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番外696 王の書状

 ファンゴノイドについて新しい情報が手に入ったところで、迷宮中枢部からフォレスタニア城へ戻ってくる。


「――というわけでベヒモスの親子と戦いを避け、仲良くなることができたのです」

「うむ。流石はマスターだ」


 サロンではアルクスやマクスウェルが、留守を預かっているヴィアムスにも魔界の話を聞かせたりして盛り上がっていた。半分俺の話題になっている気がしないでもないが……反応を見る限り嬉しそうなのであれはあれで良いのかも知れない。

 そんな魔法生物達の様子を微笑ましそうに見ていたメルヴィン王達であるが、俺達がサロンに戻ってくるのを認めるとこちらに笑顔を向けてきた。


「ふっふ。魔法生物達にも慕われておるようだな」

「ええと。何というか……嬉しい事です」


 そう答えるとマクスウェル達の核が嬉しそうに明滅していた。まあ、何というか、マクスウェル達から見ると俺は育ての親のような立ち位置だからというのはあるが……そう思って貰えるのは俺としても嬉しいというか。


 そんな俺の反応にメルヴィン王達は相好を崩して、それから「解析で分かった事があるそうだが」と尋ねてくる。


「そうですね。まずはそのお話を済ませてしまいましょう」


 というわけで迷宮核の解析で分かった事をメルヴィン王達にも伝える。


「それは……ますます王都での調査が重要になるような気がするね」


 ジョサイア王子が思案しながら言う。そうだな。メルヴィン王やアルバートも俺達と同じような結論に達したのか、少し緊迫感のある表情になった。環境変化と言っても気候等に変動が無かったとなると別の原因を考えざるを得ないからな。


「そうですね。ファンゴノイドと交流があったのは魔王国の民と思われますので、そうなると魔王国がファンゴノイドの移住に関わっている可能性があります」

「関わり方……敵か味方かが不明か。魔王国から逃げたか、或いは逆に魔王国が庇護しているというのは十分に考えられる」


 メルヴィン王が目を閉じて言う。確かにな。だが後者の場合は……ファンゴノイドに危険を及ぼす存在なり勢力が魔王国以外にある、という事を意味する。胞子の谷付近に危険な魔物が発生するなりして避難した、という程度なら分かりやすいのだが。


 メルヴィン王達との共通認識も出来たところで、俺達からの報告も一段落というところか。後はブルムウッド用の魔道具を持ち帰り、王都での調査を続行、という事になるだろう。


「石化予防の魔道具に関しては、予備もあった方が良いかも知れないね」


 今後の方針についてメルヴィン王と確認していると、ブルムウッドの魔道具の話になったところで、アルバートが真剣な表情で言った。


「そうだね。頻度が高いわけじゃなさそうだけど、ディアボロス族の種族的な部分に原因があるのなら、必ずどこかで同じ症状の者も発生する事になるから」


 同じ世代で何人ぐらい同じ症状の者が出るのかは分からないが、ディアボロス族に顔の利きそうな人物――例えばブルムウッドや、或いは公的な機関に予備を渡しておく、というのは十分に有りだろう。まあ、その公的な機関――魔王国と良好な関係を築けるなら、の話ではあるが。


 同様にルーンガルド側でも水魔法に高い適性のある者には同じタイプの魔道具で体調不良の予防ができるはずだ。

 封印術は基本的に秘匿するべきものではあるが、少ない容量での解析対策といった技術漏洩防止の技術も発展している。契約魔法と呪法の組み合わせで解析の類を行った場合に魔道具を自壊させたりといった具合だ。そうした魔道具が用意できる事はもっと周知していっても良いだろう。




