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番外631 交渉への出発

 そして――南方に出かける日がやってくる。

 造船所にて詰み込まれた食糧や備品等、物資の確認を終えたところで、乗り込む人員が揃っているかを確認していく。

 今回同行する人物としては……まずテスディロス、ウィンベルグ、オルディアという魔人、元魔人という面々。それからそのオルディアの護衛であるレギーナ。

 アドリアーナ姫とお祖父さん、ヴァレンティナ。パルテニアラも後から合流という事で、エレナも同行している。ヴィンクルやヴィアムスといった顔触れも一緒だ。


 新顔のウルスとアンバーは留守を預かる形だが……二人とも大人しく帰りを待っているとの事で。コルリスとアンバーもふんふんと魔力を微妙に変化させながらやり取りをしていた。コルリスが甲板に登って手を振ると、もうジェスチャーを覚えたのかコルリスに手を振り返すアンバーである。野生のベリルモールと違って旅に出る番候補を見送り、というのは中々有り得ない事なのだろうが……ステファニアの話ではアンバーも意外と馴染んでいるのでは、との事で。


 マギアペンギンの仲間達もラスノーテとロヴィーサの引率で見送りに来てくれた。どうやらフォレスタニアの湖で仲良くなったようだな。大きなペンギン達がこぞってティールとハグしたりフリッパーを振り合ったりしているという光景だが、シャルロッテは満足げに目を閉じて頷いたりしていた。


「シリウス号に乗って、みんなと旅に出るのは久しぶりな気がするわね」

「魔人に絡んだ事件の時は、お互いに名代としてあちこちに行ったものね」


 と、アドリアーナ姫が微笑むと、ステファニアもうんうんと頷く。そうだな。ステファニアとアドリアーナ姫はその事もあってか割と上機嫌といった様子だ。造船所で飛行船を建造する仕事でも一緒にお茶を飲んで談笑したりと、やはり仲の良い二人なのである。


 造船所への見送りにもメルヴィン王やジョサイア王子を始め、タームウィルズやフォレスタニアに住む沢山の人が来てくれて……グレイスもセシリアやミハエラと笑顔で挨拶を交わし、アシュレイはロゼッタや学舎の面々と挨拶をする。

 マルレーンはペネロープと抱擁し合い、シーラとアウリアがお互いサムズアップをしてと、各々挨拶を交わしたりしていた。


「魔人に関わる故、予想できぬこともあるが……無事に帰ってくるのだぞ。出迎えの時に皆と再会した時のあの笑顔が、余は好きでな」

「はい、陛下。みんなで何事もなく帰ってこれるよう、力を尽くす所存です」

「うむ」


 俺もメルヴィン王とそう言葉を交わす。


「姉上もお気をつけて」

「まあ、わたくし達は問題無いわ。それよりもお前こそ、わたくし達が不在の間に婚約者をしっかりと守ってあげる事ね」


 と、ヘルフリート王子の言葉にローズマリーは羽扇で口元を隠しながらそんな風に答える。ヘルフリート王子は「勿論です」と笑顔で答え、ローズマリーは「そう」と素っ気なく答えていた。

 迷宮村の住人と言葉を交わしているクラウディアや、孤児院の面々と挨拶をしているイルムヒルトが、そんなローズマリーの様子に微笑む。


「魔人、か。私は出会った事がないけれど……話を聞くと好戦的だって言うから、気をつけてね」


 キュテリアがそんな風に言葉をかけてくれる。


「ありがとう。まあ、交渉の場だしキュテリアも手伝ってくれた護符もあるから大丈夫だと思うけど」

「ええ」


 と、キュテリアが頷いた。キュテリアは現在、フォレスタニア城や東区の別邸で寝泊まりしている。病み上がりという事で逗留を勧めた形だ。

 只で面倒を見てもらうのは気が引けるとの事でスキュラの墨が必要なら提供すると言ってくれた。というわけで高額で買い取りをさせてもらっている。


 シグリッタがインクとして用いる他、ユラやエレナが防御や身代わりの効果を持つ護符、呪符をキュテリアの墨で書いてくれて……かなり高品質なものがみんなにも行き渡ったので、これからの交渉の事を考えても安心、というわけである。


