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番外633 新しく得たものは

 デボニス大公の居城にて、夕食の時間となる。


「以前に比べれば南方との文化的な交流も増えていましてな。最近ではバハルザードの食文化も取り込んでいるのですよ」

「ほう、それはまた面白そうだ」


 と、フィリップの言葉にイグナード王が笑みを浮かべる。確かに、運ばれてきた料理にはバハルザードで食べた記憶のあるものも並んでいたりする。


「確かに……これはバハルザードで頂いた事がありますね」

「ふふ。私も和解後はドリスコル公爵の考え方を少し見習ってみようかと思いましてな。意識して色々と新しいものに目を向けたり取り入れたりしているのです」


 そう言ってデボニス大公が相好を崩す。なるほどな。俺も頷いて笑みを返した。デボニス大公も色々変化を取り入れているというわけだ。

 そんなわけで、みんなで夕食である。

 茹でた豆にニンニク等を混ぜて磨り潰したものに、塩やオリーブオイルで味付けをしたもの。これもバハルザードの料理だな。


 シンプルな料理であるが……どちらかというと単品で食べるというよりはパンに乗せて食べたりすると中々に食が進む。

 香辛料の利いたナスの肉詰めであるとか様々な種類のチーズやヨーグルトであるとか……エスニックな雰囲気の料理も多いが、ヴェルドガル風にアレンジされているのが窺える。


「ん。美味」


 大公領の直轄地は内陸部なので、やや魚料理は少ないが……シーラも肉詰め等はお気に召したようで。


「色々と研究なさっているのが窺えますね」

「そうだね。食べやすいし美味しいと思う」


 笑顔のグレイスに頷くとオーレリア女王も表情を綻ばせる。


「地上の料理は美味しいですね。ヴェルドガル王国のものやフォレスタニアの料理とはまた違った味わいに感じます」


 確かに、オーレリア女王にとって地上の料理はヴェルドガル風のアレンジがなされていても異国情緒を感じるものだろう。


「その話を聞けば料理長らも喜びましょう」


 デボニス大公がそう言って丁寧に頭を下げた。


 動物組にもデボニス大公が色々と食事を用意してくれていて……動物組も大広間の端に行儀よく並んで食事をしたりと、和やかな時間が進んで行く。デボニス大公はコルリスやホルン用に鉱石も用意してくれたようで、歓待に当たって色々とリサーチしてくれているわけだ。


 そうして食事も一段落したところで、イルムヒルトの演奏やセラフィナの歌声に耳を傾けつつ、のんびりお茶を飲んだり魔法生物組に魔力補給をしたりと……ゆったりとした時間を過ごさせてもらった。


 食後には先程話し合った事をオーレリア女王やイグナード王、パルテニアラにも伝えて情報共有をしていく。交渉場所に関する事や、そこで予想されるトラブルと対策の話。オズグリーヴの能力に関する話と、連れてくる同行者達に関して。


「――確かに、オズグリーヴの能力は気になるところではあるが」


 話がオズグリーヴの能力の事に及ぶと――パルテニアラが思案しながら言った。


「オズグリーヴの立場からすると、交渉が上手く行っても当分は魔人のままという事も有り得るわね」


 クラウディアが言う。そうだな。オズグリーヴの目的は隠れ里にいる力の弱い魔人達の庇護であるが……仮にベリスティオとの約束を重視していて、庇護の範囲が里の外にいる魔人に及ぶ場合は協力するために力を残すという選択をする場合も十分にある。


「俺やオルディアと同じように、目的がある内は……という事か」

「確かに、まだやる事がありますからね。魔人から解放されても覚えた術を失うわけではないようですが」


 クラウディアの言葉にテスディロスが納得したように言うと、オルディアも静かに頷く。


「まあ……オズグリーヴがそういう選択をするなら、かなり協力的っていう事の裏返しでもあるけれどね」

「目的の為には、という事ですな。想像していたより力が残ったとはいえ弱体化しない、とは言えませんし。出力の面でもそうですが、こと戦いという面においては、魔人という種族や瘴気の特性そのものが強力だという部分はあります」


 俺の言葉を受けてウィンベルグが言う。

 魔人の特性――例えば相手の負の感情を食らうという性質は、相手の心を読むことにも繋がり、戦いながらある程度の補給も可能という事だ。実力が拮抗してくれば消耗の方が多いので、無尽蔵に戦えるというわけではないけれど。

 瘴気特性もな。肉体を侵食し、魔力を減衰させるからこそ、闘気を主体にする相手にも魔力を主体とする相手にも効果的で……本当に戦いの為に特化していると言える。


「ですが……封印術で新しい世界を知り、解呪が成された事で大切にしたいと思うものもできました。魔人という在り方が、如何に歪んでいたかも……今ならばよく分かります」

「そうだな。俺達は本当に戦い以外の事を知らずにいた。だからこそ同胞には、新しく得られる物があると知った上で自分の生き方を選択して欲しいと……そう思う」


 ウィンベルグが胸のあたりに手をやってそう言うと、テスディロスもまた真剣な面持ちで目を閉じた。

 そうだな……。生き方を自分で選べる、か。隠れ里の者達にもそう思ってもらえたら、俺としても嬉しいのだが。




 そうして一夜が明ける。今日は面会予定の場所から最も近い拠点まで移動し、そこから竜籠で平野へと赴くという予定だ。

 万一の為にシリウス号で後方に残る面々、一緒に平野に赴き、オズグリーヴと会う面々。それぞれに仕事があるが、きっちりとこなしたいものだ。


「では、テオドール公。皆揃ってのお帰りをお待ちしておりますぞ。」

「ありがとうございます、デボニス大公」

「フィリップ。後の事は任せたぞ」

「はい、父上。朗報をお待ちください」


 見送りに来てくれたデボニス大公と言葉を交わす。フィリップは俺達と一緒にやってきて、拠点で大公家の家臣に陣頭指揮を執る、との事である。というわけで、デボニス大公と家臣団にも見送られて俺達はシリウス号に乗り込んだ。

 アルファがゆっくりとシリウス号を浮上させて――そうして俺達はデボニス大公領の直轄地を後にする。


「方向は南西か。バハルザード王国も望める方角だな」


 シリウス号の進む方角を見てイグナード王が言う。

 面会場所に選んだのはバハルザードとの間に跨る山の裾野に広がる平野部であるが――さて。


「そうですね。隠れ里の在り処としては予想しやすい場所なので、敢えて離れた土地に誘導した可能性を考えていますが」

「オズグリーヴもハルバロニス出身ですからね。過去の戦いでバハルザード周辺の地理に詳しくなっている可能性は十分にあります」


 フォルセトの言葉に、シオン達がなるほど、と頷いていた。そうだな。その辺りの知識から場所を指定してきたというのは十分に考えられる。

 近辺に隠れ里があるのか、それとももっと離れた場所にあるのか。まあ、その辺りの事はオズグリーヴ達が明かしてくれないのならこちらもあまり追究しない方針ではあるのだが。


 そうしてシリウス号を飛ばしていくと――やがてシリウス号を停泊させておくための都市が見えてくる。

 監視塔の兵士が旗を振って誘導してくれる。監視塔にシリウス号を寄せて、甲板にフィリップと共に顔を出すと、兵士は最敬礼で出迎えてくれた。


「領主様よりお話を伺っております。城の横に小さな森がありますので、横付けする形で停泊して頂ければとの事です」

「ありがとう」


 兵士に礼を言って、シリウス号を進ませる。船を停泊させたら――そのままみんなで竜籠に乗り込んで平野部に向かう事になるだろう。これで……いよいよオズグリーヴ達との対面か。

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