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番外624 大土竜の生態観察

 誕生日も過ぎて――。各地から集まった王や、貴族、知り合いの面々はまた会おうと約束を交わしてそれぞれ帰って行った。


 ダリルとネシャートについては……一先ず状況も落ち着いたと言えるだろう。

 ダリルはガートナー伯爵領、ネシャートはタームウィルズと、普段いる場所に距離こそあるが、転移門で会いに行く事もできるし、今が秋という事もあって、もう少し経って冬になれば父さん達も王都を訪れて過ごす、という事になるかも知れない。家の問題が解決しているから、父さんも領地を空けやすくなっただろうしな。


 さてさて。俺達の仕事としては普段の通りに戻って、魔界探索の準備を進める事を優先して動いているわけだが……少し前に新たなベリルモールがタームウィルズに姿を現していたりする。


 こちらがベリルモールの縄張りに入ったわけではないからか、それとも頭をぶつけて目を回していたからだとか、他に理由があるからか……出会った時は大人しいものであった。

 コルリスより小さい個体だったが……暫く一緒に過ごしてから伴侶を決めるというベリルモールの生態等も考えて、アンバーと名付けてフォレスタニアで面倒を見る、という事になったのであった。


 というわけで執務と領地の巡回が終わったところで、フォレスタニア城の一角にある、コルリス用に作ったスペースを見に行く。


 フォレスタニアの地下には満月の迷宮に繋がる区画が広がっているが……そこに至るまでは結構深くまで掘らないといけないからな。接続区画の外殻も魔法的に守られた強固なものなので、コルリスやアンバーが掘り抜く事はない。そもそもコルリスとアンバーの巣穴も、塒として不便ではない程度の広さに留めてもらっているしな。

 ベリルモール側としても、迷宮の旧坑道区画があるので鉱脈を探すために地下道を延々と造る必要もない、というわけだ。


 巣穴の近くにやってくると、二つになった巣穴の入り口にコルリスとアンバーが揃って顔を出す。その様子に、一緒に様子を見に来たシャルロッテが表情を綻ばせていた。


「アンバーの様子はどう?」


 そう尋ねると、コルリスが鼻をひくひくとさせて応じる。コルリス達は普段、あまり声を出す事がないので魔道具はあるがステファニアが五感リンクで翻訳の役回りをする事が多くなる。


「一緒に旧坑道に行って鉱石を掘ってくるのは楽しかったって言っているわ」


 笑みを浮かべるステファニアの言葉にコルリスとアンバーが揃って頷く。コルリス達のそんな様子にマルレーンもにこにことした表情を見せた。

 こちらからの言葉はコルリス達が翻訳の魔道具を装着しているので意味が通じるからな。五感リンクがなくともアンバーにはこちらのして欲しい事、して欲しくない事などはしっかり伝えられるというわけだ。


 アンバーにはコルリスと揃いのスカーフと腕章が装備されており、迷宮に潜る事もできるように、しっかりと手筈を整えてある。


 アンバーが初めて迷宮に潜った時は俺もついて行って、様子見しつつも護衛という方向で動いてみたが……コルリスより小柄でもそこは流石ベリルモールという印象だった。結晶の鎧を纏って自分の身体を守るという術も使っていたし、岩の蔦を旧坑道の壁面に沿って伸ばし、魔物の動きを封じたりするという……コルリスとはまた違う技を使っていたりして、総じて旧坑道あたりの魔物相手なら危なげがなかった、という印象である。岩の質感まで旧坑道に合わせていたので中々の腕前ではないかと思う。


「話を聞いたり、様子を見ている限りではアンバーも大丈夫そうね」

「後は人との関わり方かしら。人の生活の様式や街での行動を教えていけば、問題無さそうではあるけれど」


 と、クラウディアとローズマリーが言う。そうだな。そのあたりは一先ず俺達と共に行動しつつ、コルリスに教わる形で様子を見ながらゆっくり進めていけば良さそうだ。


「よろしくお願いしますね、アンバーさん」


 と、グレイスがそう言って、アンバーの爪の先と軽く握手を交わす。カルセドネとシトリアもアンバーとにこにこと握手をしていた。

 それからシャルロッテは――コルリスとアンバーに自費で買って来たらしい鉱石を手ずから与えて食べさせていた。実に幸せそうな表情であるしコルリスもアンバーも嬉しそうなのでまあ、良しとしておこう。


「ん。そう言えば、ベリルモールの巣穴の中ってどうなってるのか、気になる」

「ああ。それは確かに……練兵場の巣穴も、改めて入ったりはしませんでしたからね」


 シーラが言うと、アシュレイが頷く。


「コルリス、どうかしら?」


 ステファニアに尋ねられたコルリスはこくんと頷いて、巣穴に入っても構わないというように脇に退いてくれた。というわけで魔法の明かりを灯して巣穴を見せてもらう。

 内部は結構広々としていて、壁面がきっちりと土魔法で固められて構造強化されており表面がガラス質でコーティングされていて光沢がある。割と整然とした様子だ。小部屋に鉱石の貯蔵庫もあったりして、用途ごとに部屋が別れているらしい。


 動物らしい臭いがあったりということもない。コルリス達は食性が特殊だからあまり普通の代謝もしていなさそうだし、実際体臭もあまりないしな。代わりに……土属性の独特な魔力が巣穴全体に満ちていて、これはベリルモールなら嗅覚で感じ取れるのだろう。


「コルリス達が立ち上がっても問題ないぐらいの大きさね」


 爪先立ちになって天井に手を伸ばしたイルムヒルトが、納得したというように頷く。側面の壁には人が這って通れるぐらいの横穴があるが……これはコルリスもアンバーも通れないサイズだな。代わりにそこの横穴から、アンバーが顔だけを出した。


「こっちの横穴は、アンバーの巣に通じているそうよ。番の相手としてお互い気に入ったら壁を除けて……最終的に二人の巣穴が一緒になるらしいわ」


 ステファニアが教えてくれる。なるほどな。そんな生態があるのは知らなかったが