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番外701 王都ジオヴェルム

 ディアボロス族もシリウス号に案内し、人化の術を使ったベヒモス親子と対面したところで、出発する前に魔界の文字について教えてもらうことにした。移動中も魔物関連で警戒が必要だからな。

 因みにディアボロス族に関してはやはり誠実な性格のようで、艦橋で待っていたエイヴリルも再会に満足そうに笑顔で頷いていた。俺達に良い感情を向けてくれている、ということだろう。こちらを間諜と見て密告するような事もしなかったというわけだ。


「はい……どうぞ」

「おう。それじゃあ始めようか」


 と、シグリッタが紙とインクを用意してくれて、そこにブルムウッドが文字と数字を順番に書き付けていく。

 ブルムウッドが紙に書いたのはアルファベットに近い形式の表音文字だ。文字の組み合わせ方で発音の仕方に、ある程度法則というか特徴が出るのもアルファベットと同じだ。ルーンガルドで広く使われている文字も形式としてはこれに近い。一先ず一覧表を記録してもらう。


「ふむ。何となくだが……分かりやすい気がするな」


 そう言ったのはパルテニアラだ。

 そうだな。ルーンガルドで使われている文字に関して言うなら、魔力嵐以前の時代と俺達の代では文字の形がかなり違うのだが……魔界の文字はどちらかと言うと古代文字の影響が強いように見える。

 パルテニアラにとって分かりやすいというのはつまり……ファンゴノイドから伝えられた知識が元になっているという事だろう。


「単語と例文も幾つか教えて貰って良いかな?」

「勿論だ」


 ブルムウッドは俺の言葉に頷くと、幾つかの単語や例文を紙に書き付けてくれる。

 ふむ……。文字に似通った部分はあっても……単語回りや発音法則は違うようだな。これはパルテニアラとファンゴノイドの間での交流の範囲内では情報伝達量にも限界があった、という事なのだろう。文字は伝わっても個々の単語までは伝え切れないというわけだ。

 必要に応じて言葉が変遷していった結果、口語に応じて単語も独自に変遷していった、と。


 まあ、そこまではいい。文化的に興味深いが、今の俺達にとって重要なのはここからなのだ。


「発音の仕方は軽く教えてもらったから……その法則から外れない範囲で、こっちに意味を伝えず、まだ教えて貰っていない単語を書いてもらって良いかな? それを俺が読むから、意味は言わずに、発音が合っているかどうかだけ教えて欲しい」

「ふむ……」


 ブルムウッドはこちらの注文にやや怪訝そうにしたが、思案した後で紙に何かの単語を書き付ける。発音法則は分かるのでそれに従って読み上げる。


「ディラー……溶岩、ね」


 と、俺の口から発した言葉の意味が、すんなりと腑に落ちてくる。発音法則だけで読み上げた言葉にも言霊――翻訳の魔道具は適用されるようだ。


「という読み方と意味で合っているかな?」

「合っているが……。翻訳用の魔道具というのは随分優秀なようだな」


 やや呆れたような反応のブルムウッドである。


「これだけで翻訳できるのか、実験が必要だったけどね」

「ああ。だから意味は言わないで欲しいって事だったのか」


 ヴェリトが納得した、というような反応を見せる。そうだな。やや回りくどい注文になったが。


「これなら文字の一覧と発音の法則をしっかりと覚えれば、書物を読み解くのも難しくなさそうね」


 そう言ってローズマリーが羽扇を口元にやって笑う。そうだな。意味は分からないまでも、口に出して読めば翻訳の魔道具が作用する。図書館で朗読というのも普通なら些か目立ってしまうが、俺達のいる場所だけ風魔法で防音すれば問題はあるまい。


