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番外727 記憶の欠片

「一先ず、襲撃者については情報が足りていない。何か気付いた事があれば意見を聞きたいところだ」


 メギアストラ女王が視線を向けてくる。


「襲撃者の使った召喚術ですが……やはり僕達の知る物に比べると独自性が強いですね。これについては魔界で使われている術式なのか、襲撃者が開発したものなのか……出自が気になります」

「難しいところですな。私達もそこに着目しましたが、いくつかの流派のマジックサークルを見ても特徴が異なっていて、類似の物を見つけるには至っておりませぬ」

「我らの使う術は、かつてパルテニアラ陛下から教えて頂いた、魔力の使い方の基本から発展させたものであったり、魔物の持つ固有術を再現したりといった物が多いのですが……資料や知恵の樹にあるいずれとも違うようです」


 召喚術について尋ねてみると、ファンゴノイド達からはそんな返答があった。


「魔界はかつて、小国同士で争っていた時代もある。魔法に関しては亜流、傍流も結構多くてな。秘匿されやすい情報だけに余らが把握していない技術、歴史の陰で消えて行った技術もあろう」

「召喚術、死霊術は専門外故、過去との繋がりがあるかは妾も分からぬな。そもそも時代が離れすぎている、というのが、どうにもな」


 と、パルテニアラが申し訳なさそうに目を閉じてかぶりを振る。


「魔法も……時代時代の研究開発に応じて変化したり、失われたりするものだものね」


 クラウディアがそう言って同意する。実際シルヴァトリアでもそうだったからな。クラウディアやパルテニアラが術を指導したりすればまた話は変わるのだろうが、それも彼女達の知識に依存してしまう。

 死霊術に関しても、俺達の中に詳しい者はいないし、襲撃者の使った術式から特定に至る、というのは些か難しいところだろう。


「近接戦闘技術についてはどうでしたか?」


 エレナが俺に尋ねてくる。


「過去の経験から見て近い動きをしているのは……最近ではテンペスタスの眷属かな?」

「ん。というと……野生本能と反射神経?」


 首を傾げるシーラに頷くと、動物組にもみんなの視線が集まった。クラウドエルクのアステール等は、パルテニアラの使い魔ウラノスの子孫という事で、ファンゴノイド達からの人気も高い。ラヴィーネやコルリスやティール共々、子ファンゴノイドを背中に乗せて寛いでいる様子だが。

 

 ともあれ、襲撃者は野生の本能と優れた反射神経を前面に出した動きだった。技術よりも膂力と速さで勝負を仕掛ける。合成獣の性質を持つならばそのあたりも分からなくもない。

 眷属を束ねるテンペスタス本人は……反射神経も優れていたが、学習能力とそれを再現する技量が高かったので少しタイプが違うというか。


「確かに……知性の高い猛獣を相手にしているような気分でしたな。私も血の気が多いドラゴニアンですから、引き摺られそうになる所があったのは否めません」


 交戦した当事者であるロギが同意してくれる。


「もしかするとそれが目的だった、とか?」


 イルムヒルトが言うとメギアストラ女王が眉根を寄せた。


「意図してやっていたなら、性質が悪いな。そこから深入りさせるように退いてみせたのだから。まあ……そうした本能的な戦いを律し、鍛練に信を置いているロギだからこそ護衛役に抜擢したのだし、そうした性格が皆にも認められて今騎士団長になっているとも言えるのだが」

「それは……恐縮です」


 そんなメギアストラ女王の言葉にロギが畏まって応える。本能を律して鍛練に信を置く、という内容にはオズグリーヴも思うところがあるのか、目を閉じて頷いていたが。


「襲撃者については……現時点ではこのぐらいでしょうか」


 俺の言葉に、パルテニアラが頷いて話を進める。


「ふむ。実演も見せてもらったところだし、知恵の樹も使っていきたいところだが……どうも見たところ肉体に依存するもののようだ。妾が先程と同じことをするのは難しいやも知れぬな」

「そう、ですな。知恵の樹の性質とは、やや相性が悪いかなと」


 ボルケオールは少し申し訳なさそうな様子だがパルテニアラは「そういうことならば仕方がない」と笑って応じる。

 記憶の再現は読み取りを必要とするから、霊体や神霊とは少し相性が良くない、ということだろうか。


「そういう事なら、テオドールには向いているかも知れないわね」

「主殿は我らの自我を構築する時の対話にも慣れている」


 ローズマリーの言葉にマクスウェルがそう言って、マルレーンもアピラシアと共にこくこくと頷いていた。メギアストラ女王が興味ありげに「ほう」と声を漏らして俺に視線を送ってくる。


