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番外711 尾行の心得

そのまま技術関係の書籍を見て、魔王国内の技術の推移について確認していく。


「この系統の書籍には……探知魔法の仕込みはないようだね」


 みんなにもそう伝えて、カウンターで仕事をしながらこちらを窺っていたカーラにも視線を送り、一度頷いて大丈夫、という事を伝えておく。


「これで調べ物を始められそうですね」


 と、グレイスは微笑んで言う。カーラも少しだけ胸を撫で下ろすような仕草をこちらに見せてから仕事に戻っていた。


 他の図書館の蔵書を色々調べてみたいところではあるのだが、開館時間直後と違って段々と他の人も増えてきたのであまり堂々と術を使うわけにもいくまい。それらを調べるのはまた次の機会ということにしつつ、みんなと調べ物の続きに移る。


 技術の発展、推移について調べるという事で、今度は調べるべき書籍の種類が割と多岐になってしまったのが困りものだ。

 技術史として一纏めにしてある書籍があれば話も早かったのだがそうもいかず……結局治水治山、農業、流通、建築、医療、軍事、魔法技術等々の多岐に渡り、しかも地方と中央の近年の発展度合いについて調べる事になってしまった。


 技術というのは専門的な知識が必要なもので……基本的にはそれぞれの既得権益や関係者を守る為に秘匿されている。だから結局地理関係と同様に、一般開放されている書籍では上澄みとなる浅い部分しか情報を得る事ができない。


 まあ……大まかな発展の推移を見るだけなのであまり深い所までは調べる必要はないし、これはこれで魔王国の理解にも繋がるとは言える。


 とは言え……朗読による翻訳もみんなかなり慣れて来ていて、ディアボロス族の面々に一緒に本文に目を通してもらわずとも、各々作業を進められるようになってきている。

 マルレーンはと言えば、口語で読んでも分からない単語が出てきた時に辞書で調べて確認する、といった補助に回ったりしてくれているようだ。


 ディアボロス族の面々も手が空いて書籍を読み込む側に回ってくれて……書籍を読む人数が増えたのでより効率的に調べ物を進める事が出来るだろう。


 俺も翻訳の魔道具を活用して朗読で書籍の内容を調べつつ、ウィズ、カドケウス、それからシリウス号側にいるバロールとも五感リンクで中継をして、みんなと総動員で調べ物を進めていく。


 ウィズもそろそろ魔界の文章を音読無しで翻訳できる程度にデータを蓄積しているからな。五感リンクをしてやればこうした事も可能というわけだ。


 シリウス号側にも翻訳の魔道具はあるのでシーカーやハイダーがテーブルの上でページを捲って中継。それを船に残っている面々が交代で音読するなどして更に人的リソースを増やしていく。


『ふむ。我らも小さき者の文字を覚えてみるか』

『うんっ』


 と、アルディベラとエルナータも翻訳の魔道具を付けて音読に参加していた。どうやらエルナータが興味深そうにしていたから、アルディベラも乗り気になったようだ。

 ファンゴノイドに関してはカーラへ聞き込みに来た者の存在や書籍に仕込まれた探知魔法等、キナ臭い雰囲気もあるのだが……そんな中でもベヒモス親子の姿はみんなにも微笑ましく映るようで、二人の姿を見て笑顔になったりしていた。お陰で……俺も肩の力を抜いて調べ物を進める事ができたのであった。




