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番外670 廃墟の主

「周辺に集落なりがあれば、ある程度環境にも察しがつくところはあるのだけれどね」


 水晶板モニターを見ながらローズマリーが言う。

 そうだな……。こちらに対して好意的であれ敵対的であれ、何かしら知的な種族が集落を作っていれば、そこはその種族にとって比較的安全で暮らしやすい環境が揃っているという事だし……凶暴な魔物の縄張りがあれば、仮に住環境が良くても近くに集落はないだろう。


 人払い、とは言っているがこの呪法はある程度知的な種族を対象にしたものだ。

 精神に働きかける作用である以上は魔物の強さに関わらず、呪法の中心部にはそこはかとなく不快感があるので居着きにくいと考えられる。まあそれも……ある程度感情や知性を持つ種族であるならの話だ。


 植生は違えども通常の植物は普通に生い茂っている。だが、植物系の魔物は種族によりけりだし、鉱物系やゴーレムの類は自意識が怪しい。精神構造があまりにも人間とかけ離れた種族に対しては人払いの呪法も効果は薄いだろう。もっとも、そうした魔物には反射呪法の防御が効力を発揮するのだが。


 それを踏まえた上でこの周辺がどうかと言えば……正直情報が足りていない。魔界の生態系が分からないからだ。樹上のシーカーが周囲を見回せば――やはり何らかの魔物がいるのか、それとも魔界特有の植物なのか、少し遠くに見える枝葉が妙に蠢いていたりして。

 これがルーンガルドであれば人払いの呪法がかかっているという事を前提にした考察もしやすかったのだが。


「あれは……動いているが魔物ではなく植物であるな。葉っぱの色と形に見覚えがある」

「なるほど……」


 といった具合だ。パルテニアラがいるから今回は判別がついたが、魔界の生態系は不可解だ。実際に見て生命反応と魔力反応の大きさで区別するしかないな。


「少なくとも……この森のあった場所自体は、妾達が魔界の門を設置する場所に選定した当時は比較的安全な場所であった。魔界はどこも魔力が濃いが、この場所は魔力溜まりや変容を起こす特殊な環境ではなかったからな」


 パルテニアラが言う。当時は緩やかな丘陵地帯であったらしく、もう少し遠くにあった森がこの辺まで広がってきた、との事だ。


「とりあえずは……シーカーで地道に情報を集めながら、周辺の地図を作っていこうか。カドケウスとバロールにも模型作りをお願いしておくから」


 俺の言葉にみんなが頷く。シーカーの操作については交代で行うからな。意思統一は大事だ。シーカーの収集した情報――地形や見かけた動植物等はその都度模型等にしていく。

 シーカー達に関しては見た目を偽装できるし、野生の魔物の大半から食欲を向けられる対象でもないからな。穏便に探索を行えるというのは間違いない。


「カドケウスとバロールが休憩する時は……私が見ておく……」

「そういう事なら私の能力もお役に立つかと」


 シグリッタとオズグリーヴが言った。シグリッタは見たものを記憶して後からでも絵に残せるし、オズグリーヴは煙で立体模型を作れるというわけだ。


「それじゃ、カドケウスとバロールが魔力補給をする時には頼りにさせてもらおうかな」


 というわけで樹上から周囲を見渡して情報収集をしていると、何やら奇妙な物が見えた。丘陵地帯……エルベルーレの廃墟――城壁の残骸に手をかけて身を乗り出すようにして、巨大な獣が姿を覗かせたのだ。はち切れそうな程に発達した筋肉と、ねじくれた巨大な角。燃えるような赤い相貌の怪物。

 己の存在を誇示するように天に向かって咆哮する。びりびりと空気が振動しているのが水晶板モニター越しでも分かった。


 みんなの表情にも緊張の色が差すが――怪物は長い長い咆哮を終えると緩慢な動作で城壁の残骸の向こうに身体を落ち着けたようで、またシーカーの視界から見えなくなった。


「あれは一体……?」

「……神代の怪物になぞらえ……ベヒモス、と妾達は呼称していたな。昔見たのはあれほどまでに巨大な体躯ではなかったはずだし、そもそも生息していた場所も違っていたが……。やはり前の知識は頼りにならぬか」


