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番外683 魔界の試食会

 食料品の交換についても話を切り出すと割合簡単に応じて貰えた。


「シリウス号に乗せて貰えるのなら、今持っている食糧も余裕が出るだろうからな。余らせて腐らせるよりは有効活用した方が良いだろう」


 との事で。ヴェリトはディアボロス族の中でも最年長なので落ち着いているというか、冷静で合理的な判断をする人物のようだ。

 その上で恩人の為に危険を承知で行動するというあたり、他の面々が信頼しているのも分かる気がする。


 というわけで、色々と魔界の食べ物を見せてもらう。敷布の上に並べられた食べ物を一つ一つ検証していく感じだ。


「これは……蟹か何かかな?」


 紫色っぽい、蟹のような殻に覆われた涙滴型の物体である。テニスボールぐらいのサイズで、一対の鋏のような物体が一方から飛び出している。


「いや。ラージャの果実だ。外の殻を剥がすと分かるが果物だな」

「防御用の鋏枝が残ってるから、生き物っぽく見えるのはわかるわ。皮を剥がす時は鋏を掴んで引き抜くようにすると上手く剥けるのよ」


 ヴェリトとオレリエッタが教えてくれる。防御用の鋏……。植物なのに変種というか魔界らしいというか。

 試しに一つ言われた通り剥いてみると、瑞々しい白い果肉が現れる。少しだけナイフで切って口に運ぶと……味はライチに似ているように感じられた。俺の感覚だと魔界ライチ……といったところだろうか。


「甘くて少し酸味があって……美味しいな」

「だろう? 果実だが腹持ちがよくて疲労回復や水分補給もできる。魔布で包んで凍らせると日持ちが良くなるからな。自生しているのを見かけた時に幾つか持ってきたんだ」

「まあ……木からとる時に鋏枝で抵抗されるのが少し面倒なんだがな」


 と、包み布を広げて笑顔で教えてくれるヴェリトに、ディアボロス族の仲間が笑って頷く。

 魔布で包んだ物は冷凍保存できるらしく、旅人には重宝されるのだとか。いくつかの弱い術を継続して込める事ができるそうで、この魔布にはレビテーションと低温の術が施されているそうである。


「これは中々便利ね」


 と、魔布にローズマリーが興味を示していた。確かにな。製法は何となく想像がつくが、それを作るための素材が安価に手に入る環境がある、という事だろう。その事から、魔法も割合一般的に使われる文化という事も分かる。


 他には魔物の燻製肉であるとか、やはり干したキノコや野菜であるとか……保存の利きやすい状態にした食材が色々だ。

 基本的には水で戻して料理に使うという方針であるようだが……まあ、干し肉と山菜やらを茹でて簡単なスープを作るというのは、水が確保できる状態なら簡単でお手軽な上に旅の料理としては中々良いのではないだろうか。


 元がどんな魔物の肉なのか等、マルレーンのランタンによる幻術も交えて色々聞かせてもらうが、まあ……現物もそうキワモノではないようだ。

 干し肉に関しては始祖鳥のような割合好戦的な魔物で、地上を高速で走り回り、雷を操る種との事だった。基本的にはどの食材も成分分析上では問題ないようで……このあたりはパルテニアラの教えてくれた情報と一致する。変異していても有毒の種でなければ食えるし、食った事で変異等の影響はない、との事であるが。


「そう言えば、この付近に喋るキノコの種族はいないのかしら?」


 鍋に食材を入れて水で戻していると、イルムヒルトがパルテニアラの知っていた知的種族について質問をする。


「キノコ……。ファンゴノイド族の賢人達かな?」


 おお。どうやら知っているらしい。


「賢人……有名なのかしら?」


 その反応にクラウディアが尋ねるとヴェリトが頷く。


「様々な知識を有する種族で、他種族の技術の発展にも一役買って賢人として尊敬を集めていた種族らしい。かなり昔、東の谷あいに住んでいたと聞いている」

「住みにくい環境になったとかで谷から移住した、とかなんとか」

「その後の事は足取りが追えないとかで……結構伝説的な連中なんだ」


 ディアボロス族の面々からはそんな答えが返ってきた。


『あの者達は思考形態が妾達とは違うからな。高度に発達した固有の情報伝達手段を持っていたが……それに加えて穏やかで気の良い連中だったから、妾達が去った後に賢人と呼ばれるようになったのは理解できる』


