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番外686 魔界に住まう者達

 ギーレイとの挨拶もそこそこに、魔界の街へ向かってディアボロス族と共に進む。

 街が近付いてくると更に色々な種族も見受けられる。インセクタス族にディアボロス族。門番は最初リザードマンかと思ったが……体格やらが違う。もっと屈強なドラゴニアン。もう片方は甲虫型のインセクタス族だ。


「迷宮内で戦った事はありますが……幻の種族と言われているんでしたか」

「エンデウィルズにはいたけれど……本来は伝承の中だけでしか聞かないわね。目撃情報が殆どないらしいわ」


 と、シリウス号の艦橋でこちらの様子を見ていたグレイスが言い、ローズマリーが驚きを露わにする。確かに……エンデウィルズに出没したぐらいで一般には迷宮に出るという情報すらなかったな。魔界で普通に生きているとなると……もしかするとかつてはエルベルーレ近辺にいて魔界に取り込まれたなんていう可能性もあるが……。


「おお! ディアボロスの! 無事に帰って来たか!」


 ドラゴニアンの門番はヴェリト達に気付くと厳つい顔を綻ばせる。どうやらかなり豪快な性格のようだ。


「ああ、ガウェイグ。お陰様でみんな無事だ」


 ガウェイグはその返答にうんうんと頷くも、俺を見ると表情を真剣なものにする。


「ふむ。角も無ければ牙も無し。見た事のない種族だが……」

「テオドールと言います。少し離れた土地から、この近辺に見聞を広めに来ました」

「テオドールには、採掘の時に危ない所を助けてもらったんだ」


 ガウェイグは俺とヴェリト達を交互に見た後、目を閉じる。


「ふうむ……。まあ……儂としては門番の役割を全うするだけだな。ちょっとそこの水晶部屋まで来て貰えるか?」

「分かりました」

「俺達はテオドールの検査が終わるまでここで待っているよ」


 ヴェリト達もまた真剣な表情で俺を見送ってくれる。というわけでガウェイグはもう片方の門番にその場を任せ、俺と共に門の脇にある検査用の設備に向かった。

 水晶部屋の中に入ると真ん中に台座があり、そこに水晶球が据え付けてある。それだけのシンプルな部屋だ。


「水晶球に触れて、こちらの言葉を復唱してくれ」

「こちらの言葉には些か不慣れで術を使って補助しているので、ゆっくり正確に発音してもらえると助かります」


 そう答えるとガウェイグは静かに頷く。そうして言った。


「私はこの街に入るにあたり、法を守り、秩序を乱すような事をしない」

「私はこの街に入るにあたり、法を守り、秩序を乱すような事をしない」


 翻訳の魔道具ではなく、ガウェイグの台詞を一言一句違わずに繰り返すと、水晶球がぼんやりとした光を放った後に薄れていった。


「問題はない、ようだな。だが……」


 そう言ってガウェイグは目を閉じる。


「正直驚いた。見た事のない種族の子……。そして種族としては明らかに儂らよりもか弱そうでありながら……どうにも敵う気が全くせんというのはな」

「この街の内外に限らず、悪事を働く気はありませんよ。見聞を広めるだけでなく、様々な種族と良好な関係でいられたら嬉しいなとは思っています」


 水晶球に触れたままそう答えると、先程と同様にぼんやりと光る反応があった。この反応が嘘ではない、というものなのだろう。シリウス号からこちらの様子を見ている面々もなるほど、というように俺達のやり取りを見ている。

 ガウェイグはと言えば……水晶球の反応を見て、目を閉じて満足そうに笑った。


「そう、か。まあ何か事情がありそうだが……それは儂の職務ではない故、深くは聞かぬとしよう。既に余計な事を聞いてしまったし、何よりあの者達もお主を信頼しているように見受けられた」


