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番外630 ヴィアムスの想いは

 そうして再びオズグリーヴにこちらも了承する旨の返事をして――面会をする日取りが決まった。

 執務や魔界探索に関わる仕事をしながら日々を過ごしていけば段々とその日取りも近付いてくる。


 面会の場所は――デボニス大公領の平野部だ。魔力溜まりが近いので平地が広がっているという、地理的に恵まれている場所にも関わらず、あまり開拓の進んでいない場所との事である。

 見通しが良いのでお互い罠を仕掛けるのには向かない。これはこちらに対して警戒をしているというよりは……自分達を信用してもらう為にそうした場を選んだと見るべきか。或いは両方の意味合いがあるのか。


 見通しが良いという事は魔力溜まりの魔物が、平野部にいる俺達を見つけて襲撃を仕掛けてくるという可能性もあるわけで。

 ライフディテクション等の感知系の魔法は切らさないようにしたいが、そういった目的があって術を使っている事は、誤解を招かない為にもしっかりとオズグリーヴ側にも伝えなければならないな。


 面会の場には持っていけないが、シリウス号には乗って行く。場合によってはそのまま隠れ里に出向く、という事態も十分に有り得るからだ。

 アドリアーナ姫やお祖父さん達は同行するが……各国の王達は多忙なので、デボニス大公領の転移門を利用し、現地で合流するという事になるだろう。


 そうしてあれこれと準備をしている中で、深みの魚人族の長老であるレンフォスと戦士長のヴェダル。それからブロウスとオルシーヴという顔馴染みの面々が、タームウィルズを訪ねてきた。


「ご多忙の所時間を割いて頂き申し訳ありませんな」

「いえ、旅の準備は他の方々が進めてくれていますし、僕はいつも通り程度ですから問題ありませんよ」


 と、レンフォスの言葉に笑って、フォレスタニア城を訪れてきた面々を出迎える。迎賓館のサロンで腰を落ち着けると、レンフォスが言った。


「前もってお話した通りではあるのですが――ヴィアムス殿の折り入っての相談の件でお話をしに参りました」


 ――今回の一件。私も付いて行く、というわけにはいかないのだろうか? 勿論、自分の守るべきものは理解しているが、それでも使命と同時に、守りたいものもある。


 そんな風にヴィアムスから相談を受けたのが事の発端というか。今回の一件というのはオズグリーヴの事だ。

 ヴィアムスとしては危険も予想されるなら尚の事、俺達に同行して何らかの力になりたい、と思っているらしい。


 ヴィアムスは瞳を守る役割を持つが――だからと言ってそれがヴィアムスの全てではない。そう思って名前にも「共に生きよう」という意味の名付けをしたのだし、その為にスレイブユニットも用意した。

 だからヴィアムスの相談内容は、こうして深みの魚人族も交えて話し合うというのが道理ではあるだろう。というわけでレンフォス達にも相談したところ、顔を合わせて話をする事になったのであった。


 ヴィアムスに関しては、スレイブユニットで日常生活に馴染む訓練と、迷宮内部での本体の起動試験、模擬戦闘試験等々を進めている最中で……まあ、それらが終われば本体は深みの魚人族の集落で暮らすという事になるだろうし、それは本人としても楽しみにしているらしい。


 瞳の主に影響を受けたのか、魔光水脈で魚介類を確保したりといった「漁」が思いの外、楽しいそうで。まあ、スレイブユニットでも水中での機動力は結構なものだし、通常の漁に参加できる程度の機能を持っていたりする。魔法の網を放ったりだとか。


 因みにスレイブユニットに関しては本体同様、集落で深みの魚人族と一緒に暮らすわけだが……こちらは本体とは違って気軽にタームウィルズやフォレスタニアに遊びに来る事もできる立場だ。転移門があるお陰で、各国の王も割と気軽に訪問してくることもあるし、その辺は問題ない。


 とまあ……ヴィアムス周りの状況に関してはこんなところだ。レンフォス達には魔人達との共存の為に必要な交渉で出かける、というあたりの事情までは話をしている。魔人に対するスタンスも詳らかにしているしな。


「我儘の為に時間を取らせてしまって済まないと思っている」


 そうヴィアムスが言って、スレイブユニットが少し俯くが――レンフォス達は、それは杞憂だというように笑顔を見せた。


「ヴィアムス殿の希望については承知していますし、その気持ちはわかるつもりでおりますぞ」

「左様。確かに瞳を守る事は大事ではありますが……テオドール公の為に力になりたいと望む気持ちを、無碍にするような事は言いたくはありません。それに、きっとテオドール公ならば良い方法を考えて下さるでしょう」


 ……そんなレンフォスやヴェダルの言葉に、ヴィアムスは少し目を見開いてから頭を下げる。そうか……なら……。


「アルクスも任務を持っており、本体が人前にはあまり出られないという事情があるのですが……ヴィアムスを同行させるなら、アルクスがフォルガロと戦った時と同様に、滅多な事では本体を召喚するような事にならないように細心の注意を払いたいと思っています。ヴィアムスが後方に控えていてくれると、僕としても心強いというのも、確かですから」


 そう言うと、レンフォス達は嬉しそうに頷き、ヴィアムスの表情も笑顔になっていた。本体の感情を示す部分も、喜びの感情で明滅していたりして。

 そうだな。ヴィアムスの意思はどうあれ、流石に門を経由する魔界探索にまでは連れていけない。

 だとするなら、力になるなら今だという思いもヴィアムスにはあるのかも知れない。


「叶うならば我らも同行したいところですが……今回は他種族との和平交渉でもありますからな」

「流石に全く接点のない種族である我らが出ていっては、話をややこしくしてしまう部分もあり……難しいものですな」


 ブロウスとオルシーヴがそういって、深みの魚人族達はしみじみとした様子で頷き合う。


「皆さんの気持ちは嬉しく思っていますよ」


 そう言って笑みを浮かべると、レンフォス達は深々と一礼してくる。

 深みの魚人族からの感謝の気持ちは相当な物なので……叶うならばどこにでも助けに行きたいと思っているのは窺える。

 事情が色々と複雑に絡んだ和平交渉という性質でなければ。或いは場所が海に面していれば。戦闘が前提ならば。そういう条件だったらレンフォス達も同行を願い出ていたかも知れないな。


 まあ……ヴィアムスの内心を考えると、できるだけ気持ちを汲んでやりたいからな。きちんとレンフォス達に話を通してから決めたのは正解だったと思う。

 だとしても本体は連れて行かず、召喚をするにしても本当に緊急時の防衛に回ってもらうという感じになるだろう。


 ラストガーディアンであるヴィンクルもまた、魔人に関する事だけに今回は同行を希望しているし、アルクスもスレイブユニットで後方に控えたいというから……戦力という面でいうなら相当分厚かったりするが。

 というわけで、ヴィアムスも……アルクスと同じく本体は同行せず、スレイブユニットで後方に控える形で俺達と同行する、というわけだ。


 そうしてアルクスやマクスウェル、アピラシアといった魔法生物組はヴィアムスが一緒に来る事になったのが嬉しいのか、表情を綻ばせているヴィアムスを見てうんうんと頷いたりしていた。


「ふふ、嬉しそうですね。ヴィアムスさん」


 そう言ってグレイスが微笑み、みんなも笑顔で頷き合う。和気藹々とした空気に、俺も表情が綻んでくるのが分かるが。

 何はともあれ深みの魚人族やヴィアムスに限らず、みんなからの信頼や想いに応える意味でも、しっかりとリスクを抑えて立ち回りたいものである。オズグリーヴとの交渉……気合を入れて臨むとしよう。

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