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番外685 魔界の人里へ

「あれは歩く草で、あっちは草に擬態した飛べない鳥だな」

「鳥の方は割と凶暴で危険なのよ。狩りの為の擬態だからね」

「周辺の茂みや植物の色に合わせて自分の羽根の色を変えるんだ」


 平原の上空を移動しながら進んで行くと、ディアボロス族の面々が何か見かける度にそんな解説をしてくれる。

 なるほどな。確かにライフディテクションの反応では解説通りの光の色が見えるし、草に擬態した鳥も魔法無しでも良く見れば嘴らしき器官が見えていたりする。

 鳥の翼や胴体、蹴爪等もそこから連想していけば何となく形がわかるか。


「把握した。実際に平原で見かけた時もまあ、何とか見分けがつきそう。後は臭いとか足跡で判別する」

「ああいうのは……うん。私も大丈夫だと思う」


 というのはシーラとイルムヒルトの言葉だ。シーラは盗賊ギルドの技能と五感から。イルムヒルトは熱感知の能力によっての探知だ。あの鳥に関しては、二人とも問題なく見つけ出す事が可能だろう。特にイルムヒルトは相性が良い。

 コルリスも大丈夫、というようにサムズアップしていた。うむ。


「私達としては茂みや草の深い所に迂闊に近付かなければいいのですね」


 アシュレイが単純明快な自衛策を練るとみんなも真剣な面持ちで頷く。

 お守り的な魔道具もみんな所有しているので、不意打ちに関しては防御可能ではあるが、そうした魔道具に関してはそもそも出番が来ない方が望ましいのは間違いないからな。


 因みに歩く草の方は水を求めて自ら移動し、尖った根を突き刺して瘤の部分に水を溜め込む性質があるらしい。


「困った時に水を確保したいとなったらあれを捕まえると良い。まあ、術で確保できるなら必要ないかも知れないが」

「いや、そういう知識は助かるよ」


 ヴェリトにお礼を言う。水自体は独特の青臭さがあるらしいが安全だそうな。


 そうやってディアボロス族の面々の話を聞きながら飛んでいく。シリウス号のモニターから視界に入る地形、移動した距離、ここに来るまでに見かけた生物の分布等……の情報もできる限りは地図情報として蓄積させて貰っている。これらの情報はウィズに蓄積してもらっているので、いつでも模型に起こせるだろう。


 ――やがて街らしき構造物が見えてくる。建築様式等は――ルーンガルドとは結構違うな。外壁を巨大な茨のようなものが取り巻いているが……あれはそういう植物らしい。魔力を与える事で「飼い慣らす」事ができ、外敵に対する防御を担ってくれるそうだ。

 地上での結界術の代わりだろう。魔物に対する備えになっているわけだ。


 街の中心は石造りの塔が幾つか林立しており、中央の塔の最上部に何かぼんやりと光る巨大な水晶のようなものが見える。

 塔と塔の間に細い橋も渡されていて……その周辺に街が広がっている。塔にも街にも明かりが灯っていた。


 元々魔界は、空や地上のぼんやりとした明かりが光源という……薄暗いのが標準なところがあるから、人工的な明かりは何というか割とほっとするところがあるな。


 外壁は見た感じやや禍々しいような気もするが、その内側にある建築物は独自性が強いものの割とまともだ。そこに住んでいる者もディアボロス族の他にいくつかの種族があるらしいが……共同体を営むことができるということは、それなりに話も通じるのだろう。


「一緒に街を見てみたい、という話だったが」

「ああ。まずは俺が行く。こっちじゃ見慣れない種族だろうから、あまり大人数で行っても騒ぎになるだろうし」


 ヴェリトの言葉に頷く。


「街に入るのに何か、身元を証明するものは必要なのかしら?」

「いや。そうした物はいらない。色んな種族がいるからな。外から来た連中は街の滞在中は法を守る、という意思を見せることが必要だ」

「正門でそうした意思を持っているか、調べる事ができる設備があるの」


 と、ディアボロス族の面々がステファニアの質問に答える。なるほどな。


「特に気を付けなきゃならないような法はあるのかな?」

「んん……。そう、だな。普通に暮らしているなら無い、かな。他者を殺傷しないとか、騙さないだとか……まあ当たり前のものだ。それでも喧嘩や詐欺、窃盗なんかは起こらないわけじゃないが」

