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番外689 原因と予防と

「まずは……快復おめでとうございます」


 喜びに沸いているディアボロス族の面々が落ち着くまで待って、頃合いを見計らってから祝福の言葉をかけると、ブルムウッドからは「ありがとう。世話になった」と返答がある。

 というわけで、早速ではあるが循環錬気によって、体内魔力の動きを調べさせてもらえないか聞いてみる。


「――循環錬気と言って、自分と相手の生命力と魔力を活性化させる技法があるのです。それを使って体内魔力の状態を診断しようというわけですね。病気の原因がはっきりすれば予防や再発防止が可能かも知れません」

「そんな技法があるのか……。それはこちらから頼みたいぐらいだ。俺に関しては再発前に魔法薬を用意しておけばいいだけの話だが……他のディアボロス族の今後にも関わる話だからな。お願いできる、だろうか?」


 ブルムウッドは真剣な表情になると寝台から立ち上がり、俺に一礼してくる。


「勿論です」


 こちらもそう答えて、ブルムウッドには椅子に座ってもらう。ディアボロス族の面々が見守る中で再度循環錬気を行っていく。

 体内魔力の流れは……正常化しているな。石化していた部分の魔力の流れ、状態も真っ当なものだ。


 但し、体内魔力の質そのものが先程と少し違う。

 ……これは……そうだな。快復したからではなく、魔法薬の効果か。魔力の浄化と中和、そして抑制。石化そのものを元に戻す効果もあったのかも知れないが、今確認できるのはそういった効果だけだ。

 そしてやはりというべきか、先程の仮説の裏付けになった。眠っている間に調べさせてもらった本来のブルムウッドの魔力資質の事を考えると……。


「ブルムウッドさんに確認したいのですが、魔力資質からすると、土魔法を得意としている、という事で間違いないでしょうか? それも、かなり高い適性とお見受けしました」

「ああ。そんな事もわかるのか」


 と、俺の言葉に少し驚くブルムウッド。


「ええ。実は似たような原理で身体に不調を起こす、という症例を知っているのです。僕達の種族だと水魔法に適性が高過ぎて体調を崩す。或いは魔力の質によって環境魔力に体内魔力が散ってしまうというものですね」


 例えば――アシュレイや母さんのような。俺の言葉に、艦橋のアシュレイやグレイスが「ああ……」と声を漏らして目を閉じる。


 ディアボロス族の場合は土属性の高適性によってそういう症状を起こしてしまう。そういう仮説だ。ルーンガルドの種族では土属性によって不調を起こしたという症例は聞いた事がないけれど、この場合はディアボロス族の体質と噛み合った結果というべきだろうか。


 先程のブルムウッドの魔力反応は、眠っている割には比較的魔力が活性化していた。そして活性化している部分には偏りがあり……石化している箇所に向かって僅かながら作用していたのだ。

 魔法薬の効果も……その仮説の裏付けにはなるだろう。だから体内魔力を元の状態から変化させる事で回復が見られるが、対コカトリス用の解除系術式では回復しない、というわけだ。


 仮説と実際に観測できた魔力の動きについてこちらの考えを説明する。


「自分自身の魔力資質とその暴走が原因ってわけか。なるほどな……」

「再発率が高いわけだ……」


 俺の言葉にブルムウッドは顎に手をやって思案し、ヴェリト達は眉根を寄せる。

 そうだな。一度発病した者は再発率が高いとの事だが、仮説が正しいなら体調不良が起こる頻度は低く、石化という重篤な症状として表れるわけだ。


「あくまで現時点では仮説ですが……もしこの考えが正しいのであれば再発を防止する事は可能ですよ」

「そう、なのか?」

「魔法薬の効果はそうした魔力資質に変化を与え、中立に近付けて浄化と抑制を行うもののようです。言うなれば魔力を「安全」と思われる状態に強制的に変化させるような薬ですね。それで効果が見られるなら……症状が起きる前に土属性の魔力資質を抑制しておけばいい、というわけですね。そういう術を魔道具として用意できます」


