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番外694 異界の報告

 パルテニアラとエレナが魔界の門を開き――俺達は迷宮深層の浮遊要塞へと戻ってくる。


「お帰りなさい。帰ってくるのを待っていました」


 微笑みを浮かべるティエーラ。コルティエーラとヴィンクルも一緒で俺達の姿を認めると喜びを表すように明滅したり、にやりと笑って迎えてくれた。


「良かった……! お帰りなさい!」

「無事で何よりだ」


 ティエーラと一緒に出迎えてくれたのは後詰めのガブリエラやスティーヴン達だ。


「ああ。ありがとう。みんなの顔を見て安心した」

「ただいま戻りました」

「ガブリエラ様……!」

「ただいま、ティエーラ様! スティーヴンお兄ちゃん!」


 俺達が答えるとティエーラ達は笑みを深いものにする。

 エレナとガブリエラが手を取り合い、スティーヴン達にカルセドネやシトリアが嬉しそうに挨拶をかわす。そんなカルセドネ達の様子にエイヴリルもまた相好を崩した。

 やはり魔界だと感じる魔力が違うのでまだ慣れていない俺としては落ち着かないというか、ティエーラ達に迎えて貰って安心したというか。みんなも同じ気持ちなのか、一様に嬉しそうな表情だ。


 迷宮管理者であるティエーラやラストガーディアンであるヴィンクル達がいれば外との行き来も自由に出来るし、スティーヴン達は後詰めでもあるからな。


 俺達としても連絡の時間に合わせて戻ってきた、というわけである。

 さて。ではまずは要塞から出て、シリウス号を要塞外部に召喚し、停泊させておくところから始めるとしよう。




 人員が揃っているかしっかり点呼してから、シリウス号をルーンガルド側に召喚。魔界の地下拠点にて、密航者がいない事を改造ティアーズが確認し、連絡を送ってくれる。

 そうして安全が確保できたところでパルテニアラにエレナとガブリエラが祈りを捧げるようにして、三人で魔界の門を閉じた。


 魔界から戻ってきたアルファは静かに甲板に座っていたが、やはり無事に迷宮に帰ってきて安心しているのか、尻尾の振り方に喜びが現れている印象だ。まあ、アルファは元々迷宮出身だしな。


「みんなで一緒に戻ってきて……門も閉じられれば安心ですね」


 グレイスが微笑んで言うと、マルレーンもにっこり笑ってこくこくと首を縦に振る。


 そんなやり取りを微笑ましく見ながらメルヴィン王に報告と相談があると通信機で連絡を入れた。

 みんなと共に魔界から戻って来た事。緊急性は低めだが重要な報告がある事。そういった内容のメッセージを送ると、ややあって返信があった。


『無事で何よりだ。その口振りではどうやら収穫もあった様子。では、余の方からフォレスタニアへ向かう故、そなたの城で後程合流するとしよう』


 メルヴィン王がこう伝えてくるからには視察なり逗留なり、何かしら訪問の名目を用意してくれているはずだ。何分俺達はシルヴァトリアに出かけている、という事になっている。

 そうなると当然、街中をうろうろするわけにもいかないからそっちの方がありがたい。フォレスタニアの城ならば迷宮内部なのでクラウディアの転移で移動できるしな。




「お帰りなさいませ、旦那様、奥様……!」

「お帰りなさい!」

「お帰り!」


 メルヴィン王に続いてフォレスタニア城や工房の面々に通信機で連絡を入れ、転移魔法でみんなと共にフォレスタニアの城に移動する。城の上部にある城主用の居住区画から下に降りると、セシリアやゲオルグ、使用人の面々と共に四大精霊王といった面々が俺達を笑顔で出迎えてくれた。


「ああ。ただいま」

「ん。やっぱり我が家が一番」


 俺の言葉に続いてシーラが言うと、みんながくすくすと肩を震わせる。

 そんなわけで留守中に何か変わった事がなかったかと、報告回りを手早く済ませつつ、これからメルヴィン王とジョサイア王子、それからブライトウェルト工房の面々が訪問してくる事を伝える。


「では、お出迎えの用意を進めておきます」


 結構な顔触れで、しかも急な訪問ではあるのだが――セシリアは慌てる事もなく落ち着いて応じてくれる。というわけでメルヴィン王達が到着したら迎賓館のサロンに集まって話をすればいいだろう。




