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番外703 王都の中へ

 ゴーレムに荷車を引かせて街道を進む。王都に入る者達の列に並んで順番待ちだ。

 王都ジオヴェルムの門番は立派な鎧を身に着けたギガース族であった。柄まで鉄で拵えられた槍は門番の膂力と技量を端的に示すものだろう。


「ブルムウッドじゃないか! 久しぶりだな!」

「元気そうじゃないか!」


 列が進んで俺達の番になると、門番達の表情が明るくなる。どうやらブルムウッドの知り合いらしいな。昔、王都にいたとの事だし。


「ああ、久しぶりだな! まあ、少し前までは病気で寝込んでいたんだが、今はこの通りだ」


 元気そうと言われてブルムウッドは笑って応じる。


「そうだったのか……。災難だったな」


 門番達は気の毒そうな表情を浮かべたが、ブルムウッドの見た目は元気そうだし今は彼らも仕事中で俺達の後ろにも順番待ちの列が続いているという事で、そちらの話題はあまり掘り下げず、すぐに表情を真剣なものにして尋ねてくる。


「それで、今日はどうしたんだ? そっちの面々は――あー、知らない種族だが」


 そう言って俺達に視線を向ける。


「何族って言えば良いのか自分達でもよくわからないけど……まあ、地方から出て来たんだ。地元から色々持って来たんだけど、王都なら高く売れるかなって思ってね」


 荷車に乗せた装飾品やらを見せると、門番は「なるほど。確かに珍しい品だな」と納得したように頷く。


「彼らには病気になった時にかなり世話になってな。恩返しってわけじゃないが、王都までの案内と護衛を買って出たってわけだ」

「色々大変だったんだな……。暫く王都にいるのなら、非番の時に色々話も聞かせてもらいたいところだが」

「それじゃ、さっさと手続きを済ませちまおう」


 門番達は問答用の水晶球が置かれている小部屋を指差す。ドラゴニアンの門番、ガウェイグと違ってそれほどには技量面からの警戒はしていないようだ。ガウェイグの場合は種族というか、野生本能的な部分で相手の強さを察する事ができるのかも知れない。




 水晶球を使っての質問については割と簡素な流れ作業という印象であったが、質問自体は要点を抑えたものだった。

 個別にこちらの事情を根掘り葉掘り聞かないのは水晶球の信頼性が高いからだろうし、それがある以上は犯罪者でもない相手を尋問するのは門番の役割ではない、という事だろう。


 勿論ブルムウッドの知り合いだからというのもあるだろうし、魔王国が多種族で構成されている国家だから、という背景もあるように思う。そもそも辺境外どころかルーンガルドから来た異種族だなんて想像の外だろうしな。


 そんなわけで通行許可が出たところで門番に挨拶をしつつ巨大な門を通り、王都ジオヴェルムの内部へと入る。

 ジオヴェルム内部は……やはり魔界の都市らしく色んな種族が闊歩する場所だった。こうして多種族が連れ立って歩き、談笑している光景というのは俺達にとっては馴染みがあるもののような気がする。まあ、若干厳つい種族もいるので慣れていないと本当に魔境というイメージを抱きそうな所ではあるが――。


「水晶板でも見せてもらいましたが……やっぱり色んな種族がいて賑やかですね」

「少しタームウィルズやヒタカノクニに似ていて好きかも知れません」


 グレイスとアシュレイが言うと、マルレーンもにこにことした笑顔で頷く。とまあ、俺達の場合は元々多種族との交流があるのでこうした反応になるわけだな。エレナも「これが王都……」と、興味深そうに魔界の街並みを見回していた。いや、みんなも同様か。モニター越しとはやっぱり違うだろうしな。

 軒先に色とりどりの明かりが灯されているのもブルムウッド達が住んでいた街と同じだが、王都の場合は魔法の明かりによる街灯もあって、中々見通しがよく、幻想的な雰囲気でもある。


「さて……。まずは荷車に積んだ品の売買からかな?」


 ヴェリトが言う。そうだな。潜入しやすいように行商風を装ったわけだし、現地のお金はそれなりに必要としている。行商といっても商売をするわけではなく、個人的に店に持ち込んで買い取ってもらう、という方法なので特別何か届出をするという手順は必要ない。


