表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1466/2811

番外700 魔王国の王都へ向かって

 同行が決まったところで、アルディベラとエルナータは一旦元の姿に戻って食事を取っていた。全部は持っていけないから狩りの獲物を無駄にしないように、との事である。


 そうして炎の大蛇に関しては大部分が平らげられた。残った分については切り分けてシリウス号の第二船倉に積み込み、木箱に紋様魔法を描いて冷凍保存をしておく、ぐらいの事は可能なので、ゴーレムに作業をさせておいた。


 さてさて。それが終わればみんなで移動である。ディアボロス族と合流し、王都を目指して動いていくという事になるだろう。


「シリウス号、中に入ってみたかったの」


 再び人化の術を使って甲板に立ったエルナータが嬉しそうに言うと、アルファがその言葉ににやりと笑って、先導するように歩き出す。

 素直にアルファについていくエルナータに、アルディベラは微笑ましいものを見るように目を細めていた。


 そうして艦橋に通すとエルナータが「わあ……」と声を上げ、アルディベラも周囲を見回して感心したように声を漏らしていた。


「周辺の様子が分かるようになっているのか」

「船内のあちこちと、ここから会話もできるよ」

「なるほどな」


 水晶板モニターはベヒモス親子にとっても中々物珍しいもののようで。


「手狭ではありませんか?」

「問題ない。この辺に落ち着かせてもらおう」


 グレイスの言葉に、胡坐をかいて腰を落ち着けるアルディベラである。

 元々コルリスやティール、リンドブルムも艦橋に入れる広さがあるということもあり、椅子に座る事に拘らなければ問題なさそうではあるかな。

 動物組の面々も艦橋に来るようになったので急旋回の折に身体を固定できるよう、シートベルトだけでなく、壁にもベルトをつけてあるから、その辺を活用してもらえば安心だろう。


 エルナータもアルディベラと一緒のところに座って、仲睦まじい親子といった様子だ。

 そうして人員の点呼もしたところで操船席に腰かけ、アルファに声をかける。


「それじゃあアルファ、行こうか」


 こくんと頷くアルファ。ゆっくりとシリウス号が浮上してモニターに映し出される景色が動き出すと、エルナータは上機嫌そうににこにことした笑みを浮かべるのであった。




 流れていく魔界の景色。移動の途中で風雨の中を飛ぶ事になったり、鳥の魔物の群れとニアミスしたりもしたが……大きなトラブルになる事も無く移動する事ができた。

 風雨に合わせて高度を高め、雷雲の上を進んだり、迷彩フィールドを使って距離を取ってやり過ごしたりという感じだな。


「事前情報と、索敵が早かったお陰だね。助かったよ」

「役に立ったのなら何よりだ」

「ん。任せて」


 俺の言葉にアルディベラが笑い、シーラがサムズアップで応じる。

 鳥の魔物が回避できたのは、アルディベラからの情報と、シーラが雷雲を抜けてくる生命反応を一早く発見してくれたのが大きい。これらがなければお互いの航行速度や進路からして、迷彩フィールド内に飛び込まれて……という可能性も十分にあった。


 鳥の魔物に関しては――2対の翼を持っている結構大型の鳥だ。ぼんやりとした光を纏った鳥が、かなりの速度のまま編隊を組んで雷雲の中を飛び回っていた。


「雷雲には鳥の魔物がいる事が多い。連中は雷を好むようでな。我だけなら問題無いが、風雨の中を飛ぶ時には少し注意が必要だ」


 というのが行く手に雨雲を見た時、アルディベラが教えてくれた情報だ。

 そんなわけで魔物に警戒していたわけだが、その甲斐もあって危機回避もしっかりできたというわけだ。

 雷を好む鳥という事でエクレールもティールと共に興味深そうにモニターを見ていた。


 中々珍しいものを見る事ができたのは確かだな。どうやら雷を浴びてはそれを吸収しているようで……ルーンガルド側の感覚で言うと、かなり珍しい生態に感じられるというか。


 そうして雷雲が切れたところで再び高度を落としてシリウス号は進んで行く。やがて――遠くにヴェリトやブルムウッド達の住む街が見えてくるのであった。




 前回と同じく街から少し離れた場所にシリウス号を停泊させて、魔道具を持って俺一人で街へと向かう。ベヒモス親子は人化の術を習得したばかりで、人里に紛れてボロが出ては困るから大人しくシリウス号で待つ、とのことだ。炭酸飲料を口にして驚いた表情だったから、シリウス号の艦橋を気に入ってくれているようでもあるが。


