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番外699 衣服とゴーレム

 さてさて。迷宮村の住民用に、人化の術絡みの魔道具を以前作った。これは旅先で色んな種族に出会うことを考慮し、シリウス号にも備品として常備されていたりする。衣服を作る前にベヒモス親子に渡しておいた方が良いだろう。

 発動に関しての補助と共に魔石に込めた魔力の分だけ持続してくれるので日常生活用に便利というわけだ。


「友好的な魔物が暮らしている村があってね。住民達が村の外でも過ごしやすくなるようにと思って、俺達が以前作ったものなんだ。眠っている時に便利だね」


 迷宮村の説明をしつつ、魔道具の予備を二人に渡す。


「術を維持する際に消耗を抑えてくれる、と。確かに我らが人里で元に戻ってしまっては大事ではあるか」


 アルディベラが納得したように頷く。魔道具を受け取って首にかけている間にもグレイス達がメジャーを使ってベヒモス親子の体格を計っていく。マルレーンもエルナータとにこにこしながら計測を楽しそうに行っていた。


 そうしてデータが出揃ったところで採寸通りに実際に衣服を作っていく。木魔法で木綿風の繊維で組んだ衣服を作るわけだが……まあ、質感やデザイン面はそこそこ融通が利くか。他には……メダルゴーレムを組み合わせれば、少し面白い事ができそうだ。

 とはいえ服飾デザインのセンスは別に自信があるわけではないし、みんなに聞いてそれを反映していった方が良いだろう。みんなも楽しそうだし王都での調査に望む前に、良い具合に肩の力を抜く事ができそうだ。


「どんな服が良いかしら」

「アルディベラさんもエルナータちゃんも綺麗だし可愛いですから迷いますね」


 イルムヒルトとグレイスが明るい笑顔で言う。


「ん。希望はある?」


 シーラが首を傾げて尋ねるとベヒモス親子は少し思案してから答える。


「動きにくいのは困るかも知れないな」

「良く分からないけど、みんなと一緒なのが嬉しいなぁ」


 なるほどな。アルディベラは実用性を重視。エルナータの方は俺達に合わせるような感じだろうか。メイド服だったりドレスだったりと、割とデザインに凝っている部分があるからな。装備品として色々な付加を考慮した結果だから、実用性を重視していないわけではないのだが。


 というのも、例えば武器でも単純に見れば槍の方が実用的であったりするのだが……魔法も絡めた場合の視点で見ると剣の方が優れている傾向がある。

 寓意的な物や象徴的な物は魔法効果を付加しやすいとか、同じ術式でも効果が増すとか……そういった事情があるわけだ。

 同じ事は武器ではなく衣服にも言えて、例えば法衣やドレス等は魔法効果を付与しやすい。やはり見た目が象徴的だからというのは大きいな。


 象徴的や寓意的というのなら魔界の景色もそれに該当するのではないか、と思っているが……まあ一度何かしらの方法で検証してみるのも良いかもな。


 アルディベラとエルナータの衣服については……みんながマルレーンのランタンを使ってあれこれと案を練っている形だ。

 親子の幻影がころころと着せ替えされて、アルディベラとエルナータはそれを見ると目を瞬かせる。


「実用性というと、冒険者風が良いかも知れないわね」

「折角だし、揃いで合わせてそこから少し違いを出していくというのはどうかしら?」

「ああ。それは良いですね」


 と、そんな調子で盛り上がる女性陣である。

 その結果……アルディベラはマントにチュニック、パンツに編み上げブーツという軽装冒険者風のスタイルに落ち着いた。

 マントに関しては日除けにも防寒具にも使える他、材質によっては防刃機能を高め、敷布や寝床としても活用できるという……まあ、冒険者にとっては色々便利な品だ。


 エルナータはアルディベラの衣服を元に、やや少女らしくアレンジしたものを。

 マントはフード付きポンチョにして、ズボンはキュロットスカート。デザイン性と動きやすさの両方を追究しつつ、アルディベラとデザインの方向性に統一性を持たせるといった具合だ。


