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番外679 巨獣と魔人

「――まあ、まず乗り物をこっちに持ってくるよ。仲間達が森の中に隠して待機させてるんだ」


 今後の流れ――拠点造りや結界の再構築といった流れを説明してからそう言うと、親ベヒモスが首を傾げて喉を鳴らす。「どんな乗り物なのだ?」と質問された。


「白くて……割と大きめだね。空を飛ぶから驚いて攻撃しないようにしてもらえると助かる」


 そう言うと親子ベヒモスが分かったと言うように、ふんふんと頷いていた。割とふんわりとした説明なので、ディアボロス族は想像がつかないのか怪訝そうな面持ちをしているが。

 合流したら仲間を紹介するよと言って、単身で森へ向かう。

 通信機で連絡を入れ、シリウス号に迷彩フィールドを展開した状態で森へと召喚する。地下拠点からハッチを開けて、同行する面々が顔を見せた。


「シーカー達は皆拠点に戻っています。地下拠点の侵入者を監視する役と、シリウス号で同行する役に分けてありますよ」

「ん、ありがとう」


 シオンの報告に笑顔で頷く。あちこちに分散させて情報収集していたシーカー達だが、ディアボロス族から情報を得られるなら戻しても構わないからな。


「居住区画に祭壇も出来て、私の祝福も終わったわ」


 と、クラウディアが言ってマルレーンがにこにこしながらこくんと頷く。

 俺達がベヒモス相手に動いている間に、地下拠点に月女神の祭壇を作ったというわけだ。これで何かあればすぐに転移で戻って来られる。有事の際の迎撃と退路の確保の両方が可能になったというわけだ。


 点呼を終えてシリウス号に乗り込んだところで、アルクス本体が地下拠点入り口から顔を出して言った。


「では、予定通り私はここで待機する」

「ああ。留守の間は頼むね」


 任されよと言って、こくんと頷くアルクスである。

 魔界側で調査活動する時はアルクス本体も地下拠点で待機だ。ティアーズらも配置してあるので、かなりの戦力と言えるだろう。


 その上で、要塞を預かるアルクスは魔界側の実情をその目で見るためにも、スレイブユニットで俺達と行動を共にする、というわけだ。これなら地下拠点に何かあってもすぐに連絡が取れる。

 エレナとパルテニアラは待機するか同行するかが難しい立ち位置だが……パルテニアラが最も多く魔界の情報を持っているわけだし、ベシュメルクの当事者として実情を見る為に同行するという事になっている。俺達が活動している間、安全な場所で見ているようでは矜持に関わるというわけだ。


 そんなわけで諸々拠点側の体制を整えたところで出発だ。ハッチを開けてこちらに手を振るアルクスとティアーズにこちらも手を振りかえして、シリウス号を浮上させる。

 少し移動して、発進した場所を偽装してから迷彩フィールドを部分的に解除する。遺跡側からしか見えないように幻術を展開。シリウス号の船首に俺が立つ事で乗り物はこれであるとベヒモス親子とディアボロス族に伝える。


 ゆっくりとした速度で遺跡に近付くと、崩れた外壁に手をかけて目を輝かせている仔ベヒモスの姿が見えた。親ベヒモスは仔ベヒモスの後ろで感心するような仕草をみせ、ディアボロス族はと言えば目を丸くしたまま硬直している。

 そんな様子に腕組みしてうんうんと頷いているのはシーラとカルセドネ、シトリアである。グレイスやエイヴリルは楽しそうに笑っている。


「これは……正直驚いた」

「種類としては飛行船だね。船名はシリウス号って言うんだ」

「飛行船……。空を飛ぶ船……なのね」


 外壁を越えて、一先ず街の広場に停泊させる。俺の説明にヴェリト達は驚愕の表情のままでシリウス号を見上げていた。


「鳥のようだな。何やら精霊のような気配を感じるが」

「綺麗で格好いい!」


 というのはベヒモス親子が漏らした感想の意訳である。

 甲板にアルファが姿を見せると親ベヒモスは納得したというように頷いていた。親ベヒモスは魔界で生存競争を生き抜いてきたわけだしな。強者故に滅多な事では動じないというか、あるがままを受け入れて対応しているという印象があるが。


