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番外636 共に行く者達は

「同行している方々を紹介しても良いでしょうか?」

「勿論だ。私も里の者を紹介しよう」


 握手を交わしてから俺が言うとオズグリーヴもそう言って応じる。というわけで……ここにきてみんなの自己紹介だ。

 まず魔人達であるテスディロスとウィンベルグ、それからオルディアを紹介する。


「ご紹介に預かりました、オルディアと申します。私の瘴気特性は――テオドール様の封印術に似た所があるのです。里に沢山の方がいるのなら、きっと魔人以外の生き方を知ることの一助になれると思い、同行をお願いしました」

「儂はエインフェウスの獣王イグナードだ。儂はオルディアの養父でな。オルディアの、その能力故に……彼女の両親とも良い関係を持つ事ができた」

「……そうか。既に手を取り合う事ができている者がいたのだな」

「はい。僕にとっては……魔人との共存は手探りでしたので、その時にオルディアさん達と知己を持てたのは心強い話でした」


 オズグリーヴの言葉に頷く。

 それからグレイス達……皆。クラウディア――月女神シュアス本人であるとか、月の女王オーレリア、ハルバロニス出身のフォルセトであるとか……魔人の関係者も多いので肩書きと共に紹介していく。


「何というか……驚かされるな。いや、世界を救ったのであれば、それも納得ではあるのか」


 オズグリーヴはそれらの自己紹介を受けると目を丸くしていた。オズグリーヴの同行者二人は寧ろ、こちらの肩書きよりもそのオズグリーヴの反応に驚いているという印象なので、日常でオズグリーヴがそういった反応を見せるのは珍しいのだろう。


「私達は魔人の誕生に関わりがある者。会う義務があると考えたの。とは言っても魔人は代表と呼べる者が今はいないけれど……貴方は集団の長に間違いないわ」

「ハルバロニスの民は……月女神様と月の主家より子孫に咎はないと許しの言葉を頂きました。今は過去から解き放たれ新しい道を進んでいます。その事をお伝えしなければとここに参りました」

「反乱への許し……いえ、和解かしら。月と地上の交信はできなくなってしまっていたから伝えるのが遅くなってしまったけれど、ハルバロニスの民と同様に手を取り合う道を選ぶ魔人とは和解をしたい、と私は考えているわ」


 魔人達にとっては許しというのは必要な物ではないのだろうけれど……かつての主家であるからこそのオーレリア女王の義務なのだろう。他に過去の出来事に区切りを付けられる立場の者もいない。


 クラウディア、フォルセト、オーレリア女王の言葉に、オズグリーヴは遠くを見るような目をする。そして暫くしてから視線を戻すと、言葉を紡いだ。


「地上をお護りになられた尊き姫君には――感謝の言葉しかありませぬ。オーレリア陛下とフォルセト殿にも……我らの始めた戦いで、ご心労をおかけして申し訳なく思っておりますよ」


 ……そうだな。振り返ってみれば、殆どの魔人達はクラウディアに対してはかなり敬っているというか、攻撃的ではなかったように思う。迷宮深層を目指していたのだって、クラウディアを目的としていたのではなく、ベリスティオの封印を解く事だったしな。イシュトルムだけは……少し話が違ったが。

 同行者の紹介はまだ続く。次はパルテニアラだ。


「妾の名はパルテニアラという。ベシュメルクの王族で、我が国はかつて月の民と争った地上の民の末裔であるのだが……それ以上は込み入った話になってしまうから後で纏めて話すとしよう」


 後ろの二人を少しだけ見やり、パルテニアラがそう自己紹介する。まだ二人の事が分かっていないので詳しく話をするにしてもオズグリーヴのみにしたいというわけだ。

 魔力嵐についてどう思うかは分からないが、話せる部分と話せない部分がはっきり分かれているからな。


「ベシュメルク王国はその系譜から独自の術体系を持っていますが……その解呪の術が魔人化を解除する基礎になりました」

「解呪……呪いか。魔人化する事を呪いと呼ぶのなら……確かにそうなのかも知れぬな」


 オズグリーヴは静かに頷く。

 ヴィンクルの事も……俺から紹介する。


「ヴィンクルについてはやや説明が難しいのですが……イシュトルムが引き起こした騒動で高位精霊の器になったものの生まれ変わりであり、ベリスティオと戦った記憶も持っています」


