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番外697 次の探索のために

 最初の魔界探索から戻ってきたという事で、早めに休んで夫婦水入らずで過ごさせてもらう事にした。


「やっぱりみんなで一緒に戻って来れると安心するものね」

「ん……。そうだね。こうしていられるのは……嬉しいよ、うん」

「ふふっ」


 と、そんなやり取りに少し顔が赤くなる自覚がある。

 俺の返答に屈託のない笑みを返してくるイルムヒルト。みんなも俺の反応に嬉しそうにしている印象だ。イルムヒルトに正面からしっかりと抱きしめられたりしてしまっているわけだが。

 イルムヒルトもかなりスタイルが良いので、俺としてはこの状態で微笑みかけられてしまうと流石に赤面してしまうと言うか何と言うか。


 風呂上がりという事で人化の術も解いており、こう、身体にもイルムヒルトの半身が軽く巻き付いていたりする。

 この辺はラミアの生態らしい。絡まって密着していると安心する、との事で。半身もすべすべとした滑らかな感触で、触れると心地が良いのは確かだな。


「んー。私も混ざる」


 そこに背後から肩から手を回され、シーラにも抱きつかれてしまう。


「洗い髪の匂い、結構好き」


 そう言って髪の毛に顔を埋め、すんすんと匂いを嗅いでくるシーラ。「あ、私も好きかも」と、応じるイルムヒルト。「どうかしら」とにこにこしながらそこに参加するステファニア。

 ……戻ってきたという事もあってみんなも安心しているからだろうか。いつもより甘えられてしまっているような気がする。まあ……構わないけれどね。

 と、そんな調子で一夜が過ぎていくのであった。




 そうして一夜が明ける。魔道具が出来上がり次第、また魔界探索の続きに戻る事になるが、その前に色々と済ませておこうという事になった。


 今までも外出先から通信機等を活用して執務を済ませるという事はしてきたので、シルヴァトリアにいる事になっているといっても執務を進めて問題はあるまい。

 というわけで状況を見ながら手分けして執務を行い、俺やアシュレイの決済や判子が必要なものは処理を済ませる。


「日常通りなので、執務も楽しく感じますね」

「分からなくもないわね」


 グレイスの言葉に、羽扇の向こうで小さく笑うローズマリーである。確かにな。魔界探索の後だと日常のありがたみが分かるというか。

 普段なら執務の後は領地視察という流れになるが、流石に今は不在ということになっているから視察には出られないな。


「んー。この後はシーカーに街の視察に行って来て貰おうかな」


 変装という手も無くもないがそう提案すると、アシュレイが言った。


「街を警備している武官にシーカーを預けるというのはどうでしょうか」

「ああ。それも良いかもね。操作する手間もないし」


 では今日の所はその方法で。魔界探索の合間という事も考えて、なるべく楽をさせてもらうというのが良いだろう。

 そんなわけでシーカーを兵士に預けフォレスタニアの街やシルン伯爵領の視察をおこなったり、植物園を覗いて育てている植物の生育状態を診たりと……確認するべき物を確認していく。


 そうして執務とシーカーによる視察も終えたら、水槽の様子も見に行く。


「光珊瑚も無事に育っているみたいですね。夜になるとほんのりと光るんですよ」


 アルケニーのクレアが楽しそうに教えてくれる。


「それは良かった。後は環境を保って魔力を与えていけば成長していってくれるようだよ」


 水槽の中では小型ゴーレムがガラス面の清掃作業中だ。イソギンチャクも機嫌がいいのか、俺達に向けて手を振っていた。

 と、シェイドがマルレーンに視線を向ける。マルレーンはシェイドの言いたい事を察したかのように、にっこり笑って頷く。


「ああ。暗くして光るところを見せてくれるのかな?」


 マルレーンとシェイドが揃ってこくんと頷いて、周辺が暗くなる。

 するとまだ小さな光珊瑚がぼんやりと光っているのが分かった。青や紫のほんのりとした光が綺麗だ。光珊瑚にしても種類があるらしく、エルドレーネ女王は何種類か渡してくれたが色が違うので種類の違いも分かりやすいな。


「ああ……これは綺麗ですね」


 と、シオン。シオン達とカルセドネ、シトリアも水槽を覗き込んで「おー」と声を上げたり、目をキラキラとさせたりしている。


「珊瑚が大きく育つのが楽しみですね」


 エレナがそう言うとガブリエラやパルテニアラも微笑ましそうに頷いていた。




 午後になって魔道具が出来上がったとアルバート達も腕輪を持ってきてくれた。土の魔力適性を抑制するという効果なのでステファニアが試しに装着して具合を見てくれた。


「うん。割と土魔法の威力が下がるかしら。けれど精度には影響が出ないし、何時でも効果を解除できるのが良いわね」


 と、ゴーレムを作ったり動かしたりしながらステファニアが笑みを浮かべる。


「割と誰でも装着できるように仕上げたつもりだよ」


 アルバートが微笑む。予備の魔道具共々、デザインを統一したようだ。


「なるほどね。同じ意匠で統一しておく事で、石化予防の為の魔道具だと分かりやすくするわけだ」


 ミスリル銀の腕輪に魔石を埋め込んだもので……アンティークな雰囲気の落ち着いたデザインは、老若男女問わず問題なく身に付けられるような作りだと思う。腕輪の端にベルトや紐を装着できるようになっており、サイズ調整も可能だ。


「素材もミスリルだから安易な贋作も作れませんね」

「それに予防の意味合いも考えると、将来に渡って使って貰えるようにと頑丈な方が良いですからね」

「強い土魔法の適性を抑制するというものなので実際に試してみれば効果は明白ですからね。そういう意味でも偽物は作りにくいのではないかと思います」


 コマチが笑顔で言うとエルハーム姫やビオラも首肯する。そうだな。ミスリル銀という素材はそれなりに分かりやすいし、同じ素材で偽物を用意するにしても値段が張る。後になって予防効果を謳った贋作を用意するという事もできなくなるだろう。


 いずれにしても魔力資質抑制という魔道具の性質上、できるだけ長時間身に付けておくのが望ましい。なので紐を通して首からぶら下げるという形でも所有者への効果はあったりする。


「これで、また魔界探索に戻れるか」

「地質調査もするって言ってたけれど、そっちは大丈夫なのかな?」


 アルバートが首を傾げる。


「ああ。メダルゴーレムを広範囲に撒いて、そこから情報を送って貰えば、現地でウィズに解析してもらえるから……それで足りると思う。冷えて固まった溶岩はそれなりに分かりやすいからね」


 迷宮核で改めて知識を得てきたが……マグマは固まるまでの速度で組織に違いが出るので割と分かりやすい。噴火や流出でマグマが地表に出ると急速に冷えて固まる為、そういった場合の火山岩は特徴が出る。

 これが地下のマグマ溜まりが時間をかけて固まったものの場合、含まれる成分が同じでもまた特徴が異なる。呼称も火山岩ではなく深成岩となるわけだ。花崗岩や閃緑岩等がそれだな。


 流出した溶岩の流れた痕跡等々はそれなりに分かりやすく、メダルゴーレム達の分担作業で事足りるだろうと思っている。それにアルバート達には昨日の今日で腕輪を複数仕上げて貰っているからな。この上更に負担をかけるというのもどうかと思うし。


 というわけで再び魔界探索に出かける準備は整った。食料品も使った分を補充する手配は済んでいるし、浮遊城を発見した際に対応するための準備もした。魔界に王国があるということで書状だけでなく魔王に相対した場合に友好関係を促進するための土産物も用意してあるからな。まあ、まずは王都での調べ物に注力するとしよう。

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