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番外721 二つの世界の為に

「先程言った乗り物についてですが……後方に控えさせているのです。乗り物側に本国と連絡するための魔道具設備があるので、本国の意向の確認を取って来ようと思っているのですが問題ないでしょうか?」

「問題ない。通常ならばお目付け役等も用意する所なのだが、そういう面倒な事も無しにしよう。ここまでの話や所作で、そなたらが頼りになる事は十分に分かった」

「では……本国との話し合いが上手く行けば、今度は乗り物で戻ってくるかも知れません」

「それは楽しみだな」


 メギアストラ女王はそう言って笑う。

 魔界に起こるかも知れない大災害を防ぐならば……こちらも俺達の知る魔界の情報を開示する必要が出てくるだろう。知恵の樹に関しては、ファンゴノイド達の仲介が必要になるようだし、この辺りの事が話せないとなると情報を持ちながら話せないという事で、不必要な回り道をする事になってしまう。


 そんなわけで門を遠隔解放し、同盟各国への連絡を取る必要がある。ルーンガルド側の同意がないと話せない内容があるというのは……些か説明にも手間取る部分があったが、秘密にしておきたい事情というのがあるというのは分かると、メギアストラ女王やファンゴノイド達も理解を示してくれた。


 メギアストラ女王はファンゴノイド達を信頼しているし、そのファンゴノイド達とパルテニアラの間に確固たる絆があるというのは本当に大きい。互いの話を信用する根拠になるからだ。


 だからメギアストラ女王も、ヴェルドガル王国やベシュメルク王国の所在等、気になる事があっても聞かずにいてくれるのだろう。逆に……俺達としてもティエーラに繋がりの深い高位精霊が危機であるならば、メギアストラ女王に協力する事は確定事項と言える。


 そうしてメギアストラ女王の協力の元、俺達は魔王城から泊まっていた宿まで送り届けてもらったのであった。




 そんなわけで王都ジオヴェルムを後にしてシリウス号へと戻る。

 ブルムウッド達は色々秘密の話もあるだろうし宿で待っていてくれる、との事で。遠慮してくれたのだろう。こっちの話し合いが上手くいけば後で色々事情を話すよ、と約束して一旦別れた。


「おお、無事で何よりだ」

「お帰りなさい……!」


 シリウス号に戻ると、アルディベラとエルナータが笑顔で俺達の帰りを迎えてくれる。


「ただいま。そういって無事を喜んで貰えるとこっちとしても嬉しいよ」


 そう言うとエルナータがにこにこと嬉しそうに笑う。シオン達やカルセドネ、シトリアも、そんなエルナータの様子にうんうんと頷いていたりするが。


「魔王はどうでしたかな?」

「ファンゴノイドを保護していたみたいだ。その関係で過去の事が少し伝わっていて、こっちを信用してくれたよ」

「メギアストラ女王とファンゴノイド、それにエンリーカやディアボロス族も……信用して大丈夫そうね」


 オズグリーヴの質問にそう答えると、エイヴリルも自分の見解を説明してくれる。マルレーンもこくこくと真剣な表情で頷いて、信用できる面々だったと伝えようとしてくれている。


「それは何よりだ」


 テスディロスが静かに頷く。


「まだ話せていない事はあるけれど……その辺の事はこの後の話し合い次第かな」

「上手く行くと良いですね」


 そうして人員の点呼が終わったところでアルファに地下拠点に向かっての移動を指示する。パルテニアラとエレナに遠隔操作で門を開いてもらうにしても、門を開いている間に何があっても対応できるようにしておいた方が良いからな。

 続いて地下拠点の状況を聞くために、アルクスのスレイブユニットに質問をする。


「アルクス。周囲の状況は?」

「拠点の周辺に問題はありません。門を開くのであれば、本体もティアーズ達と共に警戒態勢を取ります」

「それじゃ、よろしく頼む」


 というわけで地下拠点側も問題なさそうだ。エレナとパルテニアラに門を開いてもらい、魔王と面会した事、信用できそうな事。

 魔界の危機を解決するために魔界誕生の仕組みについて明かす必要性が出てきた事。その為に同盟各国の王に連絡を取りたい事等々を纏め、通信機で送信する。

 こういう場合の態勢もきっちり整えてあって、ややあって通信機へメルヴィン王からの返答があった。


『既に同盟各国の王への連絡は取りつけた。そなた達が地下拠点に戻る頃には水晶板を介し、話ができるように手筈を整えておこう』


 よし。一先ずはこれで大丈夫そうだ。一旦門を閉じ、迷彩フィールドを纏ったままで地下拠点に向かって飛行する。


「話し合い……上手く行くと良いですね」

「ティエーラの事もあるからね。ここは頑張らないといけないな」


 少し心配そうなグレイスの言葉に頷く。説得が上手く行けば……或いは迷宮核の演算能力等も問題解決の為に使えるかも知れない。ファンゴノイドの襲撃者が本当に事件の背景にいて、それに対抗するにしても、問題の性質を考えるなら武力以外の物が必要になる場面があるだろうからな。




 そうして、エルベルーレの遺跡にシリウス号を停泊させ、俺とエレナ、パルテニアラと言う顔触れで地下拠点へと移動する。門を開くとティエーラ、コルティエーラ、ヴィンクルにガブリエラ、スティーヴンといった後詰めの皆が待っていてくれた。

