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番外659 家臣団の支え

 隠れ里の生活や魔人の特性上、無縁であった仕事の数々。人と魔人の生活様式の違い。

 タームウィルズやフォレスタニアは更に迷宮と寄り添って特有の暮らしをしている事。訓練の後にはそういった事も含めて幻術を交えて話をして、今日の講義は終了となった。

 初回ということもあるので、内容としてはこんなものだろう。


「後は、当人が隠れ里で元々得意としていた仕事、してみたい仕事、興味のある事を目録にして、実際そうした物事に触れてもらって様子見をしていく形になりそうかな」


 視線を向けると、オズグリーヴも静かに頷く。


「では、それについては我らの方で取り纏めておきましょう」


 隠れ里に住んでいた大人達は連携して周辺の魔物と戦っていた。魔人化解除後の身体能力や魔力の使い方に慣れたり警備等のノウハウを覚えれば、武官や冒険者としてある程度やっていけるのは間違いない。

 その分だけ余裕を持てるから、それ以外の選択にも目を向けてみる、という期間が作れるというのも良い。興味の向いているものなら必ずしも仕事にするのではなく、趣味という範疇でも良いのだしな。


「足りない必需品に関しては諸々こちらで用意しておくよ。魔物の素材で当面の資金に余裕はあるから、そこは心配しなくても大丈夫」


 そう言うと隠れ里の面々は真剣な面持ちで頷いていた。というわけで、フォレスタニアの面々を紹介して、それぞれ改めて挨拶をしてもらおう。


「みんなも、これからの暮らしについて話をしたら、自分の詳しい物事について話をするのは(やぶさ)かじゃないそうだよ。色々得意としている事も違うから、これからの皆次第で関わりが増えたりするかも知れない」


 そう言って場を皆に譲る。


「迷宮の奥にある村でクラウディア様やヘルヴォルテ様の庇護の下に暮らしておりました、アルケニーのクレアと申します。私は繕い物や刺繍を得意としておりますので、興味のある方は私達にお声をおかけ下さい」

「同じく、迷宮村出身のケンタウロスで……シリルと申します。私も含めて、迷宮村では農業に関するお仕事をしていた人は多いので、そうした仕事に関してならお話もできる面々も多いかなと思います。それから、楽器演奏や踊りもできる面々が多いですよ」


 と、クレアとシリルが自己紹介をしたりして、そんな内容に隠れ里の面々も興味津々という様子だ。

 芸術や文化関係に興味を持ってくれているのは良い事だ。生活面に目を向けても農業に関する事や縫い物や仕立てといった閉鎖環境で自給自足の生活を続けてきたからな。迷宮村の住民は隠れ里の面々にとって色々と参考になるだろう。


「私からは……家事全般や礼儀作法といった使用人としての心構えならお話できます。有事の際、主人の為に動ける使用人というのは私やミハエラ様の理想とするところですから、皆様の中に使用人を目指したいという方がいるのなら歓迎しますよ」


 セシリアが自身の胸のあたりに手をやってにっこりと笑うと、ミハエラもその言葉に頷いていた。寧ろ戦闘訓練を積んでいる面々という事でセシリアやミハエラとしては有望視しているかも知れないな。


「心構えというのなら武官も、でしょうな。警備にしても規則や法を遵守した上でなければなりませんし、不審者を見出したり仲裁を行うにしても見るべき点、留意すべき点があって、腕っぷしだけでは務まらぬ部分があります」