 門番のガウェイグに挨拶をしつつ街の中へ。街を進んでブルムウッドの家へと向かう。戸口をノックすると、ヴェリトが顔を出した。


「おお、戻って来たのか……!」


 と、表情を明るくして俺を家の中へと招いてくれるヴェリトである。


「こんにちは、テオドールさん」

「ああ、テオドール。無事で何よりだ」


 家の中にいたブルムウッド達も笑顔で応じてくれる。


「こんにちは。約束通り、ブルムウッドさん用の魔道具も用意してきました」

「これが――」


 腕輪を渡しつつ、注意事項や使い方を説明する。


「前に話した通り、魔力資質を抑制するので身に着けると土魔法の威力は下がります。それと……任意に魔道具の効果を解除したり、再度発動させたりする事が可能です。腕輪の形をしていますが、紐をつけて首から下げても効果を発揮するので、就寝時等にはそうやって身に着けると良いかも知れませんね」


 ブルムウッドは腕輪の意匠を見ていたが、すぐに腕に装備してくれた。手を握ったり閉じたりして魔力を操作していたようだが、やがて納得したように頷く。


「なるほど。確かに……力が抑えられているな」

「魔力の操作精度には干渉していませんが、扱える術の限界はやはり下がります。慣れるまでは無理せずに訓練を積んで、感覚を掴んだ方が良いかも知れませんね」

「分かった。気を付けるとしよう」


 ブルムウッドは頷いて、それから俺の方に視線を向けてきた。


「では、今度は俺達が約束を守る番だな。王都への同行と案内の件、確かに承った」

「ありがとうございます。それと……図書館に向かうので、文字の読み方を教えて貰えると助かります」

「それは構わないというか……図書館で調べ物をするにして、こっちの文字が読めないんじゃないかと話をしていたんだ。必要なら俺達が本を読んで解説を、とも考えていたんだが……今から文字を覚えるのか?」


 と、ヴェリトが目を丸くする。


「ウィズの力も借りれば、後は辞書があれば何とかなるかなと思っているよ。単語や言い回しで分からない部分は質問するかも知れない」


 帽子のツバに手をやると、ウィズがぺこりとお辞儀をする。俺とウィズとで五感リンクを行えばカドケウスとバロールも他の面々が読もうとしている本の翻訳作業に参加できるだろう。


「そういう事なら、私達もついて行けば力になれそうね」


 オレリエッタが笑顔で言う。手分けして調べ物をするのなら、その方がありがたいが。


「ありがとう。極力危険がないようにするよ」

「礼を言うのはこっちの方だ」


 ディアボロス族の面々はいつでも出発できるように旅支度を整えてくれていたとのことで。話も纏まったところで再び街から出て、シリウス号へと移動する。

 ベヒモス親子と引き合わせ人化の術を使った事を説明すると、ヴェリト達は随分驚いていた。


「あ、あの巨体がここまで小さく?」

「人よりは大分大きいけどね」

「いや……それにしても……」


 と、言葉を失っている様子である。ブルムウッドは初対面なので苦笑しているが。


「遺跡の巨獣……か。よろしく頼む」

「よかろう」


 ブルムウッドとアルディベラがそんな風に言葉を交わしたところで、シリウス号も今度こそ王都に向けて出発だ。道中魔界――魔王国で使われている文字について教えてもらう事にしよう。表音文字という話だから、まずは文字と数字がどれだけあるかの把握からだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