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番外625 隠者からの手紙

 アンバーの現状を確認したところで、みんなと共に造船所へと向かう。コルリスの時もそうだが、普段から連れて歩く事で安全だと周知したところがあるからな。デュラハン達にしてもアンバーにしても安全だし親しめる相手だと知らせるのは重要だ。


「テオドール公の使い魔達か。……凄えな、こりゃ」

「使い魔だけじゃないって聞いたけどな」

「それじゃ何なんだ?」

「羊の生ってる木とか……意味が分からないが」


 と、ウルスを見て首をかしげている者もいたりして。


「あー。仲間、とか? 東国の魔物達も境界公と知己があるらしくて、タームウィルズに遊びに来たって事があるな」

「ああ。あの時も凄かったな……」


 と、移動がてら情報収集をしてみれば、沿道にいる冒険者がそんな話をしているのが聞こえた。まあ……妖怪達が遊びに来た時のインパクトに比べれば今の状況もそこまでではあるまい。基本的に一般人に対して危害を加える事はないし、そういうものだと理解してもらうということで。


 兵士達も周知してくれているそうだし、デュラハン達も古参であったり、コルリスが下地を作ってくれた、という背景もあって割と好意的な反応が多いように思う。

 アンバーやウルスもコルリスの事を見習ったのか、共に手を振ると、兵士、住民、冒険者も笑顔になって手を振り返したりしてくれた。


「やあ、テオ君」


 そうして造船所に到着するとアルバート達が俺達を迎えてくれた。


「街の反応はどうだったかな?」


 と、アンバーやウルスを見るとパルテニアラが笑顔になって尋ねてくる。


「ベリルモールが増えている事や、バロメッツに驚いていたという印象がありましたね。けれど、概ね好意的に受け入れられている感じがするのは以前から変わらずでしょうか」


 いつもの事、にして慣らしているのは俺の方だしな。同時に野生の魔物とは違う、というのを兵士達には周知してもらう事にしているけれど。


「それは何よりだ」


 と、パルテニアラは笑顔になるのであった。




 魔界探索に向けてシリウス号及び、それに絡んだ召喚術関係の改造、外洋航行船に絡んだ魔道具作りと船員の訓練。何時ものようにそうした作業を進めていると、通信機に連絡が入る。


「これは――」


 と、少し驚いてしまうような内容がそこには書かれていたが。


「どうかなさいましたか?」


 グレイスが俺の反応を見て尋ねてくる。


「うん。ちょっと通信機を見て欲しいんだけど」


 みんなにもその内容を見せると、やや目を丸くしたり、真剣な表情になったりしていた。魔人絡みの話だ。真剣な表情にもなるだろう。


「テスディロス達にも連絡を入れておいた方が良いな。これからメルセディア卿がその現物を持ってくるってさ」


 そうしてテスディロス達にも通信機で連絡を入れ、ゲオルグにもテスディロスが仕事から一時抜けるのでそのフォローをして欲しいといった具合に調整をしておく。

 テスディロス、ウィンベルグ、オルディアの三人とメルセディアが造船所にやってきたのは殆ど同じタイミングだった。


「これはテオドール公。お忙しい所申し訳ありません。先程移動中にテスディロス様達をお見かけし、合流して参りました」


 そう言って……メルセディアは封筒を差し出してくる。


「このような手紙がメルヴィン陛下とテオドール公宛てに届きました。既にメルヴィン陛下はお目を通されたとの事で、早めにテオドール公にお見せするようにと」


 メルセディアから手紙を受け取り、その文面に目を通す。そして……みんなにその内容を話して聞かせる。


「――ヴェルドガル国王メルヴィン陛下、そしてフォレスタニア境界公。突然このような不躾な内容の書状をお送りする事になってしまい、申し訳なく思っております。私はオズグリーヴと申す者。遥か昔、我らが盟主ベリスティオ殿の力で魔人と成り、ハルバロニスを出奔した……最古参の魔人の一人とご理解頂きたい」