 というわけで甲板から降りて、みんなで自己紹介だ。動物組に魔法生物組とかなりバリエーション豊かな顔触れだが、魔界の住民にとって見知らぬ種族ばかりという事でディアボロス族の4人は結構戸惑っている様子だ。

 握手の文化はあるのか、コルリスが手を差し出すとおずおずとそれに応じて、仔ベヒモスも楽しそうにそれを真似て、ティールと前足で握手をしていた。


「先程は失礼した。ディアボロス族の救出を考えて、私の能力で足止めをしていたのだ」


 と、オズグリーヴとガシャドクロも親ベヒモスに挨拶に向かう。

 親ベヒモスは落ち着いた様子で、喉を鳴らして応じた。「思うところはあるが……互いの目的の為に動いただけの事。謝る必要もない。今後同様の事がないように、教訓とさせてもらう事にしよう」と、落ち着きながらも色々と思案している様子だった。

 この反応。多分……今後この親ベヒモスはもっと強くなるのだろうという気がする。


「それにしても……不思議なものだな。戦っていた時と随分と印象が違うが」


 喉を鳴らす親ベヒモス。魔人に対する感想に、オズグリーヴは目を閉じて答える。


「危険に感じる力かも知れぬな。今は――テオドール公の術により力や特性を封じている。かつては種族同士で争った過去があるが、今は共に歩む道を模索している仲間であり、こうした性質を解決する手段にも見通しがついている。必要だからまだこの性質を捨てていない、と言うだけの話だ」


 そんなオズグリーヴの言葉に親ベヒモスは「対立関係からの共生。必要に駆られての変化。良くある事だ」と納得するように頷いていた。野生に生きるベヒモスとしては……そういう受け取り方になるわけだ。

 さて……。そんな調子で自己紹介も済んだ。今後シリウス号を停泊させる場所の選定が問題だ。


「んー。遺跡だからな……。歴史的価値を考えるとこのまま広場あたりに停泊させておくか……それとも街外れが良いか……」


 と、あまり遺跡を壊さないようにと思案を巡らすが……パルテニアラは当事者という事もあるのだろう。顎のあたりに手をやりながら言う。


「といっても管理する者もなく、野生の魔物が住みついていたと考えると、今後も時間と共に朽ちていってしまうからな。あまり気にせず手を付けてしまっても良いのではないかな? なに、他ならぬ妾が許可するぞ」


 そう言ってにやりと笑うパルテニアラである。

 なるほど……。では、元の形を再現しつつ、街の広場などを使って、その周辺になるべくコンパクトな拠点を造るという事で良いか。


 ディアボロス族はぶちまけた荷物を集めて来てから採掘作業に移るという話だ。


「魔石鉱床も見てみたいから、バロールを同行させても良いかな?」

「それは構わないぞ」


 ヴェリト達に返答を求めるとあっさりと許可が下りた。では、お互いに自分達の作業を進めていく、という事で問題はあるまい。

 改めて広場を見てみれば、罅割れたり苔――らしき植物で覆われた積もった土埃や瓦礫で埋もれたりして、殺風景というか心休まらないというか。


 パルテニアラに元の姿を教えて貰って、それを参考に修繕していき、飛行船を置くための土台を作る、という事で良いだろう。その上で余ったスペースに地上用の拠点を構築。これもエルベルーレ風の建築様式の屋敷を再現という事で良いのでは無いだろうか。


 外壁と城の結界に関しては再構築し、呪法と契約魔法を以ってベヒモス親子の守りになるように作用させればいいというわけだ。

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