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番外687 巨人の薬師

「魔石の質も良いし量も十分だ。丁寧に採掘をしてくれたようだな。これなら……多少は色を付けられる」


 店主はテーブルの上に積まれた魔石を見て、満足そうに笑う。


「ありがたい。感謝する」

「いや。今後もお前達に採掘の仕事を頼む事があるかも知れんからな。治療が上手く行く事を願っている」


 ヴェリト達は店主のその言葉に頭を下げる。そうして代金を受け取り、確認が終わったところでディアボロス族の表情も明るくなった。


「良し……! 魔法薬分の金額は上回ったな……!」

「お金も余りそうだし……その分はテオドールさん達に渡せるんじゃない?」

「そうだな……。遠くからこっちに来たばっかりなら、持ち合わせも少ないんじゃ?」


 オレリエッタの言葉に、納得するように頷いているディアボロス族の面々であるが。


「確かにそれは助かるけど……お礼に関しては色々情報を貰っているからね。それで気が済まないっていうなら、治療の話が済んでからで問題ないよ。予定外の急な出費もあるかも知れないし、諸々状況が確定してからで良いと思う」


 必要なら魔道具を作って売るとか素材を処分する、という方法でも路銀は稼げるし、そもそも必要なものはシリウス号に積んであるからな。まあ、こっちの通貨の持ち合わせがあると助かるというのも事実ではあるが。

 俺がそう答えると、ヴェリトは目を閉じる。


「それは確かに。だが、俺達の渡した情報は取るに足らないもので、対価としては足りていないとも思っている。今は状況的に余裕がないのも確かだが……いずれにしても必ず恩は返す」

「分かった。覚えておく」


 真っ向から見据えてそう返答すると、ヴェリト達も納得してくれたようだ。そんなわけで店主には一旦別れを告げ、続いて街を移動する。荷車は折りたたむように変形させ、キャリーバッグのような形態にしてから自走させる形で運ぶ。ふむ。これを売って路銀にしても良いかも知れないな。とまあ、荷車の事はともかくとして。


「さっきの店主さんも魔法薬を作れそうな雰囲気があったけれど、専門外なのかな?」


 と、少し気になっていた事を尋ねてみる。


「一般的でない魔法薬は悪用される危険があるからという理由で、治療院や取扱いの許可を得た術師以外は扱えない決まりなんだ。ポーションなんかは自作も可能なんだけどな」


 なるほどな。まあ、確かにヴェルドガルでも魔法薬の使用に関しては色々問題が起こったし、禁制品指定されている物もあれば取扱いに別途許可が必要というものもある。

 少なくとも、この国では一律規制してそれ以外の者には魔法薬を扱えないようにする、という制度なわけだ。ポーション等も魔法薬と言えるが、これは一般的な物なので大丈夫という理屈になるのだろう。


「まあ……少し前には治癒術も調薬もできる腕の良い治療師が院にいたらしいんだけどな。高齢で亡くなり……今は許可を受けた魔法薬師が調薬を担っている」

「それもあって、俺達の必要としている金額も増えてしまったんだ」

「足元を見られているとか?」

「元々値段の張る薬だからそういうわけじゃない、と思う。俺達の必要としている魔法薬の素材が、別の魔法薬にも使われているもので……その薬を欲している客がいるとか」

「同じ素材を使っていても俺達の必要としている薬の製造にはある程度の量が必要だからな。素材自体も手に入りにくくなっているから、そうした関係で値段がどうしても高くなってしまうとは聞かされた」


