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番外732 魔王城の儀式場

 メギアストラ女王に連れられて一旦ファンゴノイド達の区画を出て光の昇降機で城の最下層へと向かうと……そこには広々とした空間があった。

 魔力の込められた強固な建材。区画全体を支える巨大な柱と、それとは別に中央の祭壇を囲むように配置された青白い光を放つ6本の柱。祭壇奥にも一際大きな水晶柱が配置されていて、その柱が丁度区画の中心に来るように作られているようだ。

 壁や床にはやはり水晶なのか、ガラス質の建材が敷設されていて、それによって魔法陣が描かれていた。


「これはまた……すごいわね」


 ステファニアが周囲を見回しながら驚いたような表情になる。

 勿論ガラス質の建材の下には魔石粉も敷設されている。魔法陣や柱から立ち昇る青い光で照らされたその場所は、区画全体が普通とは違う光源から照らされており……中々雰囲気のある場所だ。


 床の魔法陣と中心の柱は、精霊と交信し力を送る為のものだろう。精霊と交信する為の場所なので、満ちている魔力も清浄な印象がある。

 区画全体は六角形をしており、壁に描かれた魔法陣は想念結晶の塔に蓄積された魔力をこの儀式場へ供給する役割があるようだな。そしてこの光る柱は――。


「この光る柱は、後から増設されたものですか?」

「一目で分かるというのは流石だな。その通りだ。例の、魔力増強剤から抽出した力を凝縮し、その力を蓄積させているわけだな」


 メギアストラ女王が教えてくれる。ああ。増強剤を儀式の補助に使う、と言っていたな。メギアストラ女王が服用するのではなく、数を集めて凝縮させたものを特性そのままに設備として利用するというわけだ。やはり、魔王国の魔法技術はかなり高いと言えるだろう。


「結晶塔から供給される魔力が伝わる、その経路上に柱がありましたから。柱の魔力反応に不揃いなものがあって、まだ不完全な印象にも見えます」

「そうですな。柱を均質に仕上げる為にはもう少しだけ時間が必要になるかと」


 すぐさま儀式を始める、というわけにはいかないか。


「状況を調べる方法がある、と言っていたが」

「そうですね。精霊と交信して循環錬気で繋がる事で異常を特定、場合によってはそのまま対抗術式を用いてしまおうと考えていたのですが……。歪みを進行させない為に精霊が活動を控えている事や、儀式の準備が万全では無い現状を考えると、先に浮遊宮殿の調査を進めた方が良いのかも知れません」

「精霊に接触する前に、万が一の事態を想定する、というわけだな」

「はい。精霊が活性化する事で事態が進行したらこちらも先に進まざるを得ませんし、敵が儀式を行うのを待っている可能性も否定できません。杞憂ならそれに越した事はありませんが――万全を期するべきかと」

「そうだな。その調査で案外敵とその本拠地を突き止めてしまうという事も有り得る。魔界の破滅と共にルーンガルドへの脱出を望むような動機を持つ者がいるとするなら過去の因縁が最有力候補で、それが最も厄介であるからな」

「知性を持たぬ存在が歪みの原因ならば与し易いというわけですな」


 真剣な表情で同意してくれるメギアストラ女王とロギである。


「うむ。自然現象に要因がある場合は何とも言えぬが、次の儀式までの猶予は作れるであろうからな」


 そうだな。自然が要因の場合は迷宮核での解析能力の出番だし、魔法技術等々で支援もできる。では……次の方針は決まりだな。




 そうして魔王城に一泊しつつ、一時的に魔界の門を開いて地上にも連絡を入れた。魔王との協力体制を取りつけた事、過去の出来事を知った事。それと……子孫に罪はないから過去の断罪は不毛にしても、当時の月の内通者についてオーレリア女王にも伝え、調べ物を頼みたいと連絡しておく。