 文字の一覧表と発音、その法則、それから例文から得られた文法についてはウィズが記憶し、解析して纏めてくれている。

 それらがある程度分かった事で、口語……つまり会話からでもデータを取れるようになった。普通に過ごしていても様々な情報を蓄積できる下準備が整ったというわけだ。


 では……諸々の準備が終わったところで王都に向かって出発といこう。


「会話からこちらの言葉の情報収集はしているから、周辺の警戒はしつつも雑談しながら王都へ向かえると良いね」

「ん。索敵は任せて」


 と、シーラがサムズアップで応じるとティアーズ達もマニピュレーターを上げて、その様子にイルムヒルトも楽しそうに肩を震わせる。にこにことしながらマルレーンやエルナータもそれを真似していた。うむ。


「それじゃあ、出発しようか」


 アルファが頷き、シリウス号が浮上する。そうして、王都のある方向へと、迷彩フィールドを纏ったままゆっくりと進み出すのであった。




 念のためにというか、何らかの方法で探知される事がないように、少し街道から外れた位置をシリウス号は飛行中だ。

 周辺地形図を作りつつ、というのも今まで通りではあるが、目的地が王都ということもあり、大きな街道沿いに進んでいけば迷うこともなく辿りつけるので、飛行ルートもそれに沿ったものになる。


 街道の様子を見てみればある程度国の状態も分かる。

 ルーンガルドもだが、中央付近の街道は兵士達の巡回が多いので魔物の被害も少ないし、物取りも抑えられるので比較的治安が良い。但し、これには政情が安定しているのなら、という前提条件が付く。


 これが国王や貴族が原因で政情が乱れている場合、中央付近は逆に危険だ。権力に絡んだ争い、諍いがあるので往来は少なく、代わりに兵士の巡回が厳重になったり、もっと国が末期的なら治安維持が機能せず物取りの類が闊歩し出すというわけだ。


 実際の街道の様子がどうかと言えば、行き交う商人やら旅人も普通にいるし、巡回する兵士やらも見受けられたので……まあ、魔王国の政情に関して言うなら、表面上は大きな問題もないのだろう。魔力増強剤に関する事等、気になる事がないわけではないが……そのあたりの事は政情とは関係が無いという事か。


 いずれにしても魔物の脅威が低めなので俺達としては助かる。ティアーズ達が警戒に当たっている間、艦橋ではディアボロス族によるしりとりが行われている。


「雑談も良いけど、しりとりも丁度いいんじゃないかしら?」


 というオレリエッタの発案が採用された形だ。こちらの単語を色々知って発音法則を知るには、確かにしりとりは丁度いいというか。

 ヴェリト達の発した単語をカドケウスが尻尾を変形させて魔界の文字で表現。ディアボロス族の面々はそれを見て、ハンドサインで合っている、と合図を送ってくれる。


 他にも会話の内容をルーンガルドの言葉と魔界の言葉で復唱したりだとかウィズに言語情報を蓄積してもらいながら王都へ向かって進んで行くと……やがてそれが見えてくる。


「見えてきたぞ。あれが王都ジオヴェルムだ」


 ブルムウッドが正面の水晶板モニターに目をやり、言った。


「何というか……すごいお城ですね」

「浮遊島もあちこちにあるようです」


 グレイスが声を漏らし、アシュレイも目を瞬かせる。

 街の中央に天にそびえるような王城。但し、下より上の方が大きくなっている物理的に不安定な作りだ。もしかすると魔王の城も浮遊島と同じような素材が組み込まれており、不安定に見えるのは見た目だけかも知れないが。そうなるといざとなれば上部が離陸できるというような仕組みがあっても不思議ではないな。


 その城の周辺に6本の塔。塔の頂上に6つの想念結晶が輝いており……中央の塔と渡り廊下のように橋が繋がれて、王城と繋がった一つの建物になっている。

 更に宙に浮かぶリング状の構造物が城や塔の周りを囲んでいた。どういう目的で作られた構造物かは分からないが……魔王の住む城に相応しい威容と言うべきか。


 アシュレイも言及していたが、王都上空にはあちこち浮遊島があって、その上に構造物も見える。やはり……浮遊島を色々と利用しているのは間違いないな。

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