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番外645 解呪の輝きと共に

 必要な触媒もシリウス号に積んできている。クラウドエルクの角もあるが、これはアステールの仲間達に貰ったものだそうな。祭壇にクラウドエルクの角を置くと、アステールは「頑張って」というように声を上げる。うむ。


 俺が司祭役、クラウディア、シャルロッテ、フォルセトが巫女役として後ろにつくのも前回と同じだ。グレイス達と、他の同行している面々もクラウディア達の後ろに並んで、儀式の成功を共に祈るというわけだ。


 祭壇の向こう――広場の中心側に描かれた魔法陣の中には、母子達が身を寄せ合っている。オルディアの能力で封印結晶を引き出された者達は既に能力を戻している。やや緊張した面持ちなので、こちらも手順を掻い摘んで説明していく。


「――そんなわけで、儀式の中に危険な内容はないので、肩の力は抜いてもらって大丈夫ですよ。受ける方も見守る方も……今日の魔人化解除で感じた事や、家族や友人、恋人……大切な人との平穏な暮らしを想像して、そうなりたいと祈ってもらうと儀式にも力が与えられると思います」

「平穏な暮らし……」

「分かりました」


 俺の言葉に魔法陣の内外で見守る魔人達がこくこくと頷く。詳しい手順を聞いて安心したようだ。この分なら大丈夫そうだな。


「では、始めようと思います」

「里の者達を、よろしく頼む」


 オズグリーヴがそう言って、里の魔人達も一礼してくる。俺も頷いて一歩前に出た。魔法陣の中心で身を寄せ合う母子達が、真剣な表情のまま目を閉じる。

 祭壇に置かれた儀式細剣を手に取り、眼前に構えて詠唱を始める。


「――我ら、ここに祈らん」


 前回と同様の文言から始まり、魔法陣の中にいる者達の名前を一人ずつ呼んでいく。ウィズによってリスト化してあるので、名前の抜けもないし、数回に分けて行う儀式から漏れる事もない、というわけだ。

 自分の名前を呼ばれて小さく頷く者。真剣な表情のまま、ただただ祈りを捧げる者。反応は人それぞれという印象ではあるが。

 ベリスティオとヴァルロスへの誓いの言葉。詠唱というよりは祝詞。紡ぐ言葉が進むのに従い、魔法陣が光を宿した。


 手順通りに触媒の欠片を水鏡へ落とす。月女神の祝福の力、精霊の加護、皆の想いが儀式に力を与える。そこに込められた想いが強ければ強い程、儀式の力も強くなる。大人数纏めてでも行える理由でもある。


 あんなに魔人達と激しく戦っていた俺が――今こうして解呪の儀式に身を置いている。先の事というのは、分からないものだ。もしかしたら今まで戦ってきた魔人達とも、共に歩めるような。そんな未来があったのだろうか。


 隠れ里に光が満ちていく。渦を巻くように光が広場を輝きで照らす。目を閉じてもまだ明るく感じるほどだ。

 その中で何か――大きな存在が儀式に流れ込んできて力を与えてくれるのが伝わってくる。それはネレイド族の里で感じた、祖霊の気配にも似ていた。

 ああ。そうだ……。ベリスティオとヴァルロスだけではない、な。フォレスタニアの神殿は、魔人達の鎮魂を祈るものだ。だから……今まで俺が戦った魔人達の力を感じる。瞬くように姿が浮かんで、遠ざかっていくように消えていく。


 何となく……彼らの言いたい事も分かる。

 俺との戦いはつまらない世界に華が咲いたようだった、と。だから選んだ道に後悔はないと。そうして、人の身で我らを倒したことを誇れと笑う。


 そう。そうだな。持てる力を、技術をお互いに全力でぶつけあった。俺もあれは――楽しかったよ。


 少しだけ口元に笑みが浮かぶ。同時に儀式の場に満ちる力が増して……その解呪の力が魔法陣の中にいる面々を包む。瘴気のような何かがそれぞれの身体から抜け出して、ガラスのような音を立てて弾け、散る。


 魔法陣の中にいた母子達はお互い顔を見合わせて、それから抱き合う。お互いの名前を呼び合ったり、涙を流している者もいた。

 ウィンベルグによれば……解呪された時は独特の解放感というか、軽やかになったような感覚があるらしいからな。生まれた時からずっと背負っていた呪いから解放されたもの、なのだろうか。普段の感覚自体は、魔人化の特性を抑制した時とそう変わらないらしいが。


