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番外731 二つの世界の絆

 知恵の樹で記憶の欠片を見るのはそれなりに時間がかかった。先程作った料理を食べるには良い頃合いという事で、早速食事の準備を進める。

 ファンゴノイド達には米糠とおが屑の混合物で作った菌床。俺達はカレーといった具合だ。まずは食事。それが一段落したところで話し合いという流れになるだろうか。


「む。実は匂いが食欲をそそっていてな。実は気になっていたのだ」

「我もだ。小さな者達の作る料理というのは侮れん」


 メギアストラ女王とアルディベラがそんな風に言って頷き合っているが。魔界でも実力者に属する二人だけに、こうして意気投合してくれるのは良い事だろう。


「ファンゴノイドの皆さんとも……こうして一緒に食事の機会が持てた事を嬉しく思います」

「我らと、ルーンガルドの皆さんとの友情は遠い昔から始まっておりました。友情に生きた我らが祖先と、彼への言葉を違えずに応えたネフェリィ殿のように、我らの絆も一層深めていければこれ以上の事はありません」


 そんなわけでみんなにカレーが行き渡ったところで、俺の挨拶にボルケオールがそう答えて、ファンゴノイドを交えての食事会となった。


 今回のカレーに関してはバタリングオックスという牛系の魔物の肉を使ったビーフカレーだ。磨り潰したタマネギに漬け込んで肉を柔らかくした上で焼き目をつけ、他の材料と共に圧力鍋で煮てからカレーとして仕上げていく、といった感じである。人参、タマネギ、ジャガイモと、食材自体はオーソドックスだ。

 今までの調査結果から食材の成分はそこまで大きく違っているわけではない。調理過程も見せているので、魔界のみんなにも楽しんで貰えるだろう。


 ゴーレム達が配膳を行い、みんなの所にもカレーと菌床が行き渡ったところで食事会だ。


「むう。これは上質な菌床になりますな。子供達も強く育ちそうです」

「これは良い。ありがたく使わせてもらいましょう」


 と、ファンゴノイド達は菌床を見て目を細め、上機嫌な様子だ。普段は口に相当する器官が見えないのだが、身体を変形させて口の部分を開いて、外から見た印象では菌床を食べているというような方法をとるわけだ。


 カレーに対する反応はどうかと言えば……。


「おお。こりゃ美味いな……」

「肉がまた、随分と柔らかい」


 ヴェリトやブルムウッド達――ディアボロス族の面々もカレーを口にして驚きの表情を浮かべる。エンリーカやオレリエッタも顔を見合わせていた。


「美味しい……!」

「うむ。これは良い」


 エルナータが一口目を口に入れて目を輝かせ、アルディベラもご満悦といった様子だ。


「素晴らしい……。ルーンガルドの食材で作られた料理というのが、普段食べられなさそうでそこだけが残念だが」


 メギアストラ女王も喜んでくれている様子であった。ロギもスプーンを片手に「むう、これは……!」と感心するように声を上げていた。


「近しい食材があれば作り方は教えられるのですが……必要な香辛料が多いですからね。近縁の変異種があれば良いのですが」


 或いは木魔法や接ぎ木等で魔界に適合する種を作れたら面白そうではあるが……外来種の移動や持ち込みには慎重にならないとな。

 さてさて。食後はプリンをデザートとして用意しているので、そちらも併せて楽しんでもらえたら幸いだ。




 ゴーレム楽団と共にイルムヒルトやシーラが楽器を演奏し、セラフィナが歌声を響かせる。イルムヒルト達も結構曲のレパートリーがあるのだが、今日演奏しているのは友情に関する曲だったりして、モルギオンとネフェリィの事を意識しているのだろう。ルーンガルドと魔界の絆を深める、という意味もある印象だが。


 ファンゴノイド達にもそれが伝わったようで、嬉しそうに目を細めて演奏に聴き入っていた。デザートを食べながらの音楽鑑賞であったが、魔界の面々はどちらも併せて楽しんでくれたようだ。


