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番外692 胞子の谷

 ベヒモス親子の様子を見つつ、遺跡で魔道具の材料となる魔石を調達してくる、と言ってブルムウッド達には話を通し、後日またこの街で合流してから王都へ向かおう、という事になった。

 最初の探索期限に合わせて一旦戻る必要があるからな。魔道具もその時に工房で作ってくる予定だ。


 高度な魔法技術を持つ国家が存在しているという事で、メルヴィン王の書状を預かってくる必要も出てきた。これはあくまでも俺達は使者であり間諜や侵略が目的ではない、というのを示すためのものであるから、そもそも魔王が俺達の立場では交渉不能だった場合、渡さずにそのまま、という事になるだろう。


 そもそも使われている文字が違うから書状があっても効果を発揮しにくいというのはあるな。シリウス号の存在と合わせて内容を信じてもらう、という方向になる。いずれにしても現時点ではルーンガルドから来たとは明かせない状況だな。結局もっと多くの情報が必要、というところに帰結するわけだ。


「しかしまあ、魔王に想念結晶か」


 シリウス号で移動していると、艦橋でパルテニアラが言った。


「色々と気になる情報が出てきましたね」

「うむ。妾達が去った後になって、ここまで高度な魔法王国が建国されているとは思わなんだ。様々な魔物が取り込まれたり、既存の魔物が変異種となったのは知っていたが、ディアボロス族やギガース族等は存在を知らなかった」


 エレナが応じるとパルテニアラがそう言って目を閉じる。僅かに眉根が寄っていて、もしかすると元になった種族を自分なら魔界から助け出せたのではないか、という後悔があるような気もする。

 パルテニアラが把握している人員は可能な限り救助しているそうだが、賊や脱獄犯、敵対勢力の逃亡兵といった面々はベシュメルクから逃げる立場だったから、魔界からの脱出の呼び掛けに応じなかった可能性がある。そうした面々がディアボロス族やギガース族の出自に繋がった可能性は否定できないな。とはいえ――。


「確かに彼らに関しては人と比べた場合の魔力の違いに関しては、エルフやドワーフと同じ程度の差異しか感じませんでしたが……。出自に関しては変異とは限らないですよ」


 ディアボロス族やギガース族は人に近い姿をしているから、そう思ってしまう気持ちも分かるが……まあ、魔界だからな。

 ファンゴノイドやインセクタス族が生まれているような場所だ。変異だけでなく精霊の受肉や、遺骸等からの再構成というのもあっておかしくはない。そして今となっては確かめようもない。


 彼らが魔界をどう思っているのか、ルーンガルドを知ってどう思うかはわからないが……街の賑わいはそう悪い物ではなかった。今を生きる彼らにとっての故郷であるという事だけは変わらないだろう。

 そうした考えを説明するとパルテニアラは真剣な表情で頷く。


「受肉や再構成、か。確かにそうした可能性もあるな。そして……生まれ故郷か。確かにそうだ」


 そう言ってから「ありがとう、テオドール」とパルテニアラは目を細めて笑う。まあ……気に病み過ぎるのは良くないからな。そんなやり取りにマルレーンもにこにことした笑みを浮かべていた。


「話は戻ってしまうけれど、想念を集める結晶というのは……精霊や月の王家、魔人……それからベシュメルクの呪法にも通じるところがあるわね」


 そうしてパルテニアラが気を取り直したところを見計らい、クラウディアが言った。


「遺跡にかけた防御呪法を見ていたから思う事ではあるのだけれど……あれも理念を守ろうという皆の気持ちで強化していたと考えると……想念結晶も呪法の系譜ではあるのかしら」

「感謝や尊敬、忠誠を原動力とするというのは、精霊や月の王家に通じるものがありますね」


 ローズマリーの推測に、アシュレイも言葉を続ける。


「呪法と繋がりがある、とするのならば……エルベルーレの残党が逃げおおせて直接的な系譜になった可能性と……ファンゴノイドが伝えて研究開発が進んだ可能性が考えられるわね」


 と、ステファニアが思案しながら言った。そうだな。後世に呪法が伝わるならそれら二つのルートが考えられる可能性としては最も大きいだろうか。あくまで、現時点で分かっている情報の中で考えるなら、の話ではあるが。


