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番外655 王国と隠者達

「――思いを同じくするからこそ共に歩む事という選択もできる。困難や失敗も予想される。しかしそこで大きな問題が起こらないように注意を払い、互いに努力を重ねる事は価値のあるものだと余は思うのだ。我らの行いが、後に続く者に勇気と希望を与える先触れとなる事を願っている」


 メルヴィン王の言葉が広間に用意された円卓に居並ぶ重鎮達を前に朗々と響く。隠れ里の者達をヴェルドガル王国で迎えるという旨の通達だ。

 円卓の隣に椅子を並べて――隠れ里の住民達も同席している。


 平穏を望むが故に、長らく人目を忍んで魔力溜まりの近い奥地で暮らしていた事。力とその性質を捨て、人として生きるという選択をした事。

 俺からの報告としては重要な部分を明確にして不安を払拭。そうしてメルヴィン王やジョサイア王子と共にこれからの方針についても伝えるというわけだ。


 オズグリーヴ達を受け入れるというのは、実際の所、一足飛びには行かない部分もある。人と魔人との間で重ねた今までの経緯もあるからだ。

 テスディロス達やオズグリーヴ達が共存を望む者達だったからと言って、他の魔人達が同じ道を取ってくれるとは限らない。無条件で気を許して被害を出す、というのも望んでいないのだ。


 だから隠れ里の住民達は仇ではないし、一般にイメージされる魔人達とは少し違うという事や、今は既に魔人ではないという事は明言しておかなければならない。

 というわけで、今後も共存を望む魔人がいるのであれば、オズグリーヴの時と同様、俺が窓口になって慎重に話を進める事となる。


「この度ヴェルドガル王国とフォレスタニア境界公が私達を受け入れてくれた事には深く感謝をしている。魔人である事を捨て、人と共存する。言葉にするのは簡単だが、確かにこれを出発点とし――実績を重ねる事で信頼を積み上げていく必要があろう。その為に我らも何ができるかを考え、行動を以ってそれを示していきたい」


 オズグリーヴはそう言って、視線を自身の後ろにいるレドゲニオス達に向けた。


「我ら一同、その事を自覚し、力を尽くす事を約束します」

「我らは里の外の事を知らず……未だに自分達に何ができるのかもよく分かっておりません。しかし、こうして新しい生き方をすると決めたからには、共に歩めるように考え、努力をしたいと思っております」


 視線を向けられたレドゲニオス達が真剣な面持ちで頷いて、言葉を口にする。


「それらは、今後の課題でもありますね。彼らだけでなく、僕としても今お話した事が実現できるように力を尽くしていく所存です。とはいえ……あまりその事に囚われて息苦しくなってしまうのも本末転倒ではありますから、日常生活の中で模索し、ゆっくりと進んで行けたらとそう思っております」


 重鎮達には事前に話も通っているが、実際に顔合わせをした上で通達を行い、想いを自分達の口から伝えるというのは大事な事だ。

 そうして実績を積み上げると共に段々と世間に情報を流布させていく、と。まあ、そういう緩やかな形になるだろう。


 メルヴィン王と共にイグナード王、オーレリア女王も会議に出席していて、この方針について支持しているというのを明確にしている。勿論、他の同盟各国の王達も同意してくれている事だ。