「どうでしょうか?」


 アシュレイがにっこり笑って尋ねると、アルディベラは頷く。


「服の事はよく分からないが、これが実用的というのならそうなのだろうな」

「私も……よく分からないけど、好きかも」


 エルナータも屈託ない笑顔を浮かべる。

 うむ……。ではこのデザインで作っていくとしよう。木魔法を駆使して繊維を構築。衣服を作り出す。色は割合自由になるし、靴も樹脂の構成を少しいじってやればしっかりとした作りのものができる。足の形に合わせて歩きやすさも追求したオーダーメイド品だ。


 ここでマントやポンチョの飾りとしてメダルゴーレムを採用する。

 木魔法の術式を組み込み、衣服から靴までの一式をゴーレムの身体に見立て、人化の術を解除した場合に、衣服と靴を圧縮して収納できるという機能を組み込んでおくわけだ。


 ゴーレムの変形に合わせて一瞬で着脱が可能。また汚れを落とす事もできるし、皺を無くし、傷やほつれを修繕する、身体の成長に合わせてサイズも調整できるといった機能も組み込める。更に裏地に紋様魔法を施す事により、プロテクション等の魔法を任意発動可能にしておく。


 維持にはメダルゴーレムに魔力を注いでもらう必要があるし、魔法発動の際にも魔力の負担をしてもらう必要はあるが……。人化の術を解除した場合、一纏めになった状態でベヒモスに合わせたサイズの腕章や角飾り等に変形し、装備品として手軽に持ち運ぶ事ができる。ゴーレムなので人化の術の魔道具も一緒に収納してくれたりする。


 衣服と靴の一式を作ってから諸々説明すると、アルディベラは「おお……」と声を漏らしていた。まあ、服を用意するだけならギガース族用の衣服等を街で買えばいいだけなのだが、維持管理や持ち運びの問題があるからな。


「これは……便利ですね」


 エレナも驚いたような表情をしていた。


「普及させるにはゴーレム技術や紋様魔法が高価になりすぎる気がするけどね」


 と、苦笑する。衣服の裏地に色々仕込めるので、折角だからという事でプロテクションだけでなく大跳躍用のレビテーションや逃走補助の為の煙幕やらまで組み込んでしまった。まあ、アルディベラもエルナータも喜んでくれているのでこれはこれで良しとしよう。




 とまあ、そんな調子で衣服一式も完成し、実際にベヒモス親子に着替えて貰った。手足を動かして、納得したように頷くアルディベラと、衣服を見てにこにこと上機嫌なエルナータである。更に髪型を変えてみたりと、みんなで楽しそうだ。

 アルディベラは背が高いのでコルリスの作った椅子に腰かけ、台座に立ったみんなが髪を弄るという具合である。


 アルディベラとエルナータだけでなく、シオン達やカルセドネ、シトリアといった年少組もみんなに髪を結われたりリボンを付けられたりしていた。

 そこにイルムヒルトがリュートを奏で、セラフィナが瓦礫に腰かけリズムを取りながら鼻歌を歌ったりと賑やかな雰囲気である。


「小さな者達の営みは……混ざってみると賑やかで面白い物だな。テオドール達には興味が尽きん」

「そう思って貰えるのは嬉しいな」


 髪を結われているアルディベラに笑みを返す。


「この後はまた探索に向かうのかな?」

「そうなるね」

「では……我らも一緒にというのは可能だろうか? 人化の術を使えば行動も共にできるかも知れないと、娘が期待していたようでな」


 ああ。それは……助かるかも知れないな。アルディベラは人里にこそ詳しくないものの、魔界の過酷な環境を生き抜いてきたわけで……知識や経験は色々持っているだろうし。


「アルディベラは魔界の事を色々知っていそうだし、一緒に行動できると助かるね。エルナータが一緒なのも、みんなも喜びそうだ」


 そう答えると、こちらの様子を窺っていたエルナータが屈託のない笑みを見せ、マルレーンと笑顔を向け合っていた。では――決まりだな。

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