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番外682 女王の護り

 そうしてヴェリト達が風呂に入って戻ってきたところで、防御呪法を発動させるということになった。


「つまり――この防御術の目的に賛同してくれる者が多いと、より効果的に機能する、という事よな」


 俺達が船を停泊させるのに安全な場所を欲している事。親子ベヒモスが防御呪法の主となり、この遺跡を塒としてくれる事といった事情を伝え、パルテニアラが防御呪法の性質についてヴェリト達に話をする。


「遺跡に立ち入る条件か。……そうだな。無用な争いを避けられるというのなら俺達にも反対する理由がない。俺達としても今回の事には感謝しているからな」


 ヴェリト達に話を聞いてみた所、ここはベヒモスの事がなくても人里離れているので、誰かの管理下というわけでもないそうだ。


 かつてはエルベルーレ王国の都であり、その後はベシュメルクの勢力下にあった場所だ。

 その後パルテニアラ達が魔界を去り、空白地帯となったが近場の森は不安感を掻きたてるような細工が施してある。結局放棄された都がその後再利用されるような事もなかったというわけだ。


 そもそも都は魔界に飲み込まれたせいでここにあるだけで、利便性等が考えられた立地というわけでもないしな。


 というわけで管理されていない土地となればまあ……呪法の防御を施す懸念材料もあまりない。俺達もベヒモスも、そしてここに立ち寄る旅人や魔石鉱床を求めてくる者も、等しく安全な場所、という事でいいのではないだろうか。


「というわけで術を施すのだが……そなた達に名は無いのかな?」


 パルテニアラが尋ねるとベヒモス親子は首を横に振り、喉を鳴らす。「他者からの呼称などには興味が無かったが……こうして世話になり、関わり合いになった以上は識別の為の名を持つ、というのも良いのかも知れぬな。それも縁というものであろう」と、親子共々俺に視線を向けてくる。


 んー。名付けか。ベヒモス親子はどうやら母と娘で、性別や見た目等々から考えると……。


「……アルディベラとエルナータっていうのはどうかな?」


 おうし座で一番明るい星がアルデバラン、二番目がエルナトというらしい。おうし座の星なのでそのままではなく、女性風にしてもじってみた、というところだ。

 おうし座に属するプレアデス星団などもギリシャ神話由来の7人姉妹の逸話があるらしく有名だが……まあ親子だしな。α星とβ星の、恒星の組み合わせという事で。


「ふむ。悪くない響きだ」


 と、親ベヒモスことアルディベラは目を閉じ、仔ベヒモス――エルナータは動物組と嬉しそうに声を上げていた。どうやら気に入って貰えたようだ。エルナータの反応は……名前を付けてもらったとか、そういう話を翻訳の魔道具でラヴィーネ達から聞いていたからかも知れないな。


 そんなわけで無事に名前も決まったところで、防御呪法構築の続きとなる。エレナがパルテニアラに祈るような仕草を見せると二人の足元から大きなマジックサークルが広がり、呼応するように外壁や城壁が光を纏った。


「――我ら、この地を預かる友と我らの間に安息と平穏が齎される事を祈る」

「アルディベラとエルナータの両名をこの地を預かる主とし、互いへの敬意と友誼を以ってこの約束が永きに渡り、守られることを願うものなり」


 エレナとパルテニアラの詠唱が続く。この詠唱で呪法の条件やらを構築していくわけだ。


「この願いに呼応する者は声に出して応えよ。さすれば願いは我らを守る黄金の盾、永劫の城壁となり、我らの願いを踏みにじる者を戒める聖槍とならん」


 俺達も一人一人「平穏への願いに賛同する」と答えていくと、どんどん光が強くなっていった。アルディベラとエルナータも賛同するように天に向かって声を上げ、ディアボロス族の4人も「賛同する」と続く。


「かくして我らが想いと誓いの言葉はこの地に刻まれん。天地にあまねく精霊よ。我らの誓いを照覧あれ!」


 パルテニアラが言葉と共に、天に向かって手を掲げる。マジックサークルが遺跡ごと包むような淡い光の柱を立ち昇らせ――そして中心に向かって集束していく。


「また……すごい大魔法だな……」

「綺麗……」


 ヴェリト達はその光景を見上げて歓声を漏らす。確かに、力強い輝きだ。

 誓いの言葉と願い、土地に住まう精霊達を証人とする術というわけだ。後に魔人対策として発達した結界術と組み合わされており、ベヒモス親子に対して危害を加えないと宣言した者は呪法結界の範囲内――遺跡に立ち入る事ができる。

