番外722 魔王の歓迎
「では、テオドール。十分に気を付けて」
「みんな無事に帰ってくるのを待っているぞ」
「ああ。行ってくる」
そっと俺の髪に触れるティエーラと、拳をこちらに向けて突き出すスティーヴンである。俺も拳を合わせて頷くと、ヴィンクルも拳を出してきたので同じように拳を合わせると、嬉しそうな声を上げていた。コルティエーラにも触れると嬉しそうに明滅する。
「パルテニアラ様、エレナ様、お気をつけて」
「うむ。妾に任せよ」
「はい、ガブリエラ様」
そんなやり取りを交わして肩を抱き合うエレナとガブリエラ。それを見て微笑むパルテニアラである。後詰めのオルディアも「テスディロスさんやオズグリーヴさんにもよろしくお伝えください」と一礼してくる。
『ではな。テオドール。そなたに武運長久があらんことを』
「ありがとうございます」
『メギアストラ女王に、お会いできる時を楽しみにしていると伝えて貰えるかしら』
「はい。伝言も必ず」
メルヴィン王やオーレリア女王と言葉を交わす。
水晶板越しに各国の王にも見送られて、魔界側へと移動する。そうして扉を閉じて……周囲の状況を確認しながら遺跡のシリウス号へと移動した。
「お帰りなさい……!」
アシュレイは、俺達の姿を認めると明るい笑顔で迎えてくれる。
「うん。ただいま」
「お話し合いも上手くいったようで何よりです」
笑顔のグレイスが言うと、カドケウスが猫の姿のまま、尻尾をサムズアップの形にしてくる。
話し合いの結果が良かったから、こうして合図を送ったわけだ。カドケウスを腕に抱えているマルレーンも、にこにこと嬉しそうな様子だ。アルディベラも「小さな者達の決まり事はあまり分からないが、良い方向に向かっているようで何よりだ」と、嬉しそうなエルナータを膝に抱えつつ微笑んでいた。
「――二つの世界の平穏、か。気合が入るわね」
そうして話し合いの内容を詳しく話すと、ステファニアがそう言って、シオン達や双子も「頑張る……!」と気炎を上げていた。動物組、魔法生物組もこくこくと頷いている。
「これで……メギアストラ陛下にも協力できます。どうか……お力を貸して下さい」
エレナがみんなへそう言って頭を下げると、パルテニアラも「妾からも頼む」と、エレナと共に丁寧に頭を下げてくる。そう。そうだな。二人としては魔界成立の経緯からも魔界の不安定さ等に責任を感じてしまう所はあるのだろうけれど。
「それはこちらこそ。二人が力を貸してくれたら嬉しい」
「魔界の人達と平和に交流できたら素敵だものね」
俺が言うとイルムヒルトが微笑む。
「エルベルーレや魔力嵐の事は二人の責任ではないわ。月の民も当事者だものね」
クラウディアも目を閉じて言った。
「王族の責務だと、あまり気負い過ぎない方が、良い結果も出るというものだわ」
「ん。その分、みんなで頑張るのが良い」
ローズマリーが羽扇で口元を隠して言うと、シーラが頷く。
「魔界の平穏に携われるのは……今までの魔人の行いから離れ、新たな道を行く事にも繋がるものでしょうな」
「気負ってはいないが……否が応にも気合が入るというものだな」
「頑張りましょう……!」
オルディアからの言葉を伝えると、オズグリーヴやテスディロス、ウィンベルグもそう言って気合を入れている様子であった。
では――王都ジオヴェルムに戻るとしよう。今度はメギアストラ女王達にも、色々事情を話せるだろうからな。
王都に戻ってきた際、話し合いの結果が好調だった場合は空を飛ぶ乗り物――シリウス号の姿を見せていく、とメギアストラ女王には伝えてある。その時は宿で待っているブルムウッド達も王城で合流する予定だ。
更に、謁見の間で正式に俺達を迎えてくれるという事になっている。なので俺達も礼装に着替える等して、公式の場に望む予定だ。アルディベラとエルナータの服も冒険者風から少し礼装風にアレンジしたものを身に着けて貰っている。