 話し合いが終わるとメルヴィン王は早速書状を認めてくれた。事前に連絡をしていたという事もあり、封蝋の準備もしてからフォレスタニアに来てくれたのだ。


「ふむ。内容としてはこんなところか。そなた達の紹介と友好を望む挨拶といった無難な内容だが……魔王国の内情が分からぬ段階ではあまり突っ込んだ事も書けぬからな」

「ありがとうございます。大切にお預かりします」

「うむ。そなたならば適切な場面で活用してくれるであろう」


 と、笑みを浮かべるメルヴィン王から手紙を受け取る。ローズマリーが魔法の鞄に仕舞うのを見届けてメルヴィン王は頷いた。



 俺達の紹介という内容が文面に入ったのは、王都での調べ物を行うからだ。

 俺達は未知の地域の調査に来て魔王国の存在を知ったので、友好関係を築けるかどうか、利害関係が一致するかどうかを調べる必要があった、というのを魔王国側にも暗に伝えられるようにしておくというわけだ。


 だから友好を望むという部分にしても、魔王国への呼び掛けでは無く、未だ知らぬ王国の王へ向けた挨拶、という文面になっている。

 これはディアボロス族と一旦別れた後で門を通って国元を行き来して書状を用意したという、こちらの事情を隠すものでもある。


 いずれにしてもメルヴィン王に言われた通り、適切な場面での活用という前提がある。友好関係を築ける相手でなければならない。ルーンガルドやヴェルドガル王国に対して野心的、好戦的であると判断した場合は……極力接触を避け、これまで通り門の存在そのものを秘匿する方向で動くだけの話である。




 さてさて。話し合いも終わり、メルヴィン王とジョサイア王子は湖上遊覧、アルバート達は魔道具作り、という事になった。

 俺達も付き添いなり手伝いを、と考えていたが、メルヴィン王もアルバートも、俺達は魔界から帰ったばかりだから持て成しや魔道具作りの手伝い等は考えずにゆっくり休んで欲しいと言ってくれた。


 代わりに自分達がお持て成しする、と張り切って飛び出していったのは遊びに来ていたラスノーテやマギアペンギン達である。メルヴィン王達が乗った遊覧船の周りを遊泳し、水面に飛び出してアーチを描くなどして、メルヴィン王やジョサイア王子も喝采を送ったりしていた。


 アルバート達工房の面々はと言えばフォレスタニア城の設備を使っての魔道具作りだ。俺が書きつけた術式を魔道具にする作業を眺めつつ茶を飲んだり、というのは俺達にとっての日常でもあるので、アルバートの仕事を見ながらのんびりとさせてもらっている。


「やはり本職は違いますな。テオドール公の術式をしっかりと再現する事もですが……私が魔道具を作ると、どうしても意匠の面では無骨になりがちですからな」


 というのはアルバートの仕事ぶりを見たオズグリーヴの言葉である。


「俺から見るとオズグリーヴ殿の魔道具も割合凝っているように見えるがな」

「まあ……元人間だった頃の経験もありますからな」


 テスディロスの言葉にオズグリーヴが笑う。

 オズグリーヴも魔道具を作れるが、アルバートや職人組の腕前には思うところがあるようで。魔道具の仕上がりも含めたデザイン面に関しても言及しているのは、やはり封印術で魔人の特性を抑えているからだろう。

 オズグリーヴの作る魔道具は無骨と言っていたけれど……実用性や頑丈さを第一にしている印象が見える。使う者の事を考えているという面ではオズグリーヴらしいと言えるのかも知れないな。


「オズグリーヴ様もご無事で何よりです」

「うむ。お前達もな」

「城の皆さんにも良くしてもらっていますよ」

「ふふ、それは何よりだ」


 そんなオズグリーヴは隠れ里の面々とも顔を合わせて、上機嫌そうにしていた。

 レドゲニオス達によればオズグリーヴもフォレスタニアに来てからは特性を封印して過ごしているので、柔らかな表情が増えたとの事だ。

 元々落ち着いた性格ではあるのだろうが、確かにここに来てからのオズグリーヴは好々爺といった印象があるな。

 隠れ里の面々が来てから日が浅い状態で魔界探索に出かけたから心配ではあったが、城のみんなとの関係も良好なようで何よりである。

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