「何か不調を感じたら教えてください。すぐに対処しますから」


 解呪された母子達が落ち着くのを待ってから声をかけると、彼女達は目尻に浮かんだ涙を拭きながら頷いていた。イグナード王やオーレリア女王、パルテニアラといった面々もそんな母子達の様子に安堵したような表情である。


「周囲の状況は問題ない?」


 改造ティアーズの水晶板モニターを通してシリウス号側に呼びかけると、周囲の状況を監視しているヴィアムス達からバロールに向けて返答がある。


「問題ない。生命反応の光は見えるが、隠蔽結界で覆っているからか、周囲も落ち着いたものだ」


 との事だ。儀式が色々光って目立つのは予想がついていたからな。ハルバロニスと同様の結界があるのは有難い事だ。


 場に満ちた力は――まだ周囲を舞っている。魔人達がまだまだ力を貸すと、そう言ってくれているような気がする。どんどん続けて解呪していくとしよう。




 母子の解呪が終われば次は女性陣だ。イグレットもこのタイミングでの解呪となった。

 祈りを捧げて詠唱を行えば再び周囲を舞う光に力が満ちて……イグレット達の呪いが解呪される。

 そうしてイグレット達もまた、呪いから解放された感覚に驚いたり涙を浮かべたりしていた。


「大丈夫か、イグレット?」

「ええ。痛かったり、悲しかったりするわけじゃないから、大丈夫よ。何だか……とても身体が軽くなったような……不思議な感覚なの」


 気遣うレドゲニオスに、イグレットは目をやや潤ませながらもどこか晴れやかな笑顔で答える。


「そう、か。それは良かった」


 ほっとしたように笑顔を見せるレドゲニオスである。


「うん。次はレドゲニオス達の番ね。待っているから」

「ああ。行ってくる」


 正面から見つめ合って手を取り合い――お互い穏やかに笑ってそんなやり取りをするレドゲニオスとイグレット。何というか隠れ里の住民はこの二人に限らず、親子や夫婦間や恋人同士でも純朴な印象があって……全体的にやり取りが微笑ましいというか。まあ……魔人特性を抑えられて間がないし、世間とも隔絶しているしな。


 イグレット達と入れ替わるようにレドゲニオス達が魔法陣に立ち入る。


 よし……。では最後まで気を抜かずに気合を入れていこう。




 そうして――里の住民達の解呪が終わる。解呪の儀式中は特に問題も起こらず、大きな力で背中を支えられているような感覚があって、儀式の規模の割に俺自身の消耗というのは驚く程少なかった。まず並んで点呼を取ってもらいながら、全員が解呪されている事を確かめてようやく一段落といったところだ。


「もう大丈夫ですよ」


 と笑みを浮かべると、里の住民からも笑顔と共に安堵や歓喜の声が漏れる。レドゲニオスとイグレットも、嬉しそうな表情で寄り添っていた。身体の不調を訴える者も無し。生命反応の輝きや外から見た感じの魔力の流れも正常、といった印象である。念のために年齢ごとに何人か体調を循環錬気で見ておけば万全だろうか。


「本当に……決断し、行動に移して良かったと思う。約束を守ってくれたからには、私も全力で約束を果たすと誓おう」


 住民達の様子を見て小さく笑みを浮かべたオズグリーヴだったが、俺に向き直ると真剣な表情でそう言って一礼してきた。


「約束、というのならば、彼らをフォレスタニアで迎えてからですね。良くも悪くも世間から隔絶されていましたし、人里での暮らしが上手くいくよう、色々と準備期間を設ける必要があるかも知れません」

「そういう事なら、迷宮村の方々を迎えた経験があるので準備も万端ですね」


 アシュレイが俺の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべる。そうだな。蓄積したノウハウであるとか迷宮村のみんなの経験談は、隠れ里の面々にとってかなり参考になるはずだ。


「それは道理だな。それも私にはできない事ゆえ、世話になってしまうが」

「問題ありませんよ」


 と、オズグリーヴに笑みを向ける。それから何人かに体調の様子を見せてもらう事と、移住に伴い、隠れ里から持ち出したい物があるなら見繕って準備しておいて欲しい、という通達をしておく。

 魔人達であったから人と比べると家財道具が極端に少ないようではあるが、それでも魔人化が解除された今なら思い出の品だとか、色々と物の見え方も違って来るだろうからな。

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