「後はお偉いさんもいるから、そうした相手に睨まれないようにするとかな」

「細かな法に関しちゃ知らないならその時々で聞けばいいだけだしな。要は常識的な範囲で遵守する気があるかどうかって話だな」

「なるほどね。こっちの地元とそう変わらないか」


 俺の反応に首を縦に振るディアボロス族の面々である。あからさまに治安を乱すような輩は街に立ち入らせないと、そういう事だな。簡易の魔法審問のようなものと考えておけばいいだろう。


 というわけで、シリウス号を少し街から離れた場所に停泊させ、迷彩フィールドを施した上でヴェリト達に同行するということになった。ある程度人も魔物も来ない場所ということで、少し街から離れた距離に停泊させる事になったが、この距離なら翼を持っているディアボロス族の面々には問題あるまい。


 いつものようにシーカーを荷物に紛れさせる形で忍ばせて、シリウス号側でも情報を得られるようにしておく。


 諸々準備ができたところで街に向かって出発だ。潜入しての調査なのでエイヴリルやホルンの力は今回温存しておく事になるが……ヴェリト達は信用できるというのが既に分かっているからな。


「お気をつけて、テオ」

「行ってらっしゃい」

「ああ。行ってくる」


 見送ってくれるみんなに笑顔で手を振って、甲板から飛び立つ。ディアボロス族の面々が一度に持ちきれない分の魔石の類は俺が受け持つ。レビテーションで魔石を満載した籠を浮かせ、適当なところで街道に降りてから木魔法と土魔法でリアカーを構築する。サスペンションもついているし、車輪部分は木魔法で樹脂を造り出し、ゴムを構築しているので中々扱いやすい出来になったのではないかと思う。


「これに積んでいけば運搬も楽になるかな」

「荷車……か。木や土の資質がある魔法使いというのは……便利なものだな」


 というわけで、魔石とディアボロス族の手荷物を分けて荷車に積んで、街道を歩いて街を目指して進む。人里付近という事で、街道にも割と他の種族が見受けられた。


「ああ。こんにちはヴェリトさん。皆さんも。ご無事そうで何よりです」


 と、声を掛けてきたのは蟻の顔を持つ魔界の住民であった。不思議な響きの声を発するが、胸郭で音を鳴らしているから、らしい。インセクタス族といって色々氏族があるそうで。この子は蟻人という事になる。

 大顎もぴったりと閉じられるようになっており、そのへんはロボット的にも見えるな。


 総じて男衆は全身甲冑の戦士のようだし、女衆は比較的小柄で丸みがあって愛嬌がある、という話だから……多分この子は女性なのだろう。頭部に鮮やかな青色の毛が生えており、人間の女性のように髪飾りも付けている。


「ああ、ギーレイ。こんにちは」

「こんにちは、ギーレイちゃん」


 ヴェリトやオレリエッタ達が笑顔で挨拶を返す。ギーレイと呼ばれた蟻人はこくんと頷いた。ヴェリト達の話によれば、インセクタス族は触覚の動きや目の色で割と喜怒哀楽が分かるらしい。

 蟻人がいる等の話は聞いているが、生態は大分普通の蟻とは違う。男蟻と女蟻で一組の番を作り、割と普通の家族生活を営むそうで、特別数が多いという事はない。


 感情が発達した反面、昆虫特有の真社会性や反射に根差した行動は失われている、という事なのだろう。

 ギーレイは――蟻の顔をしているが目がつぶらで善良そうな印象がある。ひらひらとした服を纏っていて二足歩行だが、腕に相当する器官は四本という具合だ。


 指先も物を掴んだり細かい作業をするのに向くように発達しているし、後ろ脚は太くなって身体を支えられるようになっている。アピラシアを紹介すれば仲良くなれそうな気もするな。現にシーカーの送ってくる映像情報にアピラシアは興味津々といった様子だ。


「その方は?」

「ああ。旅先で困っているところを、色々助けてくれた人なんだ」

「そうだったんですか」


 と、ギーレイは胸の辺りに手をやって安堵の声を漏らした。触覚も下向きになって……なるほど。慣れれば「表情」も理解できる気がする。


「初めまして。テオドールと言います」

「こんにちは、ギーレイと申します」


 挨拶をするとギーレイも普通に挨拶を返してくれた。善人も悪人もいるとは聞いているが、ギーレイは確かに善良なのだろう。そうしたインセクタス族の面々とは可能な限り良い関係を築いておきたいものだ。

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