 そうして小休止を挟んで一段落したところで、敷布に座って先程見た記憶についての話し合いとなる。


「ネフェリィさんとゼノビアについては当時の認識はどうだったのですか?」


 エレナが首を傾げてパルテニアラに質問をする。


「姉妹であるとは公表されていなかったから、その点は把握していなかったが……ゼノビアは王の寵姫、ネフェリィは女官であるというのが当時の認識だな」


 パルテニアラは淡々と語る。


「魔界に来てからのゼノビアは……環境が過酷ゆえに魔法行使ができる事を明らかにしていたし、その立場故に王の寵愛を受けていた」

「危険視まではせずとも、注目すべき相手と見ていたようですね」


 グレイスが言うと、パルテニアラが肯定する。


「そうだな。妾達からは王を裏切る可能性が低く、戦闘も可能な側近側という扱いだった。事実……浮遊宮殿にいる側近達は投降に応じず戦いになったし、配下からゼノビアと交戦して討ち取ったという報告も受けている。宮殿が溶岩の中へ墜落したために、確実に討ち取られたエルベルーレ王はともかく……個別にどうなったかまでが確認できたわけではない。それだけ重要な相手ならば確実な死亡確認をするべきであったな」


 とは言え死者の念が呪法と結びつかないように処置は施した、との事だ。

 まあ……ゼノビアが月の民出身で、寵姫という立場に収まっているとは想定しようもないだろうからな。

 当時重要視できなかったのは仕方がないが、パルテニアラ達は呪法王国の出身だけに、すべき事はきっちりとこなしているという印象である。


「もう一点。迷宮に対する侵入者がやけに迷宮に詳しかった事から、ゼノビアの父もまた、月を裏切っていた可能性が高いわ」


 そうだな。侵入者がラストガーディアンまで対策をしていた事を考えると、魔界にいたゼノビアの他に月の内通者がいた可能性は高い。

 当時の魔界の門はパルテニアラが呪法でセキュリティ面を強化する前のものなので、そこまで出入りを厳密に管理されているというわけではなかったが、月と連絡を取り合うことができたのはネフェリィとゼノビア、そしてその父親ぐらいのものだ。


「有り得る話ね。ネフェリィは把握していなかったようだけど、密偵が裏切っていた事を弱味として付け込んでゼノビアが交渉すれば……月を裏切ってエルベルーレ側につく動機だって出てくる」


 ローズマリーがそう言って眉根を寄せる。そうだな。ネフェリィとゼノビアという姉妹の名前が、月に記録として残っているなら出自も分かるかも知れない。イシュトルムの家系と諜報関係の仕事で繋がる連中を中心に調べていけば分かるはずだ。まあ、過去の事なので子孫には罪がないという事を念頭に置かなければならないが。


「差し支えなければ、魔界の歪みや澱みを解消するための儀式についてお聞かせ願えたらと思うのです。エルベルーレの技術には理解があるので、この事件の背後にいた者が同系統の技術を持っている場合、対策が可能かも知れません。そうでなかった場合も、龍脈の動きを解析して原因を探る、という事も視野に入ってきますので」


 そうメギアストラ女王に尋ねると、静かに頷いた。


「その為には、更に下層へ赴かねばならん。魔界の精霊を通し、この大地に干渉するために最下層に儀式場が造られているのだな」


 そういってメギアストラ女王は儀式の手順を説明してくれる。メギアストラ女王も本当の姿に戻れる場所という事で、相当広い儀式場らしい。

 というよりも、儀式を行うには力を十全に発揮しなければならないので、本来の姿に戻る必要があるのだとか。

 周囲の想念結晶の塔も、王城に巻き付くような螺旋状の構造物も……儀式を補助する為のものだ。

 儀式を通して精霊を強化し、浄化の力で澱みを吹き飛ばし、歪みを修正する。そういう内容の儀式であるとか。


 龍脈を通して精霊力を広げる、というわけか。

 ともあれ魔界に生きる者が魔界という環境の破滅を望むというのは……通常ならば理解しがたい部分がある。だから俺達としても魔界の不安定さに何者かの意思が介在しているのならエルベルーレ王関連を疑っているわけだが――。


「また、この儀式においては、余も相当な力を注ぎ込まねばならぬ。儀式の前後に有事が起こっても、余は戦力として期待できないかも知れぬな」

「敵がその機を狙ってくる可能性はあるわね」


 メギアストラ女王の言葉に、クラウディアが思案しながら眉根を寄せた。そうだな。留意すべき点ではあるだろう。ただ、今の状況ならば連中の把握していない戦力が揃っているので、敵がそういう狙いだとしても計算を崩す事も不可能ではないはずだ。

 後は……溶岩に沈んだ浮遊宮殿の確認だな。魔王国の支援がある今ならば、こちらとしても調査がしやすい。

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