 そうして図書館で調べ物をした結果だが、近年の魔王国については……主に魔法技術を他の分野に応用する方向での技術発展が目覚ましい、という事が分かった。

 これについては王立の研究機関で、魔法院というものが存在しているそうで、アルボス=スピエンタスという名高い魔術師が色々と発明や発案をしているというのが分かった。

 アルボスなる人物についてはディアボロス族も聞いた事があるそうだ。


「果実の品種改良を行ったって話は聞いたな。甘味が強くて攻撃性の薄い果樹を選別して掛け合わせるとか何とか」

「医療の面でも色々新しい治療法を考案したりしているらしいな。例の薬屋で話を聞いた事がある」


 ブルムウッドとヴェリトがそんな風に言った。


「主に内政分野での活躍をしている印象があるかな。軍事に関しては……国が安定している事もあってよく分からないけれど」


 問題は……アルボスが頭角を現した時期というのが、ファンゴノイド達のいなくなった時期と被っているという点だ。

 今までの推測と合わせると関連を疑ってしまうというか。


「魔法院であれば装丁の中に仕込む術式や、連動した魔道具を準備したりも……可能でしょうね」


 クラウディアが目を閉じて言う。そうだな。裏にいるのが魔法院やそこから繋がる誰か、という推測は納得しやすいものではある。


「魔法院の動きには注意を払っておいた方が良さそうですね」

「そうだね。仮に関わりがあっても無関係を装うだろうけれど、尚の事繋がりがあるかは注意して見ておいた方が良い」


 真剣な顔で言うアシュレイの言葉に、俺も首肯する。そうしてシリウス号側と認識を共有し合い、もしもの時のために俺達の泊まっている宿やカーラの自宅の場所を教え合ったりして、今日の調べ物を切り上げたのであった。




 というわけで……街中をゆっくり歩いて宿に戻る。シーラとイルムヒルト、エイヴリル、カドケウスには周囲の状況に警戒を払ってもらう。


 カーラに聞き込みに来た人員についてはマルレーンのランタンを使ってもらい、どんな人物だったか教えて貰っているが、仮に公的機関の所属であるならば人員もいるだろうから、俺達の監視や尾行には別の者を使っていてもおかしくはない。


 カーラへの聞き込みを行ったので、接点のある俺達に話をするかも知れない。そこから人相などの情報が俺達に漏れているかも知れない……といった予測を、向こうがしないとも限らないからだ。


 だから、カーラと接触した人物は勿論の事、それ以外に俺達に対して不自然な動きをしている者がいないか、しっかりと警戒しておく必要がある。


「ん。図書館を出てここまでで、尾行者らしき相手は確認していない」


 と、フード付きの外套風に変形したウィズを被ったシーラが言う。フードの中では幻術を使って背後の視点をシーラの視界の半分に映し出しているわけだ。普通に移動しながら前後を索敵できるという寸法だ。


 尾行というのは技術だ。相手に目線が合って気付かれたり、顔を覚えたりされてはいけない。だから視線は少し落とす事になるし、見失ってはいけないから歩調を合わせて距離を一定に取る。

 シーラのようにそうした技術を持っているならば、尾行の為に理に適った動きをしている相手は逆に目を付ける事ができるというわけだな。


「角待ちの警戒をしている者も見当たらないな。エイヴリルは?」

「私達に不自然な感情の色を向けてくる人は……いないわね。見慣れない種族だから好奇というのが一番多いから、それ以外の感情は逆に目立つから、間違いないわ」


 との事である。そうだな。尾行しているのなら警戒だとかそう言った感情の色になるはずだ。


 カドケウスも影の濃い場所から濃い場所に滑るようにして、俺達の所に戻ってくる。

 尾行の方法というかノウハウは色々あるが……する側の視点に立った場合、角を曲がった後、というのは要注意だ。追跡対象が警戒していて角で待ち構えていたとか、少し離れた場所で様子を窺っていたという事もあるし、遮蔽物で隠れた瞬間というのは追跡を撒く機会にもなる。


 対策を施すなら複数の人員で追跡を行う事、だろうか。要所要所に人員を配置しておき交差点でバトンタッチをするように交代すればいいのだ。

 途中で交代しながらであれば顔を覚えられる危険性も減り、角待ち等の対策を潰す事が出来る。


 だがまあ、カドケウスに後方を確認してもらったが、そうした行動をしている相手も見つからなかった。


「図書館からの尾行者はいないと見て良さそうね」


 ステファニアが安堵したように軽く息を吐く。そうだな。警戒網に引っかからないならばそうだろう。


「驚いた。そういうことにも慣れているんだな」

「一応、国元では冒険者――魔王国で言うところの狩人のような仕事をしていた時期もありますからね」


 と、目を丸くしているブルムウッド達に笑う。


 さてさて。そうやって複数で体制を万全にして尾行や追跡を行うならば、全員が相手の顔を把握している必要がある。昨日の時点でファンゴノイドを調べている俺達の存在に気付いたというのなら、今頃は聞き込みをして宿の場所を特定している頃合い、だろうか。となると、俺達を実際に見て、人相や特徴を仲間に伝えられるようにする、という段階かも知れない。


「それじゃ、次に警戒すべきは定点での監視かな。宿屋に戻るところで注視しておこう」


 そう言うと、みんなも真剣な表情で頷くのであった。

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