 門番として色んな種族を見ているガウェイグにそう言って貰えるなら俺としても安心だな。そうして水晶部屋から連れ立って戻る。


「問題は無かった。通行を許可しよう」

「それは何よりだ」


 ガウェイグの許可が下りるとヴェリト達も安心したように笑顔を見せる。というわけで一緒に門を通り抜け、いよいよ魔界の街へと入った。

 通りを歩く面々は何というか……個性的だ。ディアボロス族やインセクタス族といった今まで見てきた種族の他にも、身長3メートル程の青白い肌をした巨人やら、頭部に赤い花を咲かせた緑の肌色の種族――アルラウネやらが通りを普通に歩いているのを見かけた。


「アルラウネは珍しい種族とはいえ……ルーンガルド側にもいるはず」

「全てが魔界固有の種族、というわけではなさそうですね」


 パルテニアラがそれを見て言うと、エレナも真剣な面持ちで応じる。そうだな。ドラゴニアンもそうだが、ルーンガルドから魔界に普通に取り込まれた種族というのも他にいるということか。

 しかしまあ、獣人の国エインフェウス以上にバリエーション豊富というか。多数の種族が同じ文明や文化を共有しているからか、服装や装飾品に共通点が見られるような気もする。


 街並みはどうかと言えば……石畳で舗装されて割と立体的に路地が入り組んでいる様子だ。家々は建築様式に統一感がある。巨人用と小人用の家なのか、少しスケール感の違う家も見受けられた。

 だがまあ……外から見た厳つい雰囲気とは違い、街中は割と綺麗な光景を見る事ができた。あちこちの軒先に色とりどりのランタンが吊るされており、薄暗い魔界や立体的に入り組んだ路地と相まって幻想的な雰囲気がある。


「街中の雰囲気は素敵ですね」


 アシュレイが表情を綻ばせると、マルレーンもにこにこしながら首を縦に振る。デュラハンやシェイド、ガシャドクロといった夜や闇に属する精霊達もこの光景は気に入ったのか同意を示すような仕草を見せていた。


「気に入ってくれたかな?」

「そうだね。良い雰囲気の街だと思うよ」


 ヴェリトの質問にそう答えると、ディアボロス族の面々も少し嬉しそうに顔を見合わせたりして。まずは魔石を売って金を作るという事で入り組んだ路地を進み……到着した先は錬金術師か魔術師の店といった雰囲気の場所だった。


 こうした魔法関係の店もあるということか。店主は――年老いたディアボロス族のようだ。


「おお、これほどの量を鉱脈から採掘してくるとはな。危険は無かったかい?」


 出てきた店主はすぐに荷車を確認して驚いたように声を上げる。ヴェリト達の話によると情報提供者は、この人物であるらしい。ヴェリト達が困っていると知ると、同族のよしみからか自分がかつて魔石を調達していた鉱脈の事を教えてくれた、とのことだ。

 遺跡に魔物が住みついてからは鉱脈の採掘をせずにほとぼりが醒めるまで放置して来たらしいが……足腰や翼が衰えてしまった為に鉱脈には手出しできずに来たらしい。


 店主が鉱脈の事を教えてくれたのは……ヴェリト達の恩人が店主にとっても知り合いだから、ということなのだろう。今後も可能なら継続的に魔石を採掘して欲しいという条件で鉱脈の場所を教えてくれたそうだ。


 ヴェリト達の恩人に人望があればこそ、か。店内に魔石を持ち込んで査定を始める。その間俺は店内を見せてもらうことにした。薬草やら触媒やら、魔界で扱われる魔法の素材に興味があったからだ。

 だが……魔界で使われている文字は読めないから正体不明のものが多いな。ディアボロス族の面々に解説してもらうか。後で文字を教えてもらう、というのも良いかも知れない。


 何はともあれ、査定が終われば別の店で魔法薬を買って、その恩人の所へ向かうということになる。折角ヴェリト達は俺達に対して好意的なのだ。このまま関係性を維持できるよう、頑張りたいものである。

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