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番外724 魔王城の歓待

「しかし驚いたな。二つの世界に二つの種族の争い……。それに迷宮と月の女神。魔人達に世界を司るもう一柱の高位精霊か……。今のルーンガルドについては?」


 メギアストラ女王が思案しながら尋ねてくる。


「そうですね。今は各国とも同盟を組んで情勢は安定していますよ。ヴァルロスやベリスティオとの約束についても、守る為の道筋ができてきた、というところですね」


 俺がそう答えるとオズグリーヴとテスディロス、ウィンベルグも同意して口を開く。


「我らについては隠れ里の者達も合流し、共存の道を歩き始めた、という所ですな」

「俺達の力や性質は忌むべきものだが……特性を封印する術と、解呪の儀式を以って魔人としての性質を抑えるか人へ戻る事で平和に生きていけると思っている」

「そうですな。実例として、お二方は特性封印、私は解呪の儀式に臨みました。戦いに特化した魔人と違い、人に戻ると日々が輝いて見えるものです」


 そんな言葉に、魔王国の面々は笑みを浮かべた。


「それは……良い方向に向かっているようで何よりだ。魔人を含め、ヴェルドガル王国や同盟も多種族との共存を目指している。であるならば余らもまた、良い関係を築けるだろう」

「そうですね。共に手を取り合っていけたら嬉しく思います」


 ヴェルドガルや同盟と、魔王国は志を同じくする部分があるからな。

 メギアストラ女王は俺の言葉に頷き、それから気持ち真剣な表情に戻すと「魔界にとっては……気になるのは過去の事、か」と呟くように言う。


「古い時代の出来事は、今の魔界の姿に大きく影響を与えるものですし、気になる話も多かったですな。これらの情報が問題解決に繋がればいいのですが」

「うむ。だが、宴の準備も進めている。知恵の樹も用いての調べ物をするのは、それが終わってからという事にしておこう」


 ボルケオールの言葉にメギアストラ女王が答える。

 そうだな。諸々終わってから本腰を入れて調べれば良い。宴会に参加するのは魔王国の重鎮や各種族の長といった顔触れなので、そうした面々とも交流して友好関係を築いておくのは重要だ。


「我らの事を知る重鎮方もいらっしゃるとは言え、流石に宴会場に姿を見せるわけにもいきませんし、食事も他の方々と違います。このままこの場所で待機しておりますので、後でお会いしましょう」


 なるほど……。ファンゴノイド達は色々事情があるから宴会は不参加か。彼らの食事はどんな感じなのか気になるところはある。


「皆さんの食事というのはどういった感じなのでしょうか」


 疑問を口にするとボルケオールが答えてくれる。


「ふふ。興味を持っていただけるのは嬉しいものですな。所謂キノコの培地になり得る物です。正確には、食べるというより内側に蓄えておいて、他の菌に邪魔されないようにしつつ、古くなった組織を新しく構築していくのに使うのです。知恵の樹は――我々が外から手を加える際、術式で維持しておりますが」


 なるほど。菌はともかく、子実体……所謂キノコそのものは通常、そこまで長持ちするわけではないからな。身体の大きさはある程度一定を保ったまま、見かけ上は食事をするようにして新陳代謝をしていく、というわけだ。知恵の樹に関しては維持管理においてもファンゴノイドの手というか、環境と専用の術式が必要、となるのだろうが。

 だがまあ、そういう事なら……ファンゴノイド達にも「料理」を振る舞えるかも知れない。


「調べ物をしていて小腹が空いたらこの場所で二次会等しますか」

「森なので風情がありますね」

「おお。それは楽しそうですな」


 俺の提案にグレイスがにっこりと笑い、ボルケオールが目を細める。

 キャンプというか何というか。ファンゴノイド達と同じ食事とはいかないのだろうけれど、一緒に演奏を楽しむ、という感じで過ごす事もできるだろう。

 そんな話をすると、ファンゴノイド達も嬉しそうにしていた。小さなファンゴノイド達も俺の方にちょこちょこと集まってきたりして、抱き上げてみると嬉しそうに目を細めていたりして、うむ。これは中々和むかも知れない。




 そんな調子で子ファンゴノイドを愛でたり雑談をしながら宴会までの時間を過ごし、それから宴会会場に移動した。

 魔王国に所属する各種族、魔王城で働く武官、文官の主だった者が出席する宴会という事だが、その中にカーラもいたりして。やや離れた席でこちらの姿を認めると、ゆったりとした動作でお辞儀をしてくる。こちらも笑顔で一礼を返すと頷いていた。


「図書館への探知魔法の事を伝えるついでに、城の宴会に招待したのだ。そなた達の安否や余らと良好な関係である事も分かった方が安心してもらえるだろうと思ってな」


 と、メギアストラ女王が言う。

 カーラについては、メギアストラ女王達が信用できる事が分かったので、ルーンガルド側と連絡を取る前に図書館の事も伝えたのだ。エンリーカは「適切に対応します」と言っていたが、仕事の早い事で。こちらとしても安心である。


 他にも……先程シリウス号を先導して案内してくれた白いドラゴニアンは、飛空騎士団の騎士団長だと紹介してもらった。


「例の場所の警護を任せていた事もあってな。襲撃者と交戦した経験を持つ」

「では、後でお話を聞かせていただけそうですね」

「私の話で良いのでしたら」


 と、騎士団長は笑って応じてくれた。


 そうこうしている内に料理が次々と運ばれてきて、各々のテーブルに並べられていく。食欲をそそる香りが鼻孔をくすぐる。パペティア族の所には魔力補給という事なのか、テーブルに魔石が運ばれたりしていたが……これは魔王国ならではの光景なのだろう。


「さて。では、宴を始めるとしようか」


 メギアストラ女王はそう言って、杯を持って立ち上がる。居並ぶ面々の視線が集まったところで、大きく頷いて口を開く。


「皆が今宵の宴に集まってくれた事、嬉しく思う。そなた達も知っての通り、今宵は魔王国の外より賓客を迎えての宴となる。聞けば彼らの国もまた様々な者達に門戸を開いている国だと聞く。共に歩みを進め、互いに発展を続けていく事ができよう。故に新しい隣人との友情と前途を祝し、ここに宴を開く! 今宵は遠慮なく飲み食いしていくがよい!」


 口上を述べて酒杯を掲げるメギアストラ女王。俺達も魔王国の面々も酒杯を掲げる。


「我らの友情と前途に!」

「我らの友情と前途に!」


 メギアストラ女王の言葉を皆で復唱し、居並ぶ面々が酒杯を呷る。宴会後に調べ物もあるので乾杯用の酒は弱い物にしたそうだ。葡萄酒のようだが……今までの経験からすると自衛手段を持った葡萄だったりするのだろうか。ともあれ、ワインの味は美味である。


 運ばれてきた肉料理は鳥の魔物肉であるらしい。熱した油をかけながら焼いて、タレをかけたものらしいが、これがかなり美味だ。パリッとした皮とジューシーな脂の食感。肉は淡泊ながらも柔らかく、香草で風味をつけたタレと良く合っている。

 白身魚のスープも野菜やキノコをふんだんに使っているが、このキノコはファンゴノイドが育てた物だろうか。


「ん。美味」


 と、白身魚のスープを気に入ったらしいシーラである。

 食事や挨拶が一段落したら、この場でルーンガルドから持ってきたお土産をメギアストラ女王に渡すと話をしてある。

 こうして公的な場で渡す、と言うのが重要だ。魔力楽器等もあるので、後でファンゴノイド達も交えて宮殿の奥で実際にお土産に触れてみたりするというのが良いだろう。

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