「魔力循環と言いまして、生命力と魔力を混合させて増幅する技術があるのです。他者の魔力と同調して、生命力の増幅をしたり、体内魔力の流れを整えたりもできますね」

「私の事を助けてくれた時の……!」

「あれか。確かに期待できそうだな」


 エルナータが嬉しそうに声を上げてブルムウッドも真剣な表情で言う。


「なるほど。知恵の樹と五感を同調させる術式と合わせて使えば情報収集や対策も捗りそうな気がしますな」


 ボルケオールも期待してくれているようだ。

 試してみないと分からないところはあるので、少し知恵の樹との相性を見ながら魔力循環を行ってみるとしよう。




「おお……。これは何と言いますか。実に活力が湧いてきます」


 ボルケオールの手を取って魔力循環を行うと、ボルケオールからそんな反応が返ってくる。

 いきなり知恵の樹との魔力循環は流石に冒険が過ぎるので、まずはファンゴノイドと魔力循環の相性を見る事から始めたいと提案するとボルケオールが快く協力してくれたのだ。


「この反応なら……大丈夫そうね」

「そうですな。念の為にこの記憶を基に、知恵の樹に魔力循環をした場合の仮想実験をしてみましょう」


 ステファニアが言うと、ボルケオールが答える。なるほどな。それなら諸々安心だ。

 循環錬気を終えたボルケオールは、マジックサークルを展開して暫く知恵の樹に触れていたが、やがて満足そうに頷く。


「大丈夫のようです。テオドール公の魔法技術は素晴らしいものですな」

「どうか、知恵の樹をよろしくお願いします。ルーンガルド側の情報もあれば、我らの把握していない記憶も出てくるかも知れません」

「分かりました」


 知恵の樹に向かって座禅を組むように腰を落ち着ける。知恵の樹と菌床を接続しているファンゴノイド達が、術式を使って俺のサポートをしてくれる。


 知恵の樹との五感リンク。及び循環錬気――。

 目を閉じて意識を同調させると、俺の思考に合わせるように先程の直近の記憶が浮かんでくる。循環錬気に意識を向けたから、それに反応したのだろう。


 知恵の樹そのものには固有の意思や人格はないらしいが、記憶されている個々人の意思と、完全に乖離している、というわけでもないらしい。

 だから……そうだな。まずは自己紹介や説得から始めて、俺の知る情報や記憶を尋ねていくと言うのが良いのかも知れない。マクスウェルやアルクス、ライブラやヴィアムス……ウィズにアピラシア。みんなの自我形成の際の対話のように、こちらも色々と脳裏に記憶を思い描いていく。


 名前を名乗り、メギアストラ女王達に話をしたようにここにやってきた経緯、理由を一つ一つ知恵の樹に伝えていく。母さんの事。ヴェルドガルに向かった事。魔人達との戦い。月での出来事や同盟の国々の事。エレナやパルテニアラ、ガブリエラやスティーヴン達との出会いと、ザナエルクとの戦い……。


 パルテニアラや魔界に関わりのある事柄を思い浮かべると、あちこちで波紋が広がるように何かから反応が返ってくる。何か――。俺の思い浮かべた事柄に反応した記憶の欠片だ。……エレナやパルテニアラ達の苦悩、月の民とエルベルーレの争い、魔界の成立とパルテニアラの戦い。本来はどのぐらい、どこに記憶が眠っているか見えない物、という話だが……知恵の樹は脳のようなものだ。魔力循環なら刺激に反応しているのが分かる。


 新しい記憶。古い記憶。ファンゴノイド達はパルテニアラの事を知っているから刺激される記憶の欠片は多いが……その中に少しだけ――他とは反応の違う記憶の欠片があった。


 最初は躊躇いがちに。段々と意を決したかのように。こちらに強い反応を伝えてくる。それは……俺に対してこの記憶に触れて欲しいという事なのか。他の記憶の欠片とは明らかに違う。何か理由があって、人格を色濃く残した記憶という事なのかも知れない。


 では……この記憶の欠片に触れてみるか。

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