 そうして沢山の面々と言葉を交わし、俺達はシリウス号に乗り込んだ。


「それじゃあアルファ、行こうか」


 点呼を終えてそう言うとアルファもこくんと頷き、シリウス号がゆっくりと浮上し出す。

 大きく手を振ってくれるみんなやタームウィルズの住民達に俺達も手を振り返して――そうして俺達はタームウィルズを出発したのであった。




 星球儀を見ながら航路を決めて最短距離を結構な速度で進む。西方海洋諸国では目立たないようにしていたが、ヴェルドガル国内の移動なら割と問題なく速度を出す事ができるからな。

 まずはデボニス大公の直轄地に向かい、転移門で合流する手筈を整えてから平野部へ移動ということになるだろう。


 面会場所に最も近い拠点から竜籠を使って移動する手筈を整えている。それらの竜籠とリンドブルム以外の飛竜達についてはデボニス大公が用意してくれるとの事である。


「オズグリーヴ……どんな方なのでしょうね。その、覚醒した時の特性も含めて気になると申しますか」


 と、エレナが言う。エレナはテスディロス達以外の魔人と相対するのは初めてらしいからな。交渉の席とはいえ、不安もあるだろう。


「魔人は……何て言えばいいのかしら。性格と能力が結びついている印象があるわ」

「そうですね。それは戦っていて私も思いました」


 イルムヒルトの言葉にグレイスが頷く。


「確かに……俺の知る者達もそうだったように思う」


 テスディロスが首肯する。

 オズグリーヴとは敵対したくないけれど、と前置きをして言う。


「最初は覚醒に至らず、隠れ里を預かっている内に覚醒してそれを存在意義にもしていると考えると……里を隠したり守ったりするのに向いた能力っていう可能性はあるね」


 そう言うと、みんなも納得したような表情で頷く。敵対はしたくないけれど、だからと言って全く考えないというわけにもいかないからな。


「私としては魔人達の隠れ里、というのが気になります」

「確かに……どんな暮らしぶりをしているやら。隠れて暮らして平和にしていられるものなのか、他の魔人達を知っている身としては今一つ想像が及ばないと申しますか」


 オルディアの言葉に、ウィンベルグも目を閉じて思案していた。

 そうしてオズグリーヴがどんな人物なのか、どんな里なのかといった話し合いをしながら目的地までの道のりをシリウス号は進んで行くのであった。




 やがて地平線の向こうに、デボニス大公の直轄地が見えてくる。街の真ん中を通る大きな川。川に跨る石造りの橋。整然とした街並み。中心部には古色蒼然とした雰囲気の、大きな居城。

 ヴェルドガル王国南方の中心地であるが、前に来た時と変わらず風情を感じる都市だ。


 シリウス号の速度と高度を緩めながら近付いていくと、見張り塔の兵士が旗を振って合図を送ってくれる。

 ゆっくりとした速度で進んで甲板に顔を出すと、兵士はそのまま城へ向かって貰って構わないとこちらに告げてくる。初めて来た時はデボニス大公がシリウス号の大きさを知らなかった為に競技場に停泊させる事となったが、今度は城につけても大丈夫、というわけだ。


 そうして城の近くにシリウス号を停泊させてみんなと共に下船すると、デボニス大公とフィリップが揃って迎えに来てくれた。


「おお、境界公。よくぞ参られましたな」

「これはデボニス大公。フィリップ卿も」


 笑顔で俺達を迎えてくれるデボニス大公とフィリップに俺からも挨拶をする。シリウス号を飛ばしてきたお陰で、旅の疲れといったものはないからな。まずはデボニス大公達と今後の移動や交渉に関する打ち合わせという事になるだろう。

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