 そうして明けて一日――。朝食を取って調査出発の為の準備をしているとアシュレイが言う。


「頑張りましょう、テオドール様」

「ああ。俺達とも縁があるし……みんな良い人だもんな」


 より一層気合が入ったという雰囲気のアシュレイの言葉に俺がそう答えると、マルレーンもこくこくと頷く。過去の因縁を知ったという事もあって、みんな更にモチベーションが上がっている様子だ。


「ん。昨日の事でますます気合が入った」


 シーラが気炎を上げ、イルムヒルトも微笑む。カルセドネやシトリアも「頑張る」と、拳に魔力を込めていた。

 そんな調子で旅支度も整えて、俺達に割り当てられた魔王城の貴賓室から女官に案内されて、ホールへと向かうと、事情を知る魔王国の面々が待っていてくれた。


「良い一日になりそうだな」

「はい。良い一日になりそうです」


 魔界では昼夜の区別があるわけではないのでそんな感じの挨拶になる。メギアストラ女王達と挨拶を交わしていると、そこにブルムウッド達もやってきた。何だか、防具が一新されていたりするが。武器は使い慣れた物の方が良いという事なのかそのままのようだ。


「私に関しては古巣に戻った形ですが、ヴェリト達も正式にメギアストラ陛下に召し抱えられる事になりました。今回の任務はテオドール殿やボルケオール殿、エンリーカ殿の護衛役ですな」


 と、ブルムウッドが小さく咳払いをして声色を整えてから、少しはにかんだように笑ってそう言った。正式に王国の役職に戻って、装備品を支給されたというわけだ。


「正直、こんな上等な鎧を貰って、少し驚いてる。軽い上に動きやすいな」


 ヴェリトがサーコートの上から身に付けた鎧に触れてそう言った。


「それは何よりだ」


 俺がそう答えるとヴェリトが笑って頷く。庇護してきたヴェリト達もしっかりとした仕事についたのでブルムウッドとしても満足そうな様子である。


「皆、中々腕も立つようだからな。余やロギは王都を離れられないが……ボルケオールとエンリーカが調査に同行するのならば、人手も増強した方が良い。水や食糧の補充については既に手配している。出発は滞りなく行えよう」

「ありがとうございます」


 ボルケオールとエンリーカを守る人員を増強しておけば、俺達の戦力が分散されずに済むからな。人員が増えた分の食糧もしっかりと準備してくれたようで。

 一方でメギアストラ女王は黒竜だから戦闘能力はズバ抜けているものの、儀式の要でもある以上、前線に出るわけにはいかない。

 そして魔王が自ら戦えない以上、兵士では相手が難しい強敵が現れた場合にそれを相手どれる強者も必要になるということで、ロギも王都に残らなければならない。


 エンリーカもかなり腕が立つそうだが……魔王国の国内事情に詳しく、立場も上の方にある人物なので、交渉が必要になった際、メギアストラ女王の名代にもなれるというわけだ。


 諜報局の長という立場や仕事はあるものの、部下達がいるからな。それと……メギアストラ女王達に俺達から渡した通信機もあるので、準備は万端である。

 但し通信機に使われている文字はルーンガルドのものなので、連絡を取り合うには少し工夫が必要だ。


 魔界の文字にルーンガルドの数字で番号を振り、番号と空白の組み合わせで内容を伝える、という方式を取る必要がある。やや入力が手間になってしまうが、既に対応表も作って試しに短文での予行練習もしたからな。連携を取る分には問題あるまい。


「通信機……素晴らしいものですね」


 といった具合に、エンリーカは通信機の事を知って感動した様子であったが。

 さて。それでは浮遊宮殿の落ちた場所の再調査へ向かうとしよう。モルギオンの記憶で、沈んだ場所の捜索もしやすくなっているからな。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。


オーバーラップ様のコミックガルドのサイトにて、コミカライズ版境界迷宮と異界の魔術師の第一話が掲載されました!

可愛い絵柄ながらも格好いいので、コミカライズ版も是非是非よろしくお願い申し上げます!

ウェブ連載のURL等、詳細は活動報告にて記載しております。


作者としてもウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思います!

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