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番外629 隠れ里からの手紙

 オズグリーヴへの告知が行われてから――六日程で返信があった。


「対応が早い……と見て良いのかしらね。ヴェルドガル王国側の対応は転移門があるから、中央と地方の対応が即時だけれど、魔人達はそうもいかないもの」


 と、クラウディアが思案しながら状況を分析する。

 そうだな。郊外に張り出された高札を見て隠れ里に報告に行き、手紙を用意してからまたそれを届けるために動く、といった具合の動きになっているはずだ。


 現在、俺達がいるのはフォレスタニア城のサロン。執務や仕事を諸々終えた夕方の事である。普段の面々に加えて最近工房の仕事を良く手伝いに来てくれているパルテニアラ、エベルバート王の名代として面会に参加が決まっているアドリアーナ姫が一緒だ。

 サロンに水晶板モニターを持ち込んで、メルヴィン王やジョサイア王子、エベルバート王、オーレリア女王、イグナード王といった面々も交えて情報の共有と会議を行う。


『魔人達は飛行術を使えて機動力に優れる、という事を考えれば……対応が迅速なのも納得ではあるがな』

『手紙を出した地域を特定されないように、敢えて急いだり遅らせたりと偽装するような過程も挟んでいると思いますから……オズグリーヴの動き自体はもっと早かったのでしょう』


 イグナード王の言葉に、オーレリア女王も頷く。


『この一件を受けて、各地で手紙を郵送する態勢を少し変えているというのもあってな。向こうからの手紙には前回と同じような特徴を付けてもらえば、反応までが早くなると伝えてある。後は該当する手紙が余らに向けて送られたものであれば、各地に派遣されている専門の係を経由して、転移門を通してすぐに余らの元に届けられるというわけだな』


 メルヴィン王がそう言うと、サロンに居並ぶ面々と水晶板モニター越しの面々が感心したように頷いた。


「向こうが委縮しないように伝言にしても何にしても色々気を遣っているのですね」


 アドリアーナ姫が頷く。そうだな。手紙を紛れ込ませるにしても、こうして高札で向こうに返答した以上はメルヴィン王や俺宛てへの手紙は郵送の途中の段階で何事かと思われて、注目を集めてしまうところがあるし。

 後は各地にいる係が都市部に集まってきた手紙の中から特徴が一致するものを選別し、その中からメルヴィン王や俺に宛てられた手紙であるかを見ていけばいい。


 郵便制度についてはまあ……商人ギルドと公的機関が組んでのものだ。手紙を扱ってもらう商人を名簿に登録し、管理しつつ地方都市に集めて、遠方なら飛竜便で纏めて郵送。近距離なら行商等のネットワークを使って地方の町や村々等に届けるといった具合である。


 商人側には行商のついでに手紙を扱うメリットがあって……兵士や冒険者が護衛についてくれるので護衛にかかる代金が安上がりになったりする。

 国としては街道の治安維持の他、物資流通の健全化、商人の郵便物への不正な覗き見や横領防止を兼ねられるというわけだ。


 商人としても優れた馬や馬車を持っていて迅速で確実な届け物や、誠実な行商ができるであるとか、信用に繋がってくる部分での評価を得られるので……まあ、国も商人も両者にメリットのある制度といった具合だろうか。


 魔人達としては――そうした制度の中に手紙を紛れ込ませる余地があるのだろう。例えば街道で旅人が商人に荷物や手紙を託すというのは割と日常茶飯時だ。魔人達にしてみれば結界が問題にならなくなる。


 預かった荷物を検査するのはともかくとして、手紙を託してくる人物を厳密に取り締まる、という事はこれからもしない方が賢明だろうな。今回のように魔人達に対する窓口になり得る。まあ……或いは何かしらの特殊能力で、どこかの段階で手紙を紛れ込ませている可能性もあるが。