謁見の間で会うのは、ヴェルドガルやベシュメルクを公に迎える事で国交を結ぶという意味の他にももう一つ理由がある。シリウス号の姿を見せる事で状況を動きやすくする、という攻めの意味合いだ。
ファンゴノイドを襲撃した者が何らかの動きを見せるならそれに対応する。その場合、諜報局の仕掛けた探知の網が役に立つだろう。
後は俺達の持つ情報や技術を知恵の樹や迷宮核の分析と合わせて、諸々の問題に解決の糸口を見出せればいいのだが。
ゆっくりとした速度と低高度で王都ジオヴェルムへ向かって飛んでいく。街道を行く魔王国の者達が驚いた表情でこちらを見てくるが、甲板から一礼して見せると、向こうも目を丸くしたまま思わずといった様子で一礼に応じてくれたりしていた。まあ……とりあえず敵意がない、というのは伝わっていると思う。
肩にアピラシアを乗せたコルリスやティールが揃って手を振るとディアボロス族やギガース族の子供達が楽しそうに手を振り返したりしていた。流石魔王国の国民は色んな種族に耐性がある、という印象だ。
そうして王都に向かって飛んでいくと、ディアボロス族、ドラゴニアン、インセクタス族といった面々で構成された騎士団が迎えに来てくれた。残らず礼装で、俺達がシリウス号の姿を見せて現れた場合は道案内として派遣する、という手筈になっている。
「テオドール殿ですな? 我ら飛空騎士団、王命により貴殿の到着をお待ちしておりました! 王城までの護衛と道案内仕ります!」
「よろしくお願いします」
先頭の白い鱗を持つドラゴニアンにそう返すと、シリウス号の周りに隊列を組んで王城まで先導をしてくれる。飛空騎士団か。空を飛べる種族が多いというのは精強だな。
王都の人々もそれを見て驚きつつも、飛空騎士団が護衛しているので危険がないと判断したのか、歓声を上げていた。俺達も甲板に姿を見せて、笑顔で手を振るなどして応じる。
城の堀を越えて、六本の塔の内側にシリウス号を停泊させる。そのままみんなでシリウス号を降り、謁見の間へと向かった。控えの間に向かうと、そこには礼装に着替えたブルムウッド達も待っていてくれた。
「ああ。無事に帰ってきたな」
「ええ。こちらは首尾よくいきました」
「それは何よりだ」
といったやり取りを交わす。そうして……控えの間の扉が開かれるとそこには居並ぶ家臣団と、礼装に着替えたメギアストラ女王の姿があった。
前に出て作法に則り一礼すると、メギアストラ女王が頷いて口を開く。
「遠方よりよくぞ参られた。魔王国を総べる女王としてヴェルドガル王国とベシュメルク王国の友を歓迎しよう。今日この時より、我らの間に永く良い関係が築ける事を願っている」
「お目通りが叶い嬉しく思います。メギアストラ陛下の温かな歓迎のお言葉と、心強い騎士団の先導に、心より感謝します。共に力を合わせ、未来に向かって発展の道を共にできるものと確信しております」
俺達のやり取りに、魔王国の家臣団が歓声と拍手を送ってくれる。魔王国やヴェルドガル、ベシュメルクの名を称える唱和が謁見の間に響き渡る。
それが落ち着くのを待ってからメギアストラ女王は言った。
「宴の用意も進めているが……辺境の外の話は是非聞いてみたいものだ。上の宮殿へ案内する故、面白い話を聞かせて欲しい」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて下さい」
家臣団の中にはファンゴノイドはいない。幻術を纏ったままで謁見の間に姿を見せるわけにもいかないからだ。このまま宮殿の奥へ向かい、そこでファンゴノイド達を交えて諸々の話をする事になるだろう。それと……ルーンガルド側から色々お土産も持ってきているし、それも渡す事ができるかな。