 という紹介になった。ヴィンクルは小さく喉を鳴らし、やや心配そうな目でオズグリーヴを見つめる。


「ベリスティオ殿と……。私を気遣ってくれている、か」


 オズグリーヴは目を閉じて小さく笑う。それから顔を上げて言った。


「境界公は周囲の者達に恵まれていると見える」

「そうですね。いつも助けられています」


 そう答えると、オズグリーヴは穏やかに笑って頷く。そして、同行者二人に振り返り、紹介をしてくれた。フードを取った、その下の顔は若い男女の姿であった。


「隠れ里の中から、魔人化の解除を希望する二名を連れてきた。顔見知りが魔人でなくなれば、里の者達も魔人化解除の話を事実だと信じる事ができよう」

「レドゲニオスと言います」

「イグレットと申します」


 男の方がレドゲニオス、女の方がイグレットか。確かに……ウィンベルグの飛行術が魔人由来のものだとオズグリーヴは一目で分かったけれど、それは当人が達人であるからだ。里の者達はあれでは判断できない可能性もある。そこで知り合いが実際魔人化から解除されるならば……信用も得られるだろう。


「離れたところに仲間が四人待機しているが……そちらはまあ何か起こった際の後詰めだな。いずれにせよ、私以外の者はそこまで腕が立たぬ故、大勢連れてきても仕方がないところがある。逆に里の守りが手薄になってしまっては本末転倒だ」


 ……なるほど。そうした手札を明かしたという事は、オズグリーヴもこちらを信用してくれたという事でもあるが。


「話を戻そう。レドゲニオスとイグレットは将来を約束した仲でな。先程、境界公は呪いと言ったが……力の弱い魔人は特性も弱いのだろうな。里には魔人としての在り方、生き方を苦痛と感じてしまう者も多い。この二人も……いずれ生まれてくる子には魔人としての業を背負わせたくないと考えたわけだ」


 オズグリーヴの言葉に、レドゲニオスとイグレットは揃って頭を下げてくる。


「そういう事でしたか……」


 二人が望んだ事でもあるのだろうが、そんな二人だからこそ選ばれたと言える。もしもこちらがこの交渉の場で魔人達を騙し討ちするような行為に及ぶなら、その時点で共存の道は語る資格はない。オズグリーヴが今後の行動を決めるための分水嶺に成り得る。


「色々腑に落ちました。お互いの意志が確認できたからには次の段階に進むべきなのだろうとは思います」

「そうだな。決めた以上は先に進まなければなるまい。この場で行うことができるのか、それともどちらかの拠点でか。場所を移す必要のあるものなのかな?」


 俺の言葉にオズグリーヴが尋ねてくる。


「この場ですぐにというのを望まれるならば可能ではありますが……まずは封印術等を用いて魔人としての特性を抑える、という方法が良いのではないかと思います。封印術やオルディアさんの能力ならば一時的な作用で済ませる事ができますので、生き方を選択するという意味でも考える時間が取れると思います」

「考える時間、か。確かに」

「もう一点。契約魔法と組み合わせる事で、指定する状況で封印術が解除されるという仕組みを構築する事ができます。他の方々も有事の折に対応する事があるとは思うのですが、もし魔人の特性を封印した状態の体験を希望すると言うのであれば、そうした方法もある、と伝えておきます」

「了解した」


 後は……そうだな。封印術を使うと魔人の特性から解放されて、色々物の見え方、感じ方に違いがあるらしい。今後の生き方を考えると共に……親善を深める意味でもこのままシリウス号に場所を移して、封印術を施した上で昼食の席でも、というのは有りかも知れないな。

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