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番外706 魔力増強剤の行方

 そうしてそれから、数日に分けて図書館通いの日々となった。

 地理関係についてもある程度把握ができた。まあ、聞かれるような場面があれば西の海の向こうから来た、ということにしておくのが無難そうだ。

 海もご多分に漏れず、というか魔界でも相当危険な部類の場所で……外洋の航路開拓ができない、というような状態らしい。


 船ごと食い破るような怪物が普通にいるのだとか。

 ディアボロス族やドラゴニアンは空を飛べるけれど、それでも翼を休める場所が必要なので、結局単身で外洋に出るというわけにもいかず……。陸地近辺の漁場と、地底海なるもの以外は海を利用できていない、との事である。


 そう……。地底湖ならぬ地底海というものがあるらしい。

 王都近辺の話ではないが、地下水脈に海水が流れ込んでいるそうで、大型の魔物が入り込みにくい環境であるため、豊富な水産資源を入手出来る他、水棲系の種族が交通路としても利用しているという話だ。

 勿論地下水脈なので淡水部分もあり、大小の地底湖や地上部分に泉として湧き出している部分があるのだとか。

 複数の都市に跨って交通路として使われているので、かなり広範囲に水脈が広がっているという事なのだろう。


 その他にも魔界の……というよりは魔王国のあちこちやその周辺について、上澄み程度の地理情報は得られた。軍事に直結してくる内容だけに図書館で閲覧できる書籍では具体的な所までは分からないが、まあ、辺境に関しては国内ではないだけに研究や題材にしている書籍もいくつか見受けられたので、順当に情報を得られたというところだ。


 とまあ、そんな調子で情報収集を重ねているわけだ。ここ数日宿と図書館を移動して定期連絡を入れるというようなサイクルであったが、宿から図書館に向かおうとしたところで何かを見つけたヴェリトが言った。


「ああ。あれだ」


 と、ヴェリトが指差す先には、とある店から出てきた文官と兵士の姿があった。その手には木箱があって、そこには硝子の瓶が複数収められている。瓶は薄紫色に光を放つ液体が満たされているが……。


「魔力増強薬かな?」


 何となく言いたい事が分かったのでそう尋ねると、ヴェリトが首肯する。


「苦労が増えたから色合いを覚えたっていうか……まあ、誰が悪いってわけでもないんだがな」

「知り合いだな。少し事情を聞いてきてみるか?」


 ブルムウッドが言う。ブルムウッドはかつて王都で働いていたからな。顔見知りは――特に兵士達の間には多いだろう。


「では……お願いします。少し離れたところにいますので、カドケウスを連れていってくれると助かります」

「分かった」


 ブルムウッドは頷いてカドケウスを影に潜ませると店から出てきた文官と兵士の方へと歩いて行った。

 俺達が一緒に事情を聞きに行くと、見慣れない種族という事で不審がられてしまう可能性があるからな。その点ブルムウッドなら面識があるから声をかける事に問題はない。


「久しぶりだな」


 と、ブルムウッドが声をかけると、二人とも明るい顔になり、笑顔で挨拶をしてくる。


「おお、ブルムウッドか……!」

「中央に帰って来ているとは聞いてたが、久しぶりだな!」


 そう言って挨拶をし合うブルムウッドと二人である。中央には依頼で来ている事等、世間話を交えつつ、ブルムウッドは本題を切り出す。


「実は……バジリスクの遅毒を患っちまってな」

「そうだったのか……!? 大丈夫なのか?」


 文官の方は蝶の特徴を持つインセクタス族。兵士の方はディアボロス族だ。兵士の方だけでなく、文官の方にもバジリスクの遅毒という病名が分かるのか二人とも驚きの反応を見せていた。


「ああ。そっちは薬を飲んだから一先ず落ち着いてる。だが、その薬と原材料が同じなもんだから、薬の値段が高騰しちまっててな」

「それは……災難というか、申し訳ない」


 ブルムウッドの言葉に、二人は眉根を寄せる。


「ああいや、それが悪いってわけじゃないんだが、中央は把握しているのかと思って一応声を掛けたんだ」


 ブルムウッドがそう言うと、二人は納得したというような表情を浮かべた。


「分かった。私から報告は入れておく」

「よろしく頼む。しかし、魔力増強剤か。そんな大量に集めて何に使うんだか」

「それは……任務だから知っていたとしても我らの一存では話せないな。済まない」

「分かっているさ」


 ブルムウッドは笑う。使い道については疑問に思って独り言をいったという印象があったからな。彼らの職業倫理的な部分もあるので、顔見知りでかつて同僚だったブルムウッドとしてはあまり無理に聞くのも気が進まないのだろう。


 だがまあ、それで良いと思う。魔力増強剤の届け先だけカドケウスに追って貰って調べておけば今はそれで良いだろう。




 魔界はルーンガルドより薄暗く、間接的な照明が多いのでカドケウスとしては動きやすい。文官と兵士の行先を追うと、彼らは確保した薬を中央の城へと運び込んでいた。


 その話をするとブルムウッドは静かに頷く。


「中央の城となると……魔王陛下からの指令なのかもな。理由は知らずとも、任務の秘匿という点では揺るがないように感じられた」


 なるほど。面識があるだけにそうしたブルムウッドの見立ては参考になるな。少なくとも中央の魔王城関係者が魔力増強剤を欲している、というところまでは間違いがないだろう。


「あの方達は知っていたとしても、と仰っていたようですが……その印象からすると薬を集める理由については知らないという事を暗に教えてくれたのかも知れませんね」


 グレイスが言うとブルムウッドは「そうかも知れないな」と言って、目を閉じていた。顔見知りだから、お互いに思うところがあるのだろう。


「王城への報告に関してもしっかりしてくれそうな雰囲気ですね」


 アシュレイがそう言うとマルレーンも微笑んで首を縦に振る。そうだな。そうなればバジリスクの遅毒の特効薬に関しても何かしら対策や配慮を練ってくれるかも知れない。

 と、そんな話をしていると図書館の前にカドケウスが戻ってくる。さて……。では今日も調べ物を進めていくとしよう。




 魔王国での歴史的な出来事。国内外の地理情報といった調べ物は進める事ができた。

 地理情報そのものは上澄みではあるが、過去の歴史と合わせて調べればどんな地方にどんな種族が住んでいて、その地方の特色は何かというところまで見えてくる。


 この辺はアシュレイ、クラウディア、ローズマリー、ステファニア、パルテニアラと共に、調べた情報から大雑把な地図を作って種族の居場所を書き込んだり、それに伴う特色などから経済的な流れを推測している。


 得られた諸々の情報から総合的に見ればどういう流れで国が動いているのかも分かるというわけだ。


「今日は――ファンゴノイドの事かしらね」


 イルムヒルトが言う。


「そうだね。魔王国の事は色々調べたから、ファンゴノイドに関してになるかな」


 魔王国に住む種族に関する書籍になるのだが、これは民俗学等も含めて割合多岐に及ぶ。やや複数のジャンルに跨っているので司書に聞いてみると目録を作っておくと快く言ってくれた。


「ああ、こんにちは」


 パペティア族の司書は俺達を笑顔で迎えてくれた。そうして目録の写しを俺達に渡してくれる。


「ありがとうございます」

「いいんですよ。毎日熱心に調べ物をしていらっしゃるので感心しているのです。美しい方々が頑張っていらっしゃるので、私も創作意欲が湧くと言いますか」


 嬉しそうな声で司書はそんな風に言った。


「それは何よりです」


 苦笑しつつも、目録作成の代金を支払う。では、今日の調べ物を開始するとしよう。

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