 魔人――オズグリーヴを名乗る人物からの手紙だ。手紙の中にベリスティオやハルバロニスという単語が並んでいる時点で……まあ、悪戯という線は消えるだろう。ここまで読んだだけでも、一般には流布していない情報をいくつも知っているということになる。


「とはいえ、私は最古参の者達の中でも長らく覚醒に至らず、力の弱い足手まといではありましたが。故に、ベリスティオ殿からは保険としての意味合いから後方に留まるようにと命を受け、人知れず人里から離れた土地に居を構え――同じように力の足りない者達の寄り合い所帯となって幾年月。今となっては俗世から切り離された……この里の者達を守る事こそが、我が心の支えになっているのです。古き魔人達を見てきたテオドール公ならば、私の言葉の意味も、何となく理解してもらえるのではと思っておりますよ」


 そんな風にオズグリーヴからの手紙は続く。オズグリーヴは当時弱かったから後方に留まるように言われた、と主張しているが……現在は違うだろうな。

 当然覚醒に至っているだろうし、高位魔人として里を纏め上げられるだけの実力も備えている、と見ておくべきだ。


「理解、か。魔人として言いたい事は何となく……分からんでもないが」

「左様。あの有様が永劫に続くとなれば、何かしらの形で心の支えと言うのは必要となりましょう。我らの場合は、ヴァルロス殿の理想にその希望を見たものですが――」


 テスディロスが手紙の文面を聞いて言うと、ウィンベルグも目を閉じてそんな風に言う。

 高位魔人達が長命に飽きて、命を賭けられるに値する場面、相手を求めている、というのは……確かに俺も相手をしていて感じた事がある。

 テスディロス達から後になって色々と聞いてみれば、ガルディニスはやはり、古参の魔人の中でも変わり種であったらしい。

 教団の運営だとか組織内での出世だとか、そういった事に固執する事で精神の摩耗を防いでいたのではとも思うが……だとするなら里を守るのはオズグリーヴにとって、ガルディニスの教団と同じ事、という意味合いになるだろうか。話の真偽はどうあれ、魔人に対してかなり造詣が深い人物であるというのも間違いあるまい。


 そうして文面を読んでいけば――ヴァルロスに仲間に加わらないかと話を持ちかけられたが断った事、ベリスティオがヴェルドガルを指し示す夢を見た事が書かれていた。

 その上で……俺が魔人化を解除したという話を耳にしたそうだ。魔人を近くに置き、ヴァルロスの意志を違った形で引き継いで共存を望んでいる事も。

 ベリスティオの夢を見た事もあって情報を集め――こうして接触してくるに至ったというわけだ。


「それを知った上で私が望むのは――私が何時しか精神が擦り切れるその前に、里の者達が魔人として生まれ落ちた業から解放されるのを見届ける事でしょうか。しかし、聞こえてきた話をただ信じる程、私は若くはない。何らかの形で接触し、話が真実である事を確認できれば、私の大切にしている者達の事を頼むことができるかも知れない。そう思っているのです」


 ……つまりは、俺の魔人へのスタンスが本当の事であると確認できるなら里の者を魔人化から解放してやって欲しいと。そう言っているわけだ。

 それから互いに安全な方法で意思疎通をして、その後に接触する為の方法の提案等が書かれていた。


「書かれている事が確かなら慎重ながらも魔人の在り方には否定的な方という気がしますね」


 オルディアが思案しながら言う。そうだ、な。古参の魔人だけに、魔人としての生のその先が見えてしまっているというか。勿論、罠であることも視野に入れて色々と考えなければならないが。


「一先ずは――この手紙に書かれている符丁を使って、こっちからオズグリーヴへの返答を情報として流すっていうことになるのかな。こっちの返答を受け取ったなら、また手紙が来る、かも知れない」


 魔人化解除の情報を各地にリークしたのを掴んでこちらに接触してきたわけだから。同じルートで返答を返してやればオズグリーヴも気付いてくれるだろう。俺がそう言うと、みんなも真剣な表情で頷くのであった。

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