 ゲオルグが言った。そうだな。その点テスディロスとウィンベルグは傭兵としての経験があったので、応用が利いた。


「魔物の素材の剥ぎ取りは出来ても、料理はしてないんだっけ」

「それじゃ勿体ないわよね。折角だし料理も覚えていったらいいと思う」


 ロビンとモニカがそう言うと、隠れ里の面々は割と真剣な面持ちでふんふんと頷いていた。すっかり料理に興味を持ってくれたようで。


「わたくし達も時々料理の研究等をしておりますわ。それに参加したりというのも悪くないのではないでしょうか」


 と、オフィーリアが言う。


「ゲオルグも料理は得意よね」

「オフィーリア様達の研究に比べれば些か野性的な料理が多くなってはしまいますが」


 ステファニアがそう言うとゲオルグが苦笑する。コウギョクはホウ国の料理に精通しているので、料理関係の人材は結構厚いな。


「工房も魔道具作りに適性や知識がある人は歓迎するよ。瘴気から魔力になって、適性も未知数だろうからね」

「魔道具作り……。かつてハルバロニスではそうした仕事にも携わっておりましたよ。昔の話ですから今の技術も覚えねばならないでしょうが……差し支えなければ平時には私も得意分野で仕事に携わっていきたいものですな」


 アルバートの言葉にそんな風に返答したのはオズグリーヴだ。隠れ里で結界を用意したり魔石に手を加えたりと、色々魔法的な知識があるのは分かっていたからな。結構心強い即戦力かも知れない。


 そうしてこれから生活の場となる城の本棟にてそれぞれの家族ごとに部屋を割り振ったり、生活必需品の手配をしたりして……これで隠れ里の面々の当面の生活基盤は整える事ができたのではないだろうか。




 状況も落ち着いたという事で、隠れ里の面々を迎えてフォレスタニア城のサロンで歓迎の席を設ける。料理だけでなく酒も用意してゲームや音楽を楽しもうという……まあ気軽な席だ。

 音楽を聴くだけでなく、自分で魔力楽器に触れてみるという事もできる席なので、隠れ里の面々にとっては色々気になっている事を楽しめる席なのではと思う。


 遊戯室の端に陣取りシグリッタも絵を描く用意を始めていたりする。今回は歓迎の席を風景画として描いたり、記憶を頼りに隠れ里の様子を絵にする予定とのことで。


「これが私の墨で描いたアステールね」

「筆の乗り……凄く良かった」

「それは何よりだわ」


 キュテリアとシグリッタが、本を開いてアステールの絵を見ながらそんなやり取りをかわす。サムズアップするシグリッタに、楽しそうな様子のキュテリアである。

 隠れ里の住民も興味津々といった様子でシグリッタの描いた絵に見入っていた。こちらはインクの獣用の本なので魔法絡みではあるが、今日描く絵は単純に趣味との事で。


「皆、酒を飲むのは初めてだろうから、少しずつ飲んで自分がどのぐらい強いのか確かめると良いと思う。酒を飲むと普段とは違う性格になる者もいるからな」

「まあ、お酒自体は良いものですので、気軽に楽しめれば何よりですな」


 と、テスディロスとウィンベルグも酒を飲むという事で隠れ里の面々にそんなアドバイスをしていた。二人はフォレストバードと酒場に行ったりもしているからな。実体験に基づいた話なのだろう。


 そんなわけで使用人の皆が料理を運んで来たり、遊びに来たユスティアやドミニクがイルムヒルトと共に楽器を奏でたり歌声を響かせたりして、フォレスタニア城での歓迎の席が幕を開けたのであった。


「この遊戯はこうして白い手玉を撞いていくという遊戯ですよ」

「面白そう!」

「それじゃ、一緒に遊ぶ?」

「うんっ」


 と、隠れ里の子供達を交えてビリヤードを始めるシオンとマルセスカである。カルセドネとシトリアもダーツの遊び方を実演したりして……遊戯だけでなく酒や料理を楽しんだり、音楽に耳を傾けたりと隠れ里の面々は思い思いに楽しんでいる様子であった。


 何はともあれ楽しそうな様子で良かった。魔界探索に関する仕事も控えているが、フォレスタニアの皆も隠れ里の面々のフォローをしてくれるからな。そちらも気にかけつつしっかりと仕事を進めていきたいものだ。

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