表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1454/2811

番外688 ディアボロスの病

 民家の扉をノックすると、すぐに返事があった。顔を出したのはディアボロス族の男女で、歳の頃はヴェリト達とそう変わらない。

 ブルムウッドではなく、ヴェリト達と一緒に助けられた者達、という事らしい。ヴェリト達が不在の間、街で働きつつブルムウッドの身の回りを世話する役回りを担っていたのだ。


「おお、良かった! 戻って来たか……!」

「お帰りなさい! 怪我してない?」

「ああ。この通り、みんな無事だ。魔法薬も手に入れてきた」

「同行者もいるが、今回色々と世話になった御仁だ。失礼のないようにしてくれ」


 初対面となるディアボロス族の面々と俺と、お互いに紹介してもらう。


「テオドールは、巨獣に遭遇して動けなくなっているところを魔法で助けてくれたんだ」

「それだけじゃなく巨獣と交渉をして採掘の時の安全まで確保してくれたのよ」

「巨獣と……交渉?」

「魔法使いなのね」

「まあ、詳しい事は追々話すが……俺達の事情を伝えると治癒術の心得もあるからと、同行してくれる事になった」


 二人はやや戸惑っていたようだが、治癒術の心得もある、と聞くと納得したようだった。


「まあ……魔法薬もあるから出番があるかは分からないけどね」

「そうだったんですか。ヴェリト達を助けて貰ってありがとうございます」


 やや畏まる二人であるが、この辺の事情に詳しくないので色々情報を教えてもらいたくて協力している、という事も伝えると幾分か安心してくれたようだ。そうして一緒に民家の中へ向かう。


 ブルムウッドは――果たして家の奥の寝台に横たわっていた。ディアボロス族の男で、年の頃は人間でいうなら30そこそこ。静かに寝息を立てているので、表情の作り方や声、話し方といった性格面は分からない。


「額の紋様は、起きていると病状が進行しやすくなるから、食事等の必要な時以外は眠ってもらっているんです」


 と、教えてくれる。額に何かの顔料で紋様魔法を描いて眠りにつかせているようだな。


「俺なんて放っておいて構わないと、ブルムウッドは言っていたがな。助けてもらった恩ぐらい返させてくれなきゃ俺達が自分を許せないからって……みんなで説得したんだ」

「みんなで頑張って薬代を稼ぐからって。流石に遺跡に出かけてっていうのは……ブルムウッドに心配かけるから秘密にしたけれど」


 眉根を寄せるヴェリトと、目を閉じるオレリエッタ。何かできなければ自分が許せない、か。そういう想いは……分かる気がする。

 そうしてヴェリト達が布団を丁寧に除けると、ブルムウッドの病状が明らかになった。


「これは……」


 両足と……それから左手の指先。身体の末端部が石のような質感になっていた。質感、ではなく、実際に石化しているのだ。右手は大丈夫だが、左手は掌の中程まで変化が進行しているようだ。両足は――衣服があるのでどこまで進行しているのかは分からないが、少なくとも見えている部分……足首より先は完全に石になっている。


 ヴェリト達の話からはブルムウッドはかなり腕の立つ人物という印象があったが、これでは……確かに自分でどうにかする、というわけにもいかないな。活動していると病状の進行が早くなるというのなら尚更だ。


「末端部から石になっていく。たまに俺達ディアボロス族に現れる病で、バジリスクの遅毒なんて病名も付けられているらしい。そうした魔物と接触する事がなくても発病する事があるし、そもそもコカトリスやバジリスクの石化に対抗する術が効かないから、原因が分からないんだ」

「末端部から進行すると言っても……腹部まで達したら致命的か」

「内部はやや遅れるから、実際はもう少し猶予があるが、な。文献を調べて……この魔法薬で石化した箇所も元通りに治せると知ったが、砕けてしまえばそこは繋がらないし、手遅れになる前に薬を用意する必要がある。年月を経ての再発率も……結構あるらしいがな」


 なるほどな。末端部から身体の中心へ。外側から内側へ向かって石化が進行。手足ならまだ生きていられるが、内臓にまで石化が及べばそれでおしまいだろう。コカトリスやバジリスクといった種族が持つ石化の邪眼の原理は、実は変身呪法に似たもので魔法的に相手の状態を一時的に変化させているというものだ。だから石化を解除する対抗術式があるのだが……それが通じないという事は原理が違う、ということになるな。


