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番外720 魔王の秘密

「僕達も、お伝えできる事をお話したいと思います。パルテニアラ様が過去移住すると仰った通り、僕達は魔王国の外から来ました。こちらの状況が不明であるため、高速で移動できる乗り物と共に調査に来た、というわけですね」


 魔王がいる、と分かった段階で俺達は一旦ヴェルドガルに戻っているしな。

 国民に接触した場合と魔王に接触した場合。状況別に伝えられる情報、伏せるべき情報というのは相談して合意を得ている。

 魔王国内の状況と魔王の人となり、知っている情報。それら如何によってはルーンガルドの事を明かして協力体制を取る、というのも視野に入ってくるが、さて。


「僕達はヴェルドガル王国という国の領主です。パルテニアラ様とエルメントルード殿下は隣国ベシュメルク王国の王族で……エルメントルード殿下はパルテニアラ様の子孫、という事になります。ベシュメルクの国元ではパルテニアラ様は始祖の女王と敬われています」


 そう説明すると、パルテニアラとエレナが揃って頷く。ファンゴノイド達が「おお……」と歓声を上げて視線を集めると、エレナは若干気恥ずかしそうに笑って応じる。


「外国の領主、か。……ふむ。我が国における結晶官のようなものなのだろうが、何故ここに?」

「テオドール様は近隣国でも名うての魔術師です。私達の国に暴君が現れた時も、協力して私やパルテニアラ様の助力をしてくれました」

「元々ベシュメルクでは移住前の土地の情勢――魔王国では辺境と呼ぶ土地を定期的に調べていたのだがな。暴君の出現でそれも長らく途切れてしまい……こちらの状況が不透明であった。ベシュメルクの国内情勢の問題もあるために恩人であるテオドール公に協力を頼んだ、というわけだ」


 そこでディアボロス族と出会った事、乗り物があるので広範囲に調査に向かえた事を話す。


「そうだったのか……」

「道理であの場所で出会ったわけだ」


 と、ブルムウッドやヴェリト達も驚きつつも納得している様子であった。エルベルーレの遺跡とパルテニアラの関係にも何となく勘付いたのかも知れないが。


「なるほどな。そなた達にとって未知の国と国王であれば、野心を持つかどうかも分からない故に警戒もする、か」

「本来なら使者を立てて正式に面会するべきだったのでしょうが……まず調査からになってしまった事をお詫び致します」

「構わぬさ。未知であればこそ慎重になるというのは理解できる。余とてそうするであろう」


 メギアストラ女王はそう言ってから思案するような仕草を見せた。


「ふむ。だが、そういうことであれば尚更か。この状況でそなた達と出会えた事は僥倖と言えるのかも知れぬ。テオドール殿も……相当な御仁のようだしな。では、余らの抱えている問題について話をしようか」

「分かりました」


 俺の返答にメギアストラ女王は頷いて、言葉を続ける。


「では……魔界と魔王の関係、というものについて話をしよう。余は統治者であると同時に、この世界の調整役でもあるのだ。というのも、この世界は不安定なのだな。この世界を司る高位精霊の意に反し、時折龍脈が淀み、天変地異を起こす事がある。過去にはその度に犠牲が生まれていた」


 高位精霊か。原初の精霊から分化した、魔界を司る精霊という事だろう。ティエーラにとっての娘と言うべきか妹と言うべきかは分からないが。


「初代魔王陛下は……その事に気付き、精霊様や我らと共に、淀みや歪みを取り除く浄化の儀式を完成させました。以来、魔王は魔界をあるべき姿のままに保つ、という役割を担っているのです。各地にある想念結晶も……治世の為だけではなく、浄化の儀式の為の補助に使っている部分があるのですな」


 ボルケオールが言う。

 なるほどな……。魔王はその役割を担えるものでないと後継者になれない、というわけだ。調べ物では後継者の選定基準等がはっきりしなかったが、為政者としての能力だけでなくそうした儀式を行える人材でなければならない、と。