 そうして、ややあってメルヴィン王達も到着する。正門前まで迎えにいくと目立ってしまうので迎賓館の玄関ホールで迎える。


「おお、顔を見て安心したぞ、テオドール」

「まずは短期探索も首尾よく行った、というところかな」

「やあ、テオ君。おかえり」


 メルヴィン王やジョサイア王子、アルバートが笑顔で挨拶をしてくれた。


「ただいま戻りました」


 と、俺も笑顔で応じる。迎賓館のサロンにみんなで移動して、お茶と茶菓子が行き渡ったところで順を追って魔界についての報告を始める。

 立体地形図もシリウス号から持ってきているので、それをみんなに見せながらマルレーンのランタンによる幻影と共に説明すれば分かりやすいはずだ。


「まず予定されていた通り、この地点に地下拠点を造りました。周辺の状況を確認したところ、地上は森になっていました」


 そう言いながら、ランタンを使って魔界の様子も見てもらう。


「これはまた……凄まじい光景だな」

「空の色も違えば、植物すらこちらでは見ないものばかりだな……」

「これは……面白いね」


 魔界の光景に、メルヴィン王、ジョサイア王子、アルバートは三者三様の反応を見せた。


「見た目も変わっていますが、環境魔力がどこもかしこも濃いですね。総じて魔物も強力になりがちかも知れません」


 そうやって魔界の光景を見てもらうところから始まり、廃墟にベヒモス親子が居着いていた事。ディアボロス族を見かけて協力を持ちかけ、ベヒモス親子共々友好関係を築いた事等……。起こった事を順番に伝えていく。


「ディアボロス族の見た目はやや威圧感がありますが、お話をしてみれば義や情に厚い種族という印象がありました」

「そもそも人里離れた場所へ危険を冒してまで魔石の採掘に来たのは、恩人を助けたいという理由であったからな」


 ディアボロス族と接した印象についてエレナが説明すると、パルテニアラも目を閉じてしみじみと頷く。

 エレナとしては魔界で見たもの、感じた事をしっかり伝えなければという想いがあるのだろう。

 俺からもディアボロス族を実際見てみれば魔力反応も人とエルフやドワーフぐらいの違いしかなく、邪精霊に近い悪魔とは違う、という事もしっかりと伝える。


「魔界の住民達……それに巨獣とも友好関係を築いたと。いつもながら驚かされるが。そなたらがそう言うからには、どうやら信頼のおけそうな者達であるな」


 メルヴィン王はそう言って愉快そうに肩を震わせるが、すぐにその表情が真剣なものになる。


「しかし人里離れた、と言うからには……そうした拠点もある、という事か」

「そうですね。かなり高度な魔法技術を持つ国をこの目で確認しました。魔界の王を魔王と呼び、その王を中心に纏まっている国のようです」

「魔王とはまた……」

「字面は確かに物騒ですが、国民からは慕われている印象がありますね」

「なるほどな。だからこそ魔界の王か」


 メルヴィン王が納得したように頷く。魔王に対して抱いた印象についてはきちんと伝わったようだ。


 それから街で見た事聞いた事。ヴェリト達の事情とブルムウッドの病。その解決策と魔道具を持ってくる約束についてであるとか想念結晶の話もメルヴィン王に聞いてもらう。


 消えたファンゴノイドの事や浮遊城の落ちた場所が様変わりしていた事等、報告すべき内容はまだ色々とあるのだが、今回一番重要なのは魔王という人物とその国の存在である。

 想念結晶を作り出す程の魔法技術を有する国。そして、俺達が魔王に対してどういう印象を受けたか。魔王という字面だけで誤解されないように伝える事が重要だ。

 その上で俺達はどうするのが最適なのか。


「辺境の向こうは魔物が多い危険地帯という事であまり知られていないようです。僕も辺境の外から来たと伝えてあるのですが、こういう形で知り合ったディアボロス族はともかく、国に間諜として疑われるのは厄介ですから」

「ふむ。一理ある。その点については潔白を証明できるように、余が書状を認めるとしよう。だが、使われている文字も違う以上は、それはあくまで保険、という事になるか」


 ある程度話をしたところで、メルヴィン王はこちらの相談したいことを察してくれたのか、そんな風に向こうから言ってくれる。


「ありがとうございます。その上でもう少し情報収集をして魔王の人となりや、歴史的背景を探ってから動く、というのが重要なのかなと思っています」


 情報がなくては動きようがないからな。ブルムウッド達と王都の図書館に向かうという約束もしている。その事も含めて伝えると、メルヴィン王達は真剣な表情で頷くのであった。

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