 だが魔法薬があるのだから治療法は判明している。これは原因が分からないなら分からないなりに、様々な薬を試した結果ということだろうか。

 文献を調べたと言っていたから、治療の見通しが立つまではかなり苦労したのだろう。

 そして、ディアボロス族特有の病気のようだから、魔界の環境による変異が直接的な原因、という事もなさそうだ。


 似たような病気では……エベルバート王の瘴気侵食があるが、それと原理が同じかは分からない。幾つか仮説は立てられるが……。


「薬を飲んでもらう前に、少しだけ状態を調べても良いかな?」

「安全なのか? 確かに、伝染する病気ではないが」

「気を付けて進めるよ」


 循環錬気で調べるのはその通りだが、原因が分からない内はブルムウッドの体内魔力を俺の方で体内魔力に混ぜるのは止めておいた方が良いだろう。あくまでこちらの魔力を送り込んでブルムウッドの状態を探る、という手法を取らせてもらう。


 石化していない方の手をとり、こちらの循環魔力を慎重に送り込んでいく。そうしてブルムウッドの魔力面から状態を探っていく。特に、石化しかかっている部分を注視しながら、慎重に探る。


「これは……」

「何か分かったのか?」


 俺の反応に身を乗り出してくるディアボロス族の面々である。シリウス号の艦橋でも皆固唾を飲んで見守っているといった印象である。


「一応は。でも今の時点で何か言うより……。念のために薬を飲んで貰ってからの状態と比較したいな」

「分かった。それじゃあ早速、薬を飲んで貰おう」


 ヴェリトが真剣な表情で頷き、手桶に水を汲んでくると額の紋様魔法を布で落とす。皆が見守る中、少しの間を置いてブルムウッドが薄く目を開けた。


「おお。お前らか。稼ぎに行ってると聞いたが……随分と早かったな」

「この通りみんなで帰ってきた。薬も買って帰ってきたから、早速試してみてくれ」

「すまねえな。普段お前らに偉そうな事を言っといて、このザマじゃあな」

「気にする事はないさ」

「そっちの……子供は?」


 ブルムウッドが俺に視線を向ける。


「テオドールと言います」

「仕事を手伝ったり、助けてくれたりしたの。その、治癒術の心得もあるっていうから付き添ってくれたんだよ」


 オレリエッタが言うとブルムウッドは身体が動かせないなりに俺に一礼してきた。


「どうやら……世話になっちまったようだな」


 ブルムウッドはヴェリト達の様子から何か察したようにも見えるが。


「対価は貰っているのでお気になさらず」


 そう言って笑い、俺は一歩下がって様子見に回る。


「ブルムウッド。魔法薬だ」

「ああ。有難く頂く」


 そう言ってブルムウッドは薬の入った瓶を受け取ると、ゆっくりと飲み干していく。

 魔法薬だけあって、効果は劇的だった。石化しかかった場所が青白い光を放ちながら、末端部に向かって少しずつ元に戻っていく。最初は左手、次に両足。左手を握ったり開いたりして、ブルムウッドは頷く。


「どうだ?」

「違和感はないな。足も……感覚が戻っていくのが分かる。何だかくすぐったく感じるが」


 そんなブルムウッドの返答に、ヴェリト達は顔を見合わせて笑顔になった。


「やった……! 戻ってるぞ!」

「まだ……体がきちんと全部戻るかまで見極めなくちゃ……!」

「そ、そうだったな!」


 足首、踵。足の甲。爪の先まで元に戻ったところで、ブルムウッドが足の指を動かすとディアボロス族の面々から歓声が漏れた。


「やったわ!」

「良かった! ブルムウッド!」


 と、抱きつかれて揉みくちゃにされるブルムウッドである。


「お前ら、ちょっと、落ち着けって……!」


 そう言いつつもブルムウッドも嬉しそうな笑顔で。


「ああ……。良かったですね、ブルムウッドさん!」

「本当に元通りになって良かったのう……!」


 シリウス号の艦橋でもみんな喜びに沸いている様子だ。文献通りに治療薬が効果を発揮して何よりである。問題は再発率が高い事、らしいが。これについてはもう一度循環錬気で状態を見せて貰い、仮説が正しければその対応策が取れる、かも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