「宿屋の確保も必要だな。どちらも心当たりがあるから案内しようと思うが……王都からは暫く離れていたから、あてが外れたら済まないな」


 ブルムウッドはそんな風に言うが……土地勘があるのとないのとでは大違いだ。


「いえ。心強いですよ」

「ええ。ブルムウッドは頼りになるわよ」


 そう答えるとオレリエッタも嬉しそうな表情をして言った。

 というわけでブルムウッドの記憶を頼りに王都ジオヴェルムをあちこち巡り、持ち込んだ品々を売ることにした。




 ブルムウッドは割と顔が広いようで、王都には知り合いの店主というのも結構いるようだ。

 装飾品と衣類は同じ店。魔力楽器も魔道具と同じ扱いという事で魔石と共に同じ店で売却できるだろうとの事で。ブルムウッドにそれぞれの店に案内をしてもらう。


「これはまた……装飾品も衣服も、良い物ね。割と目新しい意匠の装飾品と服で材質や仕立ても……上等なものだわ」


 と、服飾店の店主は俺達の持ち込んだ品を見て相好を崩していた。敢えて魔界の住民が着ている衣服のデザインを気にせずにルーンガルド側から物品を持ち込んだのだが、それが高評価を得られたのか、結構な高値で買い取ってもらえた。


 魔力楽器もそれは同様らしく、魔道具屋の店主は魔力楽器を見ると驚きの声を上げていた。


「これは……何とも素晴らしい……!」


 と、大絶賛だ。魔石に関してはあまり騒ぎにならないようそこそこのランクのものを選んだ。魔力楽器は実用品ではないからどれほど評価されるか未知数だったが、れっきとした魔道具という事もあり、物珍しさからの付加価値、完成度等を鑑みて、かなりの纏まった金額が手に入ったのであった。


「これなら暫くの間、そこそこ良い宿で王都に滞在できるんじゃないか?」


 ヴェリトが笑顔で言う。


「女性陣も多いからそれは有難いね」

「それじゃ、予定してたところより少し上等な宿に案内しようか?」

「ああ、それは良いですね。よろしくお願いします」


 予定より大分資金を得られたからな。宝石や貴金属も持ってきていたがこちらは保険として残しておけそうだ。


 そうしてジオヴェルムの街並みを進み、大通りに面した宿屋に案内される。最上級の宿ではないらしいが、そこそこの宿で風呂もあるとの事で。

 これがルーンガルドにいる時だと領主や貴族という事もあって宿の格式も高くせざるを得ないところがあるのだが、身分を明かしていない今の状況だと丁度良いというところだろうか。


「それじゃ、俺達は別の場所に宿を取るかな。宿が決まったらまた連絡に来る」


 ブルムウッドは当たり前のように言うが……。


「いえ、それでは非効率ですし同じ宿で構いませんよ。宿代もこっちで持ちます。言語を教えてもらいたいというのもありますし、図書館で翻訳作業の付き添いも頼みたいと思ってますから」


 何部屋か取って、眠る時以外は同じ部屋に集まって言語を教えてもらう、というのも視野に入れている。そうした考えを伝えるとブルムウッドは納得したように思案する。


「なるほどな……。そういう事なら、俺達も同じ宿の方が良いのか」


 と言いつつも、宿代を全部持ってもらうのは心苦しいから折半にしようとブルムウッドは主張してきたが……そこは諸々の仕事を頼んでいる依頼料みたいなものだと押し切らせてもらった。

 俺達がそこそこ纏まった資金を手にした事も、ディアボロス族の面々の台所事情が厳しい事も分かっているし、こちらとしてはなるべく俺達に好印象でいて貰った方が色々助かるのだ。


 そんなわけで宿に部屋を取って手荷物を預けたら、図書館の場所等を確認しておこう。調べ物がどのぐらいになるかは分からないが、多少時間がかかる事も想定している。そんなわけで一先ず一週間分の宿を取ることにしたのであった。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!


今月5月25日に境界迷宮と異界の魔術師10巻が発売予定となっております!

詳細については活動報告でも掲載しております。


また2ケタの大台に乗せられたという事で、作者としても大変嬉しく思っています。

これもひとえに読者の皆様の応援があってこそのものと、改めて感謝申し上げます!


今後ともウェブ版共々頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。

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