 アルディベラとしてもエルナータを城に残し、安心して狩りに行く事が可能というわけだな。子育てにはこの上ない環境なのではないだろうか。


「後は、正門前に文字を刻んでおけば大丈夫かな。こっちで使われている文字が分からないから教えて貰えると助かる」

「無論だ。それで力になれるならば」


 と、ヴェリトは快く笑って応じてくれたのであった。




 遺跡に関する調査、修繕、防衛機能の構築はこんなところだろうか。とはいえディアボロス族は旅と野営、ベヒモス親子からの籠城に採掘と立て続けにこなしてきて大分疲れているようなので、すぐに出発するという事はせず、一日休んでから出発、という事になった。


 ヴェリト達の抱えている事情や、魔界の現状、そこに住まう種族も気になるしな。移動する前に腰を落ち着けて色々話を聞いてから行動する方が良いだろう。

 というわけで、アルディベラ、エルナータも話に混ざれるように城の入り口に敷布を敷いてみんなで寛ぐ。エルナータが嬉しそうにペタンと座って、コルリスやティール達動物組と声をかけあったりしていた。名前についておめでとうとかありがとうとか。祝福とそのお礼といったやり取りだな。


「恩人さんというのは、ヴェリトさん達と同じディアボロス族なのかしら? 魔法薬で良くなるといいわね」


 と、ステファニアが言う。


「ありがとう。ああ。俺達と同じディアボロス族で、生きる為の術だとか……色々な事を教えてくれた人なんだ」


 という肯定の返事があった。養父か師匠か。そういった立場の人物だろうか。ディアボロス族の面々の顔に心配そうな表情が浮かんで……ここまで採掘に来るほどだ。慕われているのだろうという気がする。

 恩人も同じディアボロス族だと言うなら、俺からも伝えておきたいというか、まず最初に情報収集しておきたい事がある。


「他種族の身体と知らない病気の事だから現時点で確定的な事は言えないけど……俺やアシュレイは同種族や近しい種族の間なら治癒の術に心得があるんだ。もしも魔力や魔法的な原因がある場合は俺の専門分野だから、力になれる可能性もあるよ」

「そう、なのか?」

「実際エルナータを治療した時も魔力の波長を調べて、身体構造や俺達の治癒術がきちんと作用するかも調べてから行動しているからね。その辺の事を調べさせてもらえれば、何かしら取れる手段があるかも知れない。まあ……その病気に正規の治療法があるのなら、そっちを選ぶ方が間違いないと思うけれど」


 現時点で俺ができる事と言えば、循環錬気で少し調べさせてもらうだけだ。

 ディアボロス族から感じる魔力波長は多少独特だが、人間とエルフ、ドワーフぐらいの違いに感じるし、ルーンガルドの治癒魔法は普通に他種族にもきちんと機能してくれるからな。魔界の生物もルーンガルドがルーツであるなら問題なく機能する、と思うのだが。


「それと……そのあたりで協力してもらえると、俺達も食糧調達の面で助かるかな」

「補給や有事の場合の治療に関わる情報でもありますから、早めに情報を集めておきたいですね」


 俺の言葉にアシュレイも真剣な面持ちで頷いた。一方的に貸しを作りたいわけではなく、俺達にも利があっての申し出なのだと伝えておく。


「なるほどな……。では……次善の策として考えさせてもらえるだろうか? どんな協力すればいいんだ?」

「魔力を操作して掌から放出して浮かべてもらうだけで良いよ。それでこっちの術との相性を分析できる」


 エルナータの治療の前にも行った体外での循環錬気だな。これで活性化するようなら問題はない。俺の言葉にヴェリトは頷いて掌に魔力を集中させてくれた。


 こちらの循環魔力も掌から放出して、練り合わせて様子を見てみると、活性化されて輝きを増す。魔力波長から大丈夫だろうとは思っていたが、裏付けも取れたわけだ。

 次なる段階としては……お互いの持っている食材を少量交換して料理を作ってみるというのが良いかも知れないな。お互いの交流にもなるし、これも早い段階で調べられたら後々役に立つ場面があるだろう。

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