 ディアボロス族の面々はそんな風に言ってかぶりを振る。素材の面で他の魔法薬と需要が被って高騰している、というわけか。


「でも薬師さんと約束を取り付けたからね。戻って来るまで素材の取り置きをしてくれるって言ってたわ」

「治療院だったら公の施設だから、こうした事情に左右されずにもっと安くなったのかも知れないがな」

「まあ……腕のいい治療師は引っ張りだこで、どこも人材不足ってこった。薬師も腕は確からしいし、贅沢は言えんな」


 魔界の制度や素材の調達ルート等はよく分からないところがあるが……。まあルーンガルド側も治癒術師は希少という扱いだったからな。魔界もそのあたりは変わらずか。

 政治形態についてはあまり根掘り葉掘り聞いても密偵の類かと不信感を抱かれてしまう可能性もある。もう少しディアボロス族と打ち解けた後か、話題の中で自然に情報を得られればと思っていたが、この街もどこかの国に属している、というのは間違いなさそうだ。


「魔界はやはり……大変そうな環境ですよね。国として纏まっているのでしょうか」

「街の中心部にある塔の水晶も気になるわね。……あれも何か、公的な目的がある物に見えるけれど」


 と、グレイスとクラウディアがこちらのやり取りを水晶板モニター越しに見て、そんな言葉を交わしていた。


 ディアボロス族と話をしながら街を進んで行くと、大通りに出る。様々な種族の行き交う通りを進んで、そうして小奇麗ながら割と大きな扉を持つ建物の前に到着した。ランタンと共に観葉植物の鉢植え等が軒先に並んでいて、割と雰囲気が良い。看板に書かれている文字は魔界のものなので読めないが。


 扉を開いて店内に入ると……やはり軒先と同じように小奇麗で清潔感があった。

 色んな薬瓶が陳列された棚があり、奥の作業場では計量用と思われる道具が机の上に並んでいたりするが、作業場と店内は風魔法のフィールドで遮断されているらしく、薬品の臭い等は驚くほど少ない。


 果たして店主は――青い肌色の巨人であった。ディアボロス族によるとギガース族、というらしい。街で見た男のギガースよりは小柄だろうか。それでも身長にして2メートル以上はあると思うが。


「あなた達は――。そう。戻ってきたのね」


 店主が静かな声で言う。どうやらかなり落ち着いた性格の巨人のようだが。


「言われた代金は用意してきた」


 ヴェリトがそう言ってぼんやりと光る貨幣をテーブルの上に並べると、店主もそれを受け取り、静かに頷く。


「確かに受け取ったわ。魔法薬はすぐに作れるから待っていて頂戴」

「それは……助かる。素材を取り置きしておいてくれるとは聞いたが……他の客との関係は大丈夫なのか?」

「ええ。素材不足で作れないと伝えてあるわ。他の客の事情は話せないけれど、逼迫した事情の客を優先すべきと思っているもの。あなた達が先約である事には間違いないし、値段が高くなってしまっている事も、申し訳ないと思っているのよ」


 なるほどな。店主はそう言ってから奥の作業場に引っ込んで行った。扉を閉めてしまったので作業の過程を見る事はできなかったが……まあそれは企業秘密故に仕方があるまい。それから暫くして戻ってきた店主の手には、鮮やかな青色の液体を収めた薬瓶があった。


「これで症状は治まると思うわ。けれど例の病は原因が分からないの。再発の可能性には気を付けておいて」

「その時は……また世話になるかも知れない」

「難儀なものね……」


 と、ヴェリトの返答に店主は目を閉じるのであった。

 そうして店主に見送られて店を後にする。元来た道を戻ってまた入り組んだ路地を進んで行くと、段々建物も古く粗末なものが目立ってきたようだが……。


「俺達は皆、開拓村の出身で……魔物の襲撃で孤児になった身の上でな。それを助けてくれたのが、恩人であるブルムウッドさんなんだ」

「戦い方や生きるための手段。ディアボロス族としての力の使い方を教えてくれた……恩人であり恩師だよ」


 ヴェリト達が遺跡に魔物がいると聞いても臆さず向かっていけたのは……その為だったというわけか。流石にベヒモスは対処できる範囲を超えていたようだが。

 そうして、小さな家の前で足を止める。ここにその、ブルムウッドという人物がいるわけだ。病気の内容についてはシリウス号での移動中に少し聞いている。さて。俺達も力になれると良いのだが。

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