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番外627 防衛要塞の魔法実験

 満月の迷宮。その最深部から分岐する魔界の門防衛区画。

 その場所にてティエーラとコルティエーラの見守る中、魔法実験を行う。つまり――アルファとシリウス号の召喚実験だ。

 造船所で行うこともできたが、秘匿しておいた方が良い実験内容でもあるからな。迷宮内部にシリウス号を召喚魔法で移動させる実験も含めて、ここでやってしまおうというわけだ。


 迷宮管理者であるティエーラからは、アルファとシリウス号がガーディアンとして特異な立ち位置になる事に承諾を貰っている。迷宮核からも特定の手順で迷宮の内外を行き来できる特殊なガーディアンとなるように改めて設定をし直したわけだ。


 その上で……アルファとシリウス号を召喚するための魔道具を作り上げた。

 発動には契約魔法の他に、ヴェルドガル王国との間の取り決めといったセーフティーを設けている。発動に際してはオリハルコンで仲立ちをしてやる必要があるので、基本的には当代では俺以外には扱えない品ということになるだろう。

 後世ではどうなのかと言えば……ティエーラの許可を得た者が契約魔法によって魔道具の主になれる。使用条件は王国との取り決めもあるから、結局ティエーラと国に認められなければならないというわけだ。


 ウロボロスとオリハルコンが無くとも術式を儀式化する事で発動可能となる。今より大分手間はかかるが、必要な時に使える方法は残してある。


「――では、始めます」

「はい。見守っておりますよ」

「ええ。テオドール」


 と、穏やかな口調で微笑むティエーラと共に、クラウディアも静かに頷く。ティエーラに抱えられたコルティエーラもその身を明滅させた。


 そうしてみんなの見守る中で、ウロボロスに首飾りを絡ませ、環境魔力を取り込んで魔力循環を開始する。

 オリハルコンが取り込んだ魔力を変換。マルレーンの性質を与えられた魔石に反応して召喚術式を大きなマジックサークルとして展開する。

 同時に空中に巨大な光のフレームが広がった。召喚する対象が大きいので危険を避けるためのガイドとなるものが必要になるだろうという配慮だ。


 このガイドフレームが出る事で召喚位置が分かりやすくなり、周囲の者はどこまで退避すればいいのか、召喚するスペースは十分かどうかが分かる、というわけだ。どちらかに問題がある場合、フレームが赤色になって警告を発してくるので分かりやすい。


 術式を発動させるとフレームの中に眩い光が広がり――そうしてその場にシリウス号が現れる。甲板に立つアルファが俺を見て、にやりと笑った。各部モニターと繋がっている魔法生物型感覚器は一体型なので纏めてシリウス号、という扱いだ。このあたりも組みあげた召喚術式の中にしっかりと記述してある。


 但し、シーカーやハイダー、ティアーズであるとか、その他通常の魔法生物の面々はこの術式に含める事ができないので、やはり召喚先できちんと乗り降りする必要があるだろう。


「アルファ、体調は?」


 そう尋ねると、アルファは尻尾をゆらゆらと左右に揺らす。当人としては問題ない、ということらしい。念のためにウィズと共に魔力反応を調べたり、動力部となるアルファの魔石の状態を循環錬気で確認したりといった作業を進めた。


「どうやら……単純に召喚する方に関しては良いみたいだ」


 甲板に戻って、そう言うとマルレーンがにこにことした笑顔で拍手を送ってくれた。コルリスとティールもそれを真似るように拍手をしたり声を上げたりという具合だ。アルクスも――防衛区画なのでスレイブユニットではなく本体が軽い金属音を立てながら拍手していた。

 みんなもその様子に表情を綻ばせて、俺もマルレーン達に手を振る。

 さてさて。残り二つの実験後にシリウス号内部の点検をして、問題が無ければアルファとシリウス号に関する召喚実験は一先ず完成となる。このまま順々に進めていくとしよう。




 残った二つの実験の内一つは、召喚魔法を利用してシリウス号内部に密航者が乗っていた場合の炙り出しである。これは俺が艦橋に乗ったままシリウス号を少し上にずらすように召喚してやる事で確かめる。生物に対する挙動と魔法生物に対する挙動。両方を調べるという事で、一先ず俺とウロボロス、ティアーズが艦橋にいれば問題あるまい。


 召喚魔法の術式対象外となるだけで、密航者に関しては迷宮核のシミュレーションでも特に問題はない。


「テオ、情報収集をしたいのであれば、私達も一緒に乗った方が良いのでは?」


 と、グレイスが言うが。


「問題ないよ。心配かけてたら悪いとは思うけれど、大丈夫だと分かっているから自分で試すわけだし、自分で試してもいない魔法なら尚の事、先に他の人で試すような事はしたくない」


 そう答えると、グレイスは静かに目を閉じて頷く。心配しているというよりはデータ収集に協力したいという印象で、組んだ術式の安全性も含めて色々信頼されているのは分かるが……まあ、これは魔術師としての倫理の問題でもあるしな。


 ということで、みんなが見守る中、実験を行う。

 俺とウロボロス、ティアーズを置き去りにして、シリウス号の座標が召喚魔法で上に動いていた。艦橋で術を発動したはずが、頭上にシリウス号の船体下部が見えているという状態だな。

 密航者からしてみると――周囲が光に包まれて、次の瞬間にはシリウス号の外に放り出されていた、というような印象を受けるだろう。


 俺自身と俺の所持品の他、ウロボロス、ティアーズ共に問題なく召喚魔法の対象外となったようだ。俺が視線を向けるとティアーズもマニピュレーターを身体の前に水平に持ってきて身体ごと傾けて一礼するような動作を見せる。

 俺自身や魔法生物達への影響も……循環錬気とウィズの解析で調べたが問題なし、と。まあ、そもそも魔法の対象外なのだから問題が起こるような事もないわけだが。


「大丈夫みたいだ。次は乗組員纏めての転移だね」


 最後の実験は召喚魔法を拡張した乗組員ごとの転移術式である。もう一度先程の面々で拡張した術式を試せば、今日の実験も完了というところだ。




 そうして――拡張型転移魔法のチェックも無事に終えた所で、改めて体調や船の状態をあちこちチェックして、問題がない事を確認する。


「よし。問題なさそうだ。実験に付き合ってくれてありがとう、アルファ、ティアーズ」


 そう言うと、アルファはこくんと頷いて、ティアーズは先程のように再び一礼をする。


「使ってみた感じでは、どうだったかしら?」


 と、実験が終わったところでローズマリーが所感を尋ねてくる。


「召喚術の方は魔力消費も抑えられていて良いと思う。乗組員ごとの転移は……分かってはいた事だけど、かなり魔力消費が大きいね。かなりの魔力を練り上げないといけないから、使う場合は咄嗟にっていう方法では準備をしていないと難しいと思う」

「防御的に使うなら計画的に、ということですね」

「なら、攻撃的に使うなら奇襲とか?」


 アシュレイとシーラがそんな風に言う。


「そうだね。運用方法としてはそういう方向になるかな。まあ、手札として使えるなら役に立つ場面もあるかも知れないし、無駄にはならないかな」


 備えあれば何とやらと言う事で。

 そんな話をしていると通信機に連絡が入った。オーレリア女王からだ。先日のオズグリーヴとの面会の件で話をしたいとのことで。今日はパルテニアラもクラウドエルクを連れてくるという話をしていたが、その事を伝えると二人ともお互いに会えるのを楽しみにしていると、会えるのが寧ろ嬉しいようだった。


 では、地上に戻ってオーレリア女王やパルテニアラと話をするとしよう。

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