「ん。ファンゴノイドは、呪法を知ってる?」

「何度か目の前で見せておるし質問も受けたな」

「呪法の存在を知っていれば研究を重ねて独自に発展する事もあるかも知れませんね」


 シーラの疑問にパルテニアラが答え、グレイスがみんなにお茶を淹れながらそんな風に言った。


「想念結晶に使われている技術は確かに呪法に似ていますが独自性も強く見えます」


 と、エレナが見解を述べる。そうだな。そもそも建築様式等々、全く違うように見えた。仮にエルベルーレと同じ系譜であっても時間が経ち過ぎて別物に変化しているのは間違いない。


「この件に関してはやっぱりファンゴノイドの見解を聞いてみたいところだね」

「賢人と呼ばれるからには、それだけの理由がありそうだものね」


 イルムヒルトが神妙な表情で同意してくれる。

 そうしてみんなで今まで得た情報を分析したり話し合ったりしながら、シリウス号を飛ばす。遺跡から街までの地形図は多少できているが……このまま遺跡に戻るのではなく、パルテニアラの記憶にある場所を巡ってみるというわけだ。


 ディアボロス族を送り届け、街の場所を確認するのを優先していたので探索は後回しだったからな。同行者がいては調べられない事もある、という面もあったが。

 辺境と呼ばれる場所なら割と行動に融通が利く事も判明した。まあ、魔界の魔物や変異を起こす場所に気を付けながらの探索ではあるから慎重にいくとしよう。




 まずは――かつてファンゴノイドが暮らしていたという場所へと向かう。

 遺跡から少し北西側。山を越えたところにある谷合いだ。湿度が多く、キノコが好みそうな環境で、植物も豊かな地ではあるのだが。

 生命反応、魔力反応を探りながら、シリウス号を上空に留まらせて降り立つ。


「ここは妾達の間で胞子の谷、と呼ばれた場所でな。巨木や朽木を利用してファンゴノイドが暮らしていた土地だ」


 パルテニアラが言う。そう。そうだな。かつてここに何か知的な種族が住んでいた痕跡はある。ファンゴノイドは木魔法を操るのだろう。あちこちの木に住居らしき洞があったし、地面に並べられた朽木もファンゴノイドが「新しく生まれる」菌床として使われていたそうだ。


「キノコそのものはいっぱい生えているんですけどね」

「えっと、こんにちは?」

「やっぱり……ファンゴノイドじゃない……?」


 シオンの言葉を受け、マルセスカやシグリッタがあちこちのキノコに話しかけても返答はない。


「感情の波長を感じられないし、やっぱりただのキノコなのではないかしら」

「残念」

「どこにいっちゃったのかな」


 エイヴリルが言うと、カルセドネやシトリアも残念そうな表情を浮かべていた。


「ふむ。わたくしとしては魔界のキノコや植物を持ち帰れないのも残念ではあるわね」


 というのはローズマリーの意見だ。ファンゴノイドこそいないものの、色んなキノコが生えているからな。だが、防疫という観点からは魔界の動植物を迂闊に持ち帰るわけにもいかない。


「ここで何かが暮らしてたのは、エルベルーレの遺跡程昔の話じゃない」


 シーラが木の家やあちこちの痕跡を調べてそう言った。確かに……風雨に晒されてはいるが、木の家は植物としてまだ生きているので保存状態は悪くない。経過年数から見てもそこまで昔、というわけではなさそうで……エルベルーレが遺跡ならこちらはまだ廃村、程度に表現しても良いぐらいだ。


 まあ、ともかくこれでヴェリト達の話は裏付けられたわけだ。かつては他の種族がこの土地に来ていた、と言う事も分かっている。でなければ賢人とは呼ばれないだろう。地理的には魔王の国の人間が訪問してこれる場所ではあるか。


「地層や年輪を見て、かつての環境と今の環境の違いを迷宮核で分析にかけておこうかな」


 キノコも割とデリケートだから、未だにこの谷に色々なキノコが生えているといってもファンゴノイド的には居心地が良くなかったのだろう。かつての環境との違いを調べ、昔と似たような条件を持つ場所を探していけばファンゴノイドに会える……かも知れない。

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