「王太子として、この場に居合わせた事を嬉しく思う。私もまたこの日の我らの互いの誓いが長く続いていくよう努力をしたいと考えている。どうかこれから、よろしく頼む」


 ジョサイア王子がそう言うとオズグリーヴも一礼した。

 居並ぶ重鎮達もまた真剣な面持ちで頷いて、それぞれ挨拶をして歓迎の意を示していた。

 それらのやり取りが一段落すると、メルヴィン王が再び言葉を紡ぐ。


「では、このまま歓迎の宴席を設けるとしよう。影響を考えるとまだ大々的に発表というわけにはいかぬが……我らが共に歩みを進める、記念すべきその第一歩となる」


 メルヴィン王がそう言うと場の空気もやや弛緩したものとなり、会議場に酒や料理が運ばれてきて、楽士達も姿を見せるのであった。




「里の住民のこれからについては決まっておるのかな?」


 王城の食事に舌鼓を打つ、元隠れ里の住民達に表情を綻ばせながら、メルヴィン王は俺にもそんな風に尋ねてくる。


「一先ずは人里の暮らしに慣れてもらい、その後個々人の適性や希望を見て相談しながら進めていこうかなと考えていますよ」

「暮らしに慣れる、か。確かに、隠れ里で暮らしていたのならそれも必要な事か」


 俺の言葉に、ジョサイア王子は納得したというように頷く。


「里の暮らしは魔物を相手にする暮らしでもあったようですから、現時点で武官や冒険者に適性があるのは間違いないかと思います。ただ、それ以外の生き方、暮らし方に目を向けてみるのも悪いものではないと思いますからね」


 魔物相手の暮らしに慣れていたからと言ってそこを活かすばかりが生き方ではあるまい。特にレドゲニオス達は魔人化を解除されて、様々な文化にも興味を持っている様子だから、色々なものに目を向けてみるのも良いのではないかと思う。新たな道が拓けたというのならば、それで良いはずだ。


 そうした話をすると、メルヴィン王、ジョサイア王子と共にオズグリーヴも楽士達の演奏に耳を傾けているレドゲニオス達に視線を向ける。何となく微笑ましいものをみるような顔だな。


「テオドール公には面倒をかけてしまいますな」


 と、オズグリーヴが言う。共存の話においては協力者という関係ではあるが、正式に家臣に名を連ねるという事で、言葉遣いは変えるとの事である。


「身の回りに色々理解を示してくれる人もいるからね。ゆっくり進んで行ければ良いと思っているよ」


 そう答えるとオズグリーヴは目を閉じ、口元に笑みを浮かべながら頷いていた。

 明日からはとりあえず、今回の一件で得た魔物の素材を資金にしつつ、新しい暮らしの基盤作りをして行く事になるだろう。


 それに慣れて来たタイミングで俺からも歓迎の意味を込めて街の案内や、温泉、劇場への招待といこう。一応、一般への情報公開は制限しているから、帰ってきてすぐにあちこち連れていくというのも耳目を集めてしまうし、まずは生活基盤を整えた方が安心してもらえると思うからな。




 そうして王城での報告と、今後についての話や歓待の席が終わったところで、みんなでフォレスタニアに移動するという事になった。


 イグナード王、オーレリア女王、パルテニアラももう一日フォレスタニアに滞在するとのことで、一緒に行動をする。

 迷宮入口からフォレスタニアに移動する前に冒険者ギルドに立ち寄る。魔物の素材の査定に関する話も進めておこうというわけだ。


「おお、待っておったぞ」

「これは境界公」

「ご無事にお戻りになられたようで何よりです」


 と、アウリアやヘザー、ベリーネといった冒険者ギルドの面々が挨拶をしてくる。俺もアウリア達に挨拶をして、それから査定についての話を聞く。


「目録と見積もりはこうなりました。御確認下さい」

「魔力溜まりの魔物……。目録を見ると結構奥地での戦いであったようですね。迷宮では出没しない魔物に珍しい魔物の素材も多かったので、希少性を鑑み……その分色を付けております」


 ヘザーから査定金額の書かれた紙を受け取り、目を通す。

 なるほどな。迷宮に出没する同格の魔物の相場よりも査定が全体的に高く感じるのはそのあたりが理由だろう。魔力溜まりの中心地に近い場所等となると冒険者達でも二の足を踏むからな。


 いずれにしても魔物の襲撃はかなり大規模だった。里の者達の当面の生活を支え、基盤を整えるには十分な資金を手にする事ができたと言って良いだろう。

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