 エレナの質問に些か緊張感のある声でパルテニアラが答える。ベヒモス、か。


「今のは縄張りの誇示……といったところでしょうか?」


 グレイスがモニターを見ながら眉根を寄せる。


「多分、ね。でも、エルベルーレの廃墟を塒にしているのは問題だな。詳しく調べなきゃならない場所だし、ここを拠点に探索範囲を広げていくとなると、状況と性質如何ではベヒモスと一戦交える必要が出てくる……かも知れない」

「ん。拠点近くの安全確保はしておきたい」


 シーラが頷く。そうだな。廃墟を調べるだけなら廃墟から誘き出す等の方法も考えられるのだが、継続して探索するなら拠点付近の安全確保はしておきたい。

 エルベルーレの廃墟までは結構距離があるが、あれほどの巨獣だ。相応に縄張りも広範囲だろう。あれだけド派手に縄張りを誇示しておいて、見かけによらず温厚……というのは考えにくい。


 となれば、他の生物もこの近辺を避けている可能性が高い、か? 拠点近辺の問題がベヒモスだけに絞られるというのなら、それはそれでやりやすい部分も出てくるが……さて。




 樹上からの観察も終えて、シーカーの探索範囲を少し周囲に広げていく。探索の様子はカドケウスとバロールで把握できるので、俺もシリウス号の停泊場所造りに着手する事にした。

 滞在を考えるならどちらにしてもシリウス号が必要になる。外の風景は空の色や植生などどうにも落ち着かないものだし、それならば見慣れているシリウス号の船内で過ごせる方が精神的な面を考えても良いだろう。


「それじゃあ……戦闘用区画から掘り拡げていくかな」


 ベヒモスが近場に陣取っている以上、地上からは見えないように拡張工事を進めていかなければならない。そうなると土砂をどこに除けるか、という問題が出てくるが――。

 まず土砂をゴーレムに変え、戦闘用区画に移動させて待機させれば最初のとっかかりとなる作業用スペースが作れる。

 後は分解魔法を使って土砂を消し飛ばしたり、高密度に圧縮したりといった方法で空間を必要な分だけ広げていけばいい。


「多分……分解魔法で魔力をかなり大盤振る舞いするから、もし消耗している間に会敵や襲撃があった場合は対応を頼む。それから、危ないから作業中は近付かないように」

「承知した」


 俺の言葉に、テスディロスは四肢に雷を纏い……かなり気合を入れている様子だ。みんなも真剣な面持ちで頷く。まあ、マジックポーションも十分な量を持ち込んでいるので、魔力不足の隙をあまり作らないようにしたいところではあるが。


「起きろ」


 指を鳴らすと土砂がゴーレムに変わる。戦闘用区画と魔界の門を繋ぐ通路から分岐点を構築していく。魔界の門が配置された区画へと繋がる、下方向への通路はメダルゴーレムを埋め込んで普段は塞いでおけば安心だろう。

 作り出したゴーレムを戦闘用区画に送り込んで四角く変形させブロック状に。作り出したスペースの壁面を圧縮。構造強化も使って固めて崩れないように補強していく。


 作ったスペースを足掛かりに――循環で魔力を練り上げてからマジックサークルを展開。分解魔法の輝きを身体の周囲に纏う。正面に分解魔法を放って一気に土砂を削り、作り出した空間が崩れる前に天井や壁面を高密度に圧縮して更に空間を拡張する。


 程々のところでマジックポーションを飲んで魔力補給。それを繰り返していけば――やがて広々とした地下空間ができた。


「一先ず分解魔法はこのぐらいで。安全性はどうかな?」

「んー。大丈夫だと思う」


 セラフィナがにっこり笑って教えてくれる。良し。

 後はシリウス号が無い状態でも滞在可能なように、寝室、厨房、風呂、トイレ、資材置き場等……設備を作っておく必要があるだろう。

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