 要は封印術の応用で、極端な魔力資質という特性を封印しておけばいい。封印とまでは言わず、リミッターを設けるぐらいの感覚だが。

 まあ……他にもアシュレイの場合のように常日頃から循環錬気を行うという手はあるが……それは俺と生活しているからできる事だしな。封印術という解決策もあることはあるが、アシュレイには「今まで通り循環錬気だと嬉しいです」と、少しはにかんだ笑顔で言われてしまった。


 もしもの場合に備えて抑制の為の魔道具も預けてあるけれど、そちらはあくまで保険という位置付けである。


「仮説が正しいなら、少し土魔法の適性や術の威力が減る代わりに予防できるということになるか」

「魔道具を作るとしたらですが……自分の意思で一時的な解除も可能という具合にはできるかなと」

「それは……言う事がないんじゃないか?」

「けど……費用面、は?」


 俺の言葉に明るい顔になったり不安げになったりといったディアボロス族であるが。魔界でもやはり高度な魔道具は値が張るか。


「仮説の段階で効果の分かりにくい予防措置で、しかも限定的ながらも弱体化するというのは……流石に売り物にはできないかなと。だから実験に協力してもらうという形で、見返りは何かしらの情報を貰えれば十分ですよ。ああ。魔道具については一応秘匿するべき術という扱いなので、秘密を厳守してもらえると助かります」

「秘密の厳守に関しては約束できるが……情報というのは?」

「ああ。それについては俺達から説明する」


 ヴェリト達は俺と出会ってからの経緯を伝える。ヴェリト達はブルムウッドに秘密で行動していたようだが、俺の事もあって病気が治ったら包み隠さず話をするつもりだったようだ。そもそも、出稼ぎにしては短期間でかなりの金額を稼いでいるからな。その辺を聞かれるとどちらにしても発覚すると考えての事だろう。


「そんな事があったのか……。危険な真似はするなとあれほど言ったんだがな……。無事だったから良いものの、仕方のない奴らだ」


 ブルムウッドとしてもヴェリト達の事を心配していたようだ。目を閉じてそう言った後、ヴェリト達に向き直って言う。


「だが、今回はお前らに助けられちまったな。礼を言う」

「俺達は……ブルムウッドがいたから今こうしていられるんだ。礼を言われるような事じゃないさ」


 ブルムウッドはヴェリト達と笑い合うと、俺に向き直り再び一礼する。


「こいつらの事を助けてくれて、改めて感謝する。魔道具の話も本当に助かる。何かしら、それに見合うだけの情報を提供できるのなら良いんだがな……」

「法に触れるようなお話や秘密の情報を聞きたいと思っているわけではありません。この近辺の常識に疎いので、一般的なお話で十分助かると言いますか。諸々納得してもらえるなら、魔道具の方はなるべく早めに用意します」

「分かった。気になった事があれば何でも聞いてくれ」


 というわけでブルムウッドにも色々情報を提供してもらうという約束を取り付ける事ができた。一旦魔界から戻る予定があるから、その時に工房でしっかりとしたものをいくつか用意してもらえば良いだろう。仮説通り再発の予防効果が期待出来るなら、他のディアボロス族が同じ病気になった時も同様に役立つだろうしな。


「ああ。そう言えば、早速情報が聞きたいってわけじゃないけど、同じ素材でできる魔法薬の方はどんな効果だったのかな?」

「ああ。あれか……。何でも、一時的に魔力を増強させる魔法薬とかで、王都で沢山必要としているお偉いさんがいるんだとか」

「そのお陰で薬が高くなっちまって大変だったな。素材ごと買い占めるみたいな事は流石にしなかったから助かったが」


 ヴェリト達はそういって顔を見合わせてかぶりを振る。

 魔力増強薬、か……。何だろうな。街の警備が割と緩かったから戦争に備えてというわけでもなさそうだが……。何かしらそういった薬を備蓄する理由があるということか。

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