 水晶板モニターを浮遊要塞の最深部に並べて、会議の準備も万端といった所だ。通信機で戻った事を連絡すると、水晶板に各国の王、女王が姿を見せる。ベシュメルク代表は摂政であるクェンティンだ。ガブリエラとエレナ、パルテニアラも同席しているけれど。


『ああ、テオドール。無事で良かった』

『よくぞ戻ってきた』


 と、デメトリオ王やイグナード王が相好を崩す。俺からも各国の面々に挨拶を返しつつ、それが済んだら早速本題に入る。


「まずは……魔王国で見てきた事、聞いた事の経緯についてお話します」


 魔王の知られざる役割と、知恵の樹等の情報については、魔王国側との約束として具体的な部分は伏せつつ、ルーンガルドの存在は知らなかったがパルテニアラの事を知っていた事、魔界が不安定で大きな天変地異が起こる前触れがあるので、その解決に協力を求められた事を伝えていく。


 メルヴィン王達は真剣な表情で俺の話に耳を傾けていた。魔界にもティエーラのような高位精霊が生まれていて、魔王はその精霊と接点がある。天変地異を防ぐために深奥に篭っているという事を伝えると、王達は勿論、ティエーラやコルティエーラも驚きの反応を見せていた。


『ティエーラ様。今のお話は……』


 エルドレーネ女王が視線を向けると、ティエーラは静かに頷く。


「他の精霊達も、元は私から分化して生まれた物です。魔界が生じる際に流れ込んだのが暴走させてしまった魔力だけだったとしても……後でそこに精霊が生まれるのは不思議ではありません。魔界の不完全さ故に歪み、綻びが生じるというのならば、破滅を遅らせる為に深奥に篭り活動を控えているというのも……精霊側の対処法としては正しいものでしょう」


 ティエーラの言葉を肯定するように、コルティエーラも明滅を繰り返す。


「――従って、魔界の天変地異を止めようとするならば、私達の知識も必要になってくるように思うのです」

「魔界に起こる天変地異がどこまでの規模になるかは分からぬが、隣り合う関係のルーンガルド側に影響が出ないとも限らない。魔界の門の隠蔽にも関わる」


 エレナとパルテニアラが自分達の見解から俺の言葉を補足してくれる。

 そして魔界に生まれた高位精霊も……助けないという選択肢はない。避難させればそれで済むものでもない。話し合いで許可が出るにせよ出ないにせよ、俺自身はこのまま問題解決に力を尽くすつもりだという事を、はっきりと伝える。


『だからこそ、全面的な協力をしようと思うのならば、魔界の成り立ち――門の事も明かして知識や手段を総動員した方が良い、というわけか』


 ファリード王が静かに言う。水晶板に居並ぶ各国の王達も、真剣な表情で思案を巡らせているようであった。門の事を明かすのならば、その後の事も考えなければならない。今代だけではなく、未来においても色々心配しなければならない事はあるだろうから。例えば、双方向での侵略の可能性。それもゼロではない。

 そんな中で最初に口を開いたのはメルヴィン王だった。


『余は……全面的な協力を支持する。未来においての懸念や考えねばならない事柄が増えるのは確かではあるが、他国との関係を良好な物に保ち、軋轢を減らす努力をするのは王の務め故。矢面に立たんとする忠臣をここで支援せずして、何が主君足りえようか』

『確かに。魔界の問題は一国に留まらず全ての国々に波及する問題ではあるが、世界の危機ならばこそ、まずはそれを解決する道筋から障害を排除するのが最優先事項だろう。ドラフデニアの王として、全面協力の方針を支持する』


 メルヴィン王がそう言うと、レアンドル王も同意してくれる。


『その後の事は余らの仕事となるか。確かにな。かつて呪法の民と争った月の民の末裔としても、此度の事は捨て置けぬ』


 そんなエベルバート王の言葉に、他の王、女王達も俺を見て頷き、方針を支持をすると言ってくれる。結局全面的な協力への反対意見は――どこからも出なかった。


「――ありがとうございます」

「私からも、お礼を言わせて下さい。魔界への影響が未知数なので、私は動けませんが……だからこそ嬉しく思います。」


 俺が一礼すると、ティエーラもまた胸のあたりに手を当て静かに感謝の言葉を述べた。コルティエーラも静かに明滅し、ヴィンクルが嬉しそうに声を上げていた。


『そういうわけだ。またテオドールに苦労を掛けてしまうが……』

「いえ。背中を押して頂けて安心しました。心置きなく魔王との協力体制を整え、問題を解決して来ようと思います」


 笑ってそう答えると、メルヴィン王達も水晶板の向こうで相好を崩した。


『頼もしい事だ。だがまあ、その後の展望も良い材料が揃っていると思っておるぞ。魔界を司る精霊殿がいるというのであれば、世代を超えて二つの世界の平穏を守る道筋も、案外付けやすいかも知れぬ』

『確かに。メギアストラ女王も話を聞く限り一角の人物。後世で混乱が生じる前に諸々整備するならば好条件が揃っていると言えましょう』


 メルヴィン王の言葉にクェンティンもそう言って、王達は頷き合っていた。


『では、決まりですね。我らが同盟に連なる者達の名代として、魔界と魔王国が抱える問題の解決をお願いしたいと思います』


 と、オーレリア女王がそう言って場を纏める。俺ももう一度一礼し、各国の王達に応じるのであった。

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