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番外702 境界公と行商隊

 魔王国の王都ジオヴェルム。甲板に出て実際に目で見てみたが、塔と城を覆うように魔力を纏っている。リング状の構造物はそうして漏れる魔力を溜め込んでいるようで、僅かだが魔力が流れ込んでいるようだ。


 魔界の王都に相応しい大掛かりな装置と言えるが……リング状の構造物がどういう目的に使う物なのか。

 拡散してしまう魔力を無駄にしないよう蓄積するとか、有事には防壁を展開したり魔力を増幅したり……というのが見た感じの印象だろうか。


 塔の想念結晶は……形が違うな。代わりに中央の城の最上部にあるものが前の街で見た時と同じ形のものだ。どの結晶も煌めきを宿していて、想念結晶を伝聞通りに受け取るなら治世が敷かれている、という事になるが。


「周囲の6つの塔の結晶は、前に見たものと違うようですね」

「ああ、通常の想念結晶とは違うらしい、ってのは聞いた事があるな。各地の結晶と連動しているとか何とか」


 ブルムウッドがそんな風に教えてくれた。


「例えば地方に異常があれば分かる、というような?」

「その辺の細かいところまでは分からんが……見た目からして違うし、皆疑問には思うんだろうな」


 なるほどな。まあ、開示できる情報とできない情報というのは当然あるだろう。

 ともかく魔王都は城に限らず、街の規模も相当なもので大都市と呼んで差し支えない。

 さて。王都ジオヴェルムからはまだ距離があるが、シリウス号はどこか街道から外れた、立ち入りの少なそうな場所に停泊させる必要がある。


「このあたりに人があまり来ない場所は?」

「あの辺りの森の奥……かな? ああいう森は中央に近い分、定期的に凶暴な魔物を掃討しているから、危険度も低めで……人が立ち入る事も、そう多くはないな。だが俺が中央にいたのは昔の話だ。参考程度にしておいた方が良いかも知れん」


 ブルムウッドが王都から少し離れた場所にある森を指差して言う。


「んー。それじゃ、現地の精霊達に聞いてみるかな」


 ブルムウッドの教えてくれた森に向かって移動する。生命反応を見ながら森に降りて、興味深そうにこちらを見ている精霊達に話しかけてみる。


「普段、魔物や人があまり来ない場所はあるかな? 今は見えなくしているけれど、近くに船があって安全な停泊場所を探しているんだ」


 そう尋ねると森の精霊達はこくんと頷き、森の奥を指差して、次ににこにこ笑いながら自分達を指差す。案内してくれる、ということらしい。


「それじゃ、一緒に来て貰って良いかな?」


 そう言って手を伸ばすと、集まっていた小さな木の精霊や風の精霊がわらわらと肩や頭に登ってきた。中々こそばゆいというか微笑ましいというか。

 ティエーラ達の加護があるからか、精霊達も初対面なのに大分信頼してくれているようで。


 迷彩フィールドを抜けてシリウス号の甲板に移動すると、俺に乗っている精霊達も盛り上がっている様子であった。うむ。


「アルファ。精霊達に案内してもらうから船をゆっくり移動させてくれ」


 アルファが頷き、シリウス号が俺の指差す方向へと移動していく。やがて精霊達が、この場所、というように肩をぽんぽんと叩いて教えてくれた。案内された場所は大木のある場所で……精霊力が高い気がするな。見ていると精霊達は俺の身体から離陸して、大木の精霊らしきドライアドに挨拶をしていた。ドライアドは眠たそうに目を擦りながら、小さな精霊達のいう事にふんふんと耳を傾けているようだ。


 フローリアのように実体化には至っていないが、そこそこの力を持っている中位精霊のようだな。小さな精霊達が俺達の事を頼んでいるようなので、俺もシリウス号をその場に留めて貰い、迷彩フィールドを出て挨拶に行く。「初めまして」と挨拶をすると木の精霊もにっこり微笑んで頷いてくれた。


「ええと……この付近に船を置いておいてもいいかな? 迷惑はかけないようにする」


 そう言うとドライアドは少し思案した後、笑顔で頷いてくれた。


「ありがとう」


 精霊達に礼を言うと、ドライアドはにっこり笑い、眠たそうに欠伸をしてから木の幹の中へ戻っていく。小さな精霊達も手を振りながら元いた場所に向かって飛んでいった。精霊達の反応で少し和んでしまったが……まあ、後は精霊達を信じて、ここで人払いや隠蔽の術式を展開しておけば問題あるまい。


