的としていると仮定した場合、封印の扉の解放に合わせないと攻撃に意味がなくなる。警戒されているからと前倒しや先延ばしにするというのが、連中には出来ないのだ。

 だから最初から動くタイミングは分かっているのだと、外出禁止令を出して教団側にも伝えてやる事でプレッシャーをかけていく作戦なわけである。
 市民の避難誘導の手間が無くなる事、避難する民衆に紛れての信者の移動なども防げるので一石二鳥、三鳥という所だろうか。

「それじゃ、通信機の説明をする」

 皆に通信機の使い方や、その機密事項ぶりについて十分に説明しておく。まあ、個々人と契約する形なので紛失や盗難に関しては問題はないけれど。

 さて……これでやれる事はやっただろうか?
 扉の解放と外出禁止令に対し、相手方がどう動くかを注視。更に訓練を重ねつつ、扉の解放の日を待つ事としよう。
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