 と、パルテニアラから通信機にそんな内容の連絡が来る。

 キノコ、という特性を考えるなら……そうだな。菌が寄り集まってキノコを構成。それが高い知能を持ち、動物的な活動も可能という事になるか。


 菌が例えば脳細胞や神経細胞のように機能すると考えると……これは個体の大きさによって知能レベルも変わってきそうだ。思考形態が通常の動物と違う、というのがその辺に由来があるとしたら納得ではあるかな。

 喋るキノコというとユーモラスなイメージがあるが、実際は結構凄い種族かも知れない。近年に至るまで賢人と呼ばれるほどに平和的な性格で知られているというのは僥倖だろう。


 料理をしながら他にどんな種族がいるのか。街や国の様子というのはどんなものか等々、ディアボロス族の立ち位置や環境についても色々説明してもらう。


「俺達に関しては……身体能力と魔力に自信のある者が多いな。空も飛べるから戦いや狩りを生業にする者もいる。まあ……俺達自身の事だからその辺を差っ引いて聞いて貰った方が良いのかも知れないが」


 ヴェリトがディアボロス族に関する事も教えてくれる。なるほどな。戦闘能力に優れた種族というのはいるからな。魔人にしても戦闘能力という面ではそうだし、魚人族も一族まとめて戦士としての気風を持つ種族だ。


 ディアボロス族から色々聞かせてもらった後で、俺達に関しての話もする。コルリスやホルンの生態について話が及び、実際に鉱石を食べているのを見せると、ディアボロス族の面々は「おお……」と歓声を上げていた。「面白い物が見れた」という印象だが、魔界の生物もかなり特殊な形態のものが多いようだからな。珍しい物には慣れているという事かも知れない。


「そろそろ料理の加減も良さそうですね」


 と、話をしていると鍋をかき回していたグレイスが微笑む。

 どうやら料理も出来上がったようだ。お互いの持っている食材を持ち寄り、海産物で出汁を取ったり塩等の調味料で味つけしただけの割合シンプルなスープではあるが……お互いの食材を食べてみて毒性がないか調べるという目的が主なので、まずはこんなところだろう。


「美味そうな匂いだな」


 一先ず成分分析上大丈夫というのは分かっているが、中毒症状に対抗するためにクリアブラッドの魔道具等は用意してある。先に治癒術が機能するか調べたのはこの辺が目的だ。


「害になるものは入れていないけど、体調不良を感じたらすぐに言って欲しい。クリアブラッドの魔道具があるからね」


 と、食事の前に注意事項を伝えると、皆神妙な表情で頷く。

 まあ、まずは俺から味見をさせてもらおう。ディアボロス族の持っていた食材を使った干し肉とキノコ、野菜のスープを味見させてもらうと……出汁の旨味も塩加減も良い塩梅だった。循環を行って体調不良による魔力の乱れなどの変化がないか見てみるが……どうやら大丈夫そうだな。今後はウィズで成分分析をしていけば中毒は予防できるのではないだろうか。


「うん。大丈夫そうだ。味も良いね」


 そう言って頷くとみんなも明るい笑顔になる。


「私達はこっちを食べればいいの?」

「そうだね。食べたら変な影響が出ないか調べさせてほしい」

「分かったわ。実は……いい匂いでさっきからお腹が空いてしまっていたの」


 と、オレリエッタは笑顔で頷いてスープを口にする。


「ああ……これは美味しいわ」

「本当だ。野菜の甘みと魚介かな、この風味は。実に美味い」


 何口か食べた所で循環錬気を行ったりして、体調に問題ないかを調べてみるが……こちらも問題ないようだ。とりあえず治癒魔法、食材共にある程度の常識は通じるようで安心した。


 とまあ、俺達が食事の準備を進めていたので、ベヒモス親子もアルディベラが狩ってきた炎の大蛇で食事をする事にしたらしい。

 エルナータは料理に興味があるようだったので鉄板を用意して油を敷いて、塩を使っての簡単な焼肉ができるようにしてみた。岩塩の類はアルディベラも問題ないとの事なので調味料にしても塩ならとりあえず安心だろう。


 ゴーレム達が厚切りの肉を焼き上げ、アルディベラとエルナータに饗する。特製の巨大木皿に盛りつけたそれを口にして「ほう……」と感心したように喉を鳴らすアルディベラである。エルナータの方は「美味しい!」と素直な反応を見せていた。


 まあ……ベヒモス親子だと調味料の量も相応なものになってしまうから、人化の術などを使えると今後も気軽に料理の席にも誘えるのだが、そう言った術は知らないとの事で。

 戦闘能力等が大幅に落ちてしまうから気軽には使用を勧められないが、安全確保のできたこの遺跡内部でなら大丈夫かも知れない。後で魔道具を使って試してもらうのも良いかも知れないな。

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