「そして魔王国建国以後……浄化の儀式によって魔界は安定した環境を手に入れ、今日まで緩やかに発展をしてきた……はずだったのだがな」


 メギアストラ女王は眉根を寄せて目を閉じる。


「近年になって歪みや淀みの生じる速度が急速に増しているのです。精霊もその進行を遅らせるために地下深くの深奥――己の依代に座して身動きが取れず……」

「もしこのまま淀みの阻止ができない場合、今までに比べても大きな規模の天災を引き起こす可能性がある、と精霊は言っていた」


 それが……メギアストラ女王達の抱えた問題か。

 今までよりも大きな規模。元々不安定だったそれを儀式で保っていたというのなら、災害の規模次第では魔界の崩壊を招く可能性だってある。そうなった場合の影響は未知数だ。ルーンガルドに住む俺達とて、他人事とは言えまい。

 そもそも……パルテニアラもエレナも、ベシュメルクの出自としては見て見ぬふりもできないだろう。今の魔王の話に、少し浮かない顔をしている。そしてそれは……ティエーラの友であり、月の民の系譜でもある俺達としても、だが。


「もしかすると、ですが、巷の魔力増強薬を買い集めていたのはそれが理由ですか?」


 何となく思い浮かんだ疑問を口にするとメギアストラ女王は頷いた。


「その通りだ。大量の増強薬を使ってそこから結晶を作り、儀式の補助とするつもりでいる。原材料の同じ魔法薬が高騰してしまっている事も報告として上がってきている。それがバジリスクの遅毒の特効薬にも影響を及ぼすというのは……こちらの落ち度だ。ブルムウッドには……済まない事をしたな」

「いえ。理由を聞けば納得するばかりです」


 メギアストラ女王の言葉にブルムウッドは静かに答えた。どうやら魔王まできちんと報告は上がっていたようだな。


「先程近年、と言っていたけれど、それは何時頃から始まった事なのかは分かっているのかしら?」


 クラウディアが疑問を口にする。それが起こり始めた時期から考えれば……原因を特定できるかも知れない、と考えての事だろう。

 そんなクラウディアの疑問に、メギアストラ女王は迷うことなくはっきりと答えた。


「賢人達が移住して暫くしてから、だな。余としては件の襲撃者が賢人達の行方を追えなくなり、何らかの関与をしたのでは、という可能性を見ている」


 具体的な時期も教えてもらったが……ふむ。ザナエルクの事で魔界の扉が触れられなくなったとか、その辺りの事は関係なさそうだ。そもそも魔界の扉に関しては触れられずに地下に残っていたしな。


 しかしこれは……。魔界の事だから無関係とはもう言えないな。

 大災害が起こった時、魔界の扉が何時までも無事に地下区画にあるとは限らないし、魔界が崩壊するような事態になったとして、魔王国の住民を避難させればそれで済む、というようなものではない。

 他の誰が避難できたとしても――ティエーラから分化した世界で生まれた精霊は、この世界そのものであり、どこにも行けないからだ。全面的な協力も視野に入れるべき問題だと言えるだろう。


 だが……だからと言って話を通さずにこちらで全て進めてしまってもいいかというのは違う。こちらも事情を明かし、お互い協力して解決しなければならない事があると、ルーンガルド側にも話を通すべきだろう。上手く話を運べば……魔界側との国交を持ち、将来的にも魔界の扉の安全を確保できるかも知れない部分がある。


「全面的な協力を行うには国元にも許可を求める必要があります。ある程度僕達の判断に任せると、委ねられている部分はありますが……それでも重要な事ですから。勿論魔王国側としても明かせない事情がある、というのも理解していますので、そのあたりは伏せて伝え、後はこちらの権限で動く、という事になります。いずれにせよ、協力する事そのものはお約束します」


 全面的な協力か、ここにいる面々での個人的な協力か、という話だな。


「なるほどな。では、その返答については待たせてもらうとしよう」

「儀式までの猶予は?」

「少しは融通が利く」


 そう言ってメギアストラ女王は笑った。では決まりだな。襲撃者の事など気になる事はあるが……俺達の協力で、問題解決の為の糸口が見つかれば良いのだが。

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