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番外715 魔王城への招待

「魔王城への招待ですか……。随分と急に状況が動きましたね」

「今日までの私達や監視員の皆さんの行動で、何か監視の目を緩めて注目されるような内容があった、という事でしょうか?」


 グレイスが真剣な表情で言うと、アシュレイも目を閉じて思案する。


「ファンゴノイドの事で俺達に注目して、監視からは通常の報告をしていた、という認識みたいだけどね」

「ん。見慣れない変異種だから魔王国の一員として歓迎する……とかだったら気楽だった」

「そうですね。魔王国の理念から言うと、それもあっても不思議ではないですが」


 シーラの言葉にエレナが小さく笑って頷くと、クラウディアが苦笑する。


「そうだったら嬉しいけれど……まあ、この場合は他の用件と思って考えておいた方が良いわね」


 もし変異種だからという事であれば普通に歓待を受ければ良いだけの話だ。話し合いが杞憂で終わるならそれに越したことはない、という事で。


「罠の可能性は……少なそうよね。部下にまで嘘を吐く必要はないもの」


 ステファニアが言う。そうだな。エンリーカは少なくとも誇りを持って仕事をしていたようだからな。こっちに敵意があるのなら最初から身内にはそう言う。監視者達の任務を取り下げ、交渉に当たるエンリーカにまで嘘を吐いて仕事をさせ、心象を悪くしたりする必要はないだろう。


「とはいえ見慣れない変異種族である、というのは関係しているかも知れぬな」

「確かに。上まで話が通ったのも、過去の事件や変異種というのを重視した結果、というのはありそうな話だわ」

「或いは――ファンゴノイド経由で過去の事が何らかの形で伝わっている、とか?」


 パルテニアラが言うと、ローズマリーとイルムヒルトも各々考えを述べていた。

 ファンゴノイドの調べ物をした結果としては、個体の寿命は人間より長いものの、そこまでではないようだからな。流石にパルテニアラの事を記憶している個体がいる、とは思えないが……。何らかの形で記録していても不思議ではないか。


 何故俺達に注目し城に招いたのかも、現時点では推測の域を出ない。エンリーカの心情や監視員達の動きから「罠ではなさそう」という時点で魔王に会わないという選択肢も無いだろう。ならば今日と明日の動きで慎重に見極めていくしかないな。


 そういった考えを話し合い、それから誰が一緒に行くかについても決めていく。


『向こうがこちらを監視していた以上は、人数も把握されているわけですし固まって行動する方が良いのかも知れませんな』


 オズグリーヴが言う。


「そうだね。残った面々は結局別働隊として見られるし、招待に応じない者がいるなら警戒していると思われるか。みんなで招待に応じよう」


 俺がそう言うと、マルレーンもこちらを見てにっこりと微笑み、みんなも頷く。では、決まりだな。

 シリウス号側の面々がいる以上は後詰めに関しては問題あるまい。使い魔もシリウス号側に控えているし、互いに水晶板モニターで双方向の状況が分かるので連係は問題ない。戦力が分散するよりは固まっていた方が、というのもあるしな。


『もしテオドール達を騙し討ちするような輩ならば、ひと暴れするのも吝かではないな』

「いやまあ……それは最後の手段という事で。俺達の諍いに巻き込むのも悪いからね」


 アルディベラの言葉に苦笑して答える。そんなアルディベラの言葉に、動物組や魔法生物組も含めたシリウス号のみんなは気合を入れている様子であった。


「俺達はどうする?」

「一緒に行って雇っている事は伝えた方が良いかな。どっちにしてもこっちの面は割れているし、俺達にしか聞かせたくない事があるのなら、向こうで配慮してくれると思うから」

「了解した」


 ブルムウッドに答えるとディアボロス族の面々も各々同意してくれた。


「では……私も目として気合を入れさせてもらうわ」

「ん。なら、エイヴリルの事はきっちり護衛する」

「私も、守りの術を施しておきます」


 エイヴリルが言うとシーラが応じ、エレナも気合の入った表情で言った。

 エイヴリルが目の役割になるというのなら、同様に感覚に優れたシーラと組んで動いた方が良い。そしてエレナが呪術的な防御も施して目や耳の役割になっている面々を守る、というわけだな。

 そうして……有事の際の動きをあれこれと話し合い、夜は更けていくのであった。




 迷彩フィールドを纏い、朝に当たる空の色を見計らって司書のカーラに会いに行く。ウィズを変形させ、フードを被った状態で路地に行って迷彩フィールドを解き、それから家のドアを叩いた。


「どちら様でしょうか?」

「テオドールです」


 ややあって扉の向こうから声をかけてくるカーラにそう答えると、すぐに扉が開いて顔を見せてくれる。


「ああ、テオドールさん」

「早い時間からすみません。少し慌ただしくなりそうなのでお伝えしておきたい事がありまして」


 と、監視の目が無くなって警戒を解いてもらったが、城から呼ばれている事を伝える。カーラは……というかパペティア族は、表情が動かない分、ジェスチャーやら相槌の声色で感情を相手に伝える傾向があるようだが、驚いたり心配してくれているようだ。


「まあ、招待を受ける、受けないの選択はしても良い、受けない場合は忘れるようにと言われていますので、心配はいらないと思います」

「それは……魔王陛下はお優しい方ですからね」


 そうだな。国内は安定しているし想念結晶の事もある。国内事情が分からなかったから余所の者である俺達への態度が分からないところはあったが、色々な動きを見ている限り今回は騙し討ちの心配はいらなさそうだとは思っている。


「そうですね。僕も大丈夫だと思います。図書館の探知魔法についても一応状況を見て大丈夫そうなら伝えるつもりでいますので後の事は任せて下さい。逆に……もし何か大事になるようなら、この事は僕達にも言われたように忘れて触れない方が良いでしょう」

「それを伝えに来て下さったんですね。ふふ、テオドールさん達もお優しい方です」


 と、カーラは楽しそうな笑い声を上げ、そんな風に言うのであった。




 そうして――カーラの所から戻ってきて暫く待っていると、宿の前に馬車、ならぬ大きな狼の牽引する車が停まる。どうも犬科の動物の変異種のようで、魔界では飼い慣らして車を引かせたりしている他、騎馬ならぬ騎狼として使っているようだ。狼車、と言われているらしい。

 車体の装飾は立派な物で、魔王城からやって来たもの、というのがはっきり分かる。エンリーカも正装で……しっかりと客人としての扱いをするというのを示してくれているようだ。俺達も宿一階の待合室で待機していたのだが、こちらの姿を認めるとエンリーカは一礼してくる。


「返答を聞きに参りました」


 エンリーカも昨日とは少し言葉遣いを変えて、公式に準じるというのを伝えてくれているようだ。


「謹んで招待に応じます。雇っているディアボロス族の方々も含め、宿にいる全員で向かいたいと思っているのですが大丈夫ですか?」

「勿論です。宿に人数分の狼車を用意させるので、少々お時間を頂きますが」

「問題ありません。元々招待前に返事を聞きにいらっしゃるという約束でしたからね」


 といったやり取りを交わし、そのまま宿で待機する事になる。

 最初から車列を用意していなかったのは、こちらが招待を断った場合を考えての事だろう。何の用件で来たかは他の者には分からないから、断っても魔王側の面子は傷付かないというわけだ。それで別れてお終いにする、という事もできたが……向こうが気を遣ってくれているのが分かるのに、会わないという選択肢はないからな。


 魔王と魔王城か。俺達にどんな話をしたいのか。気合を入れて面会に臨むとしよう。

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