 さて。今回の同行者だが……文章解読に俺やグレイス達とエレナ、パルテニアラ。ディアボロス族の面々というところまでは決定している。

 エイヴリルを連れて行きたいところではあるのだが、当人の戦闘力は低めなのでこうしてどこかに潜入するというのは向いていないだろう。魔王が俺達を見てどう思うかも不透明な状況では慎重になった方が良い。


 動物組や魔法生物組は目立つので留守を預かってもらう必要がある。五感リンクの事を考えればそちらの方が配置的にも能力を活かしやすいしな。

 解読に関しては翻訳の魔道具が有効なのでバロールかカドケウス、どちらかだけ連れて行けば良いだろう。街中の潜入という事を考えれば一緒に行くのはカドケウスが適任か。


 というわけで他の動物組、魔法生物組に加えて、フォルセトとシオン達、カルセドネとシトリア、テスディロス、ウィンベルグ、オズグリーヴといった面々には後詰めとして船に残ってもらう。アルディベラとエルナータも人里には慣れていないから留守番だ。


「一緒に行けないのは悪いね」

「なに。気にする必要はない」

「みんなと留守番してるね」


 そう言って笑うアルディベラとエルナータ。エルナータも動物組や魔法生物組と仲良くなったようで、ティールに抱きついたりしていた。


「それじゃ……俺達は行商風を装っていくか」


 メンバーが決まったところでジオヴェルムへ向かって出発するのだが、人数が多いので少しばかり王都への立ち入りに際して工夫を凝らさせてもらう。その為の準備もしてきているのだ。

 荷車にそこそこの魔石や装飾品、楽器やらを積み込んである。物珍しく、且つ無難な品だ。食料品やポーションは各種族への影響が未知数だから扱えない。


 これらの品々を地元から然るべきところに売り込みにきたという体を装うわけだ。

 実際に売却して現地のお金を得る事も視野に入れている。ディアボロス族も魔石を処分して余ったお金を渡してくれると言っているが、ブルムウッドの件で知人からお金を借りたりもしているようなので、お互い納得して治療をした以上はあまり負担にならないようにした方が良いだろう。


「それじゃあ、私達も着替えてきます」

「行ってくるわね」


 アシュレイとクラウディアがそんな風に言って、シリウス号の船室へと向かった。

 衣服に関しては前回の調査をして情報が得られたからな。街中でも浮かないであろう無難なデザインの物を用意してきている。水竜の鱗を使った防具は服の下に着る事ができるものだし、普段の装備もローズマリーの魔法の鞄に入れておけばいいだけだから大きな問題にはなるまい。

 俺はと言えばキマイラコートとウィズの変形で服装に関してはどうにでもなる。


「それじゃ、俺達はテオドール達の護衛と案内で雇われたってとこかな?」


 ブルムウッドが尋ねてくる。


「そうですね。案内という点では間違っていないし、よろしくお願いします。情報提供以外の事をお願いしてしまっていますし、実際に物を売ってお金になったらそこからお支払しても良いですよ」

「いや、魔道具を受け取っているし、魔石の代金の余りについても留保してもらっているしな。気にしないでくれ」

「後は……もし僕達が魔王に目を付けられるような事があって、事情を聞かれたら辺境より外から調査に来た事や、門での審査の事等、正直に言って貰って良いですよ。僕達としてもこの国が平和なら秩序を乱すような事はしたくないですからね」


 魔王と対立してしまう場合は極力魔王の国に関わらないように行動するだけだしな。


「まあ……謎が多いとは思っちゃいるが……。これだけ世話になった相手を売るような真似はしたくねえな」


 ブルムウッドの言葉にヴェリト達も真剣な表情で頷いていた。義理堅いものだ。


「ありがとうございます。けれど、そんな皆さんだからこそ、僕達としても事情に巻き込んで迷惑をかけたくないと思ってるのも事実ですよ」


 俺の言葉にブルムウッドは苦笑して目を閉じ、頭を軽く掻いたりしていたが。

 さて。各々の役割が決まって準備が出来たところでいよいよ王都に向かって出発だ。魔界はかなり種族が豊富なので見た目ではあまりとやかく言われないようだしな。門番の質問に対して嘘を言わなければ問題あるまい。

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