『して、返答は何と?』


 と、エベルバート王が尋ねてくる。


「まず挨拶の後に……魔人についての理解が深い事に感心する、と。その後は割と淡々とこちらの出した条件に対する返答と、向こうの希望する日時、場所等の条件指定をする内容ではありましたが……会って話を前に進めよう、と考えて貰える程度にはこちらの意図も伝わったのかな、と思っております」

『向こうの指定する条件にこちらが了承する旨を伝えればそのまま話が進むであろうし、その条件では難しいとするならば落としどころを模索しての再交渉ということになろう』


 そうメルヴィン王は俺の言葉に付け足すようにして、文面に記されていた具体的な条件を告げる。


 同行者に対するオズグリーヴからの見解としては――交渉を纏める意志を持つ者であるならば同席する事に問題はないでしょう、というものだった。

 魔人と他の種族の因縁は星の数ほどあれ、当事者ではないオズグリーヴにとっては……今日の状況の遠因、原因については何も思う事がないわけではないが、そこまで重要視してはいない、との事だ。


 それは……里とそこに住まう者達こそがオズグリーヴにとっての存在意義だからか。

 過去の事は過去の事として、そこに拘って現状に累を及ぼすのでは確かに本末転倒ではあるが。それに……当然のように話し合いには本人が出てくるとの事で。


 ともあれ、メルヴィン王の告げた期日、場所とその他の条件に対して、居並ぶ面々は裏がないかを話し合って検討する。


『提示してきた条件自体は割と単純なものだね。もっと色々と条件を付けてくるのかと思ったけれど』

「交渉としては妥当、かしら。お互いすぐに状況を確認できて、相手が違えていると判断したら逃げる事もできるような条件でもあるのかしら」


 ジョサイア王子の言葉にステファニアが答える。

 移動の為に転移門やシリウス号を使うのは向こうも認めてくれているが、交渉の場ではシリウス号は後方に下げていて欲しいとの事で。まあ……それは仕方がないと言えばそうなのだろう。兵力を乗せていける船だから、俺だってオズグリーヴの立場ならそういう条件ぐらいは付ける。


 その上で更に少し見解を話し合い、それぞれ期日と場所に関しては問題ない、と返答をする。俺もだ。向こうの提示してきた条件等々については問題はない。


「僕も予定に関しては問題ありません。想像より向こうの対応が早いので魔界探索より先に面会ということになりそうですね。領地を留守にする予定も……今の所他にはありませんし」

『では……面会の日程と場所に関しては決まりだな」


 メルヴィン王が静かに頷く。


「オズグリーヴ本人と、数名の同行者……。どんな人達が来るのでしょうね」


 グレイスが首を傾げる。


「同行者か……。魔人化の解除を真実かどうか確かめるなら、そうしてもらいたい人材をまず連れてくる、というのは有り得るかも知れない。或いは、護衛の意味合いを持つ戦闘員というのも有り得る」


 この辺は……予測の域を出ないな。

 肝心の面会の為の場所であるが――オズグリーヴは南方を指定してきた。

 デボニス大公の治めている土地ということになるが……隠れ里のある土地はまた別の場所、という可能性もある。彼らの出自であるハルバロニスが南だから、南方での面会となると言うならそれはそれで頷けるし、逆に偽装の為に南にしたと言われればそれも納得のいくものではあるだろう。


「この件に関しては、デボニス大公からはご自身も相手方に裏の意図がないかを思案しつつ、今回の話し合いで決定した事であれば全面的に協力をする、とのお言葉を受け取っています。場所はどうやら見通しの良い平原のようなので、お互い事前に通告した条件に反する動きを見せればすぐに露見してしまうかな、と」


 結界術や転移術に対する備えはしておこうか。用心程度の心構えはお互い様というか、自衛をするなとも言えないからな。

 ともあれ……日程も場所も決まった。オズグリーヴとの話し合いが上手く行くように願いつつ、裏がないかの検討と準備だけはしっかりと重ねていくとしよう。

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