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137 デュオベリス教団

 リンドブルムに跨り、孤児院へと急行する。リンドブルムの身体能力を循環錬気で補強。風魔法とシールドで空気抵抗を減らして、更に加速。

 けたたましい警報が鳴り響く中、目に飛び込んできたのは全身黒づくめのフードを被った連中の姿だった。全部で4人。そいつらと剣を交えているのは周囲の警戒に当たっていた騎士と兵士達である。


 賊はショーテルなどという特異な形状の武器を持っている。泥棒の類だったらあの武器はないだろう。デュオベリスの信徒と見てまず間違いなさそうだ。

 孤児院への襲撃……予想はしていたが実際のものとなると腹立たしい事この上ないな。デュオベリスにとって、女子供の方が生贄の価値が高いのだという。ふざけた話だ。


 門で戦っているのを見る限り、不測の事態に対して撤退しようとしているのか、それとも足止めしようとしているのか。

 前以ってショーテルの情報を与えていたからか、兵士達もよく対応しているようだ。ここは奇襲をかけて一気に制圧するのが良いだろう。


「リンドブルム。1人よろしく」


 言ってその背から飛び降りる。歓喜の唸り声を上げるウロボロスとリンドブルムを従え、風を切って急降下。ショーテルで切りかかろうとしていた黒づくめごと、肩口から踏み潰して着地。その脇にいたもう1人の脇腹をウロボロスで薙ぎ払う。


 信徒の悲鳴が頭上から辺りに響く。すれ違いざまリンドブルムに掻っ攫われたのだ。リンドブルムはそのまま加速すると建物目掛けて飛んでいき、男を壁に向かって放り投げてから急上昇していく。


「な、何だ!?」


 兵士も信徒も何が起こったか理解できない、という様子で目を丸くしてこちらを見てきた。


「加勢に来ました」


 短く告げて更に黒づくめに打ち掛かる。


「じょ、助力感謝する!」

「くっ! な、何なんだ!」


 戸惑っている信徒にウロボロスで打撃を見舞う。

 咄嗟にショーテルで受け止めた信徒をそのまま押さえつけ、左手に隠しておいたマジックサークルから風魔法を発動させて空に巻き上げた。

 そこに飛来するのはリンドブルム。為す術なく武器を持つ腕ごと噛み砕かれ、苦悶の絶叫を上げながらそのまま勢いよく投げ捨てられた。リンドブルムも中々上手く合わせてくれるじゃないか。


 このまま残り1人を一気に制圧してしまおうと思ったが……孤児院の2階辺りからガラスの割れるような音と悲鳴が聞こえた。……まだ仲間がいるのか。


「あっちを助けに行きます」


 一瞬視線を送ると、騎士が頷いた。任せろ、という事らしい。2階の窓に向かって飛んで、そのまま室内に転がり込む。

 無人の部屋を飛び出して廊下に出る。泣きじゃくる小さな女の子を抱えて廊下を奥に向かって走るサンドラと、武器代わりに箒を握るブレッドの姿。それを追いかける2人の信徒。

 状況は把握した。逃げ遅れた子供を助けに行ったら賊が踏み込んできて逃げ回っている、といったところか。


「こっちだ!」


 注意を引くために敢えて声を出して突撃する。信徒達が振り向き、片方がそのままサンドラ達へ走り、もう片方が俺へと向き直る。足止めのつもりか。それとも子供であれば相手が俺でも構わないのか。俺と目が合うと、奴は覆面の下で笑ったらしかった。


「鬱陶しい」


 悪いが一切手心は加えない。

 圧政に対抗するために魔人崇拝を始めた。そこまでは理解もしよう。だがデュオベリス教団のそんな成立背景から言えば、ヴェルドガル王国に手出しをしてくる理由なんか、あるはずがない。ましてやこんな場所を狙うだとか。反吐が出そうだ。


 男に向かって間合いを詰めながら魔法を発動させる。第5階級水魔法アシッドフォグ。強酸性の霧に巻かれた男は顔を押さえて絶叫しながらのたうち回った。

 酸で焼かれたのは目か喉か。知った事ではない。風魔法による障壁を纏って自身で作り出した酸の霧を突破。すれ違いざま、床を転げていた男の口元を踏み抜いて静かにさせる。残りは1人。


 廊下の先は袋小路だ。追い詰められたサンドラが女の子を抱きかかえて、ブレッドが箒を構えた。……無謀にもほどがある。


「くくッ」


 そして奴は――そんな必死の抵抗を嘲笑った。

 ……奴がサンドラ達に追い付くより先に対処しなくてはならない。魔力循環を停止させて、通常の状態から魔法を放つ。

 水魔法アイスウォールがサンドラ達と賊とを分断した。


「魔術師風情が――調子に乗るなよ?」


 邪魔が入ったのが気に入らなかったのか、残った最後の1人が舌打ちして振り返る。その手の甲に光る何か――。あれは刺青か? 教団の信徒の証。それが、赤色に発光している。

 こちらに向かって、掌を翳す。そこから何かを飛ばしてきた。シールドで受け止めるが、シールドを侵食して貫通してくる。突き抜ける前に身をかわしてやり過ごす。


 今のは――瘴気弾か? そうであるなら魔力循環はしていなかったから、今の効果も分かるが。

 魔人……にしては違和感があるな。手に教団の刺青があるのが納得いかない部分だ。


「どうした? 瘴気を見るのは初めてか? こうなっては貴様の魔法など通じると思うな?」


 様子見で立ち止まったのを、奴は俺が怖気づいたとでも受け取ったらしい。

 もし魔人であったなら、大きな魔法が必要になる。後ろの2人を巻き込まないように手立てを考えなくては、と思っただけなのだが……さて。


「そんな刺青をしてるんだ。魔人ではないよな?」

「魔人などと。貴き者とお呼びしろ」


 教団は魔人をそんな風に呼称するのだったか。


「……何のためにヴェルドガル王国まで来た? 教団とこの国は、関係がないだろうに」

「貴き者の敵は我らの敵。それに――我らは貴き者の倒れたこの地にて、我ら教団の威光を知らしめねばならん」

「馬鹿馬鹿しい。魔人殺しの話を聞いてきたんだろ? それが何だって子供を狙う?」

「貴き者に供物を捧げるのだ。さすれば教主様からお認め頂ける。我等は更に偉大なる力を手にする事ができるだろう」


 男はどこか熱を秘めたような口調で言う。

 ……なるほど。教団の上の方にはそういう儀式なりなんなりができる奴がいると。絡繰りは分かった。こいつは今回動いた連中のリーダー格といったところか?


「生贄にも良し悪しがあってな……。お前は――さぞ上等な供物になりそうだ」

「笑わせる」


 これだけ聞ければ、今この場では十分だ。先程の院長達の姿が頭にちらついて、気分が悪い。こいつは、ただでは済ませない。

 魔力循環を発動して、真っ向から突っ込む。こちらに合わせて瘴気弾を放ってくる。だが、今度はシールドでそれを受け止め、弾き散らして突破した。


「何ッ!?」


 その表情が驚愕に歪む。勢いに任せてウロボロスを叩きつけていく。ショーテルごとへし折れるかと思ったが、瘴気を剣に纏わせてウロボロスを受け止めている。スパークが散ってお互いの武器が弾かれた。


 ショーテルを横から振ってくる。一歩間合いの内側に踏み込み、斬撃の打点をずらす。奴は獲物を引っ掛けるように武器を後ろに引く。問題ない。ショーテル使いぐらいBFOにいくらでもいた。


 身を屈めてやり過ごし、下から大振りでウロボロスを振り上げ、仰け反らせる。

 奴の体勢が崩れた隙に身体の位置を入れ替え、窓を背負わせた。魔力循環を強めて身体強化を高め、振り払うように後方へ弾き飛ばす。


「ぐっ!」


 窓をぶち破って男は夜の闇の中に放り出された。

 魔人の力を借りられるというのなら、空ぐらい飛べるだろう。男は空中に踏みとどまった。それを追って、空中に身を躍らせる。


「貴様!」


 放たれる瘴気弾。シールドを蹴って横に飛ぶ。空中で構えを取って静止してみせると、奴は目を剥いた。


「それは――なんだ……? ま、まさかお前……?」


 今更俺がお目当ての魔人殺しだと察したか。連中に見張りがいるかどうか解らないから、マティウスの姿を取って来て正解だったな。


「教団の刺青にそんな力があるっていうのは初耳だ。だから後学のために、1つだけ確かめておきたい事がある」

「た、確かめるだと?」

「その刺青。失ったらどうなるんだ? 飛行術を維持していられるのか?」


 目を大きく見開き、牙をむくように笑みを浮かべて言ってやると、奴の表情に戦慄が走った。

 俺が何を狙っているのか察知したらしいが、下に降りるだとか逃げるだとか、考える時間はやらない。シールドを蹴って突っ込む。


 こちらを近寄らせまいと、瘴気弾を連射。狙いが甘い。物量でもリネットに遥か劣る。

 シールドを張らずにぎりぎりを掠めさせて、最短距離を最速で突っ切る。奴は離脱しようとしたが、無駄な事だった。こいつが温いのか、それとも刺青の限界があるのかは判断できないが、飛行術は魔人に及ばない。レビテーションだけよりはましと言ったところか。


 魔力を研ぎ澄まさせ、青白いスパークを放つウロボロスを構える。男は刺青を庇うように手を引いた。代わりに――ショーテルを握っていない方の手首から、暗殺用のリストブレードが飛び出す。突っ込んできた俺の顔面を狙って、掌底を見舞うように突きを繰り出してくる。


 リストブレードの存在は知っている。予想できていた一手だ。首を傾げるようにしてやり過ごし、そのままがら空きになった脇腹に膝蹴りを叩き込む。

 苦悶の声と共に、身体がくの字に折れ曲がった。その瞬間には、刺青の方にウロボロスの先端を突き付けている。


「削り散らせ」


 土風複合魔法グラインドダスト。掌に纏わりついた粒子の戦輪があっという間に刺青を削り取って意味のない物にしていく。

 男は悲鳴を上げて飛び退り――数瞬遅れて、糸が切れたように重力に従って落下していった。


「リンドブルム」


 脇から飛んできた黒い巨体が、空中で男を撥ね飛ばして更に空中に舞い上げる。

 男の襟首を咥えるように綺麗にキャッチすると、充分に高度を落としてから乱暴に地上に放り投げた。

 ……一応、落下死はしない高さと角度ではあったか。リンドブルムなりに加減をしたのかも知れない。ま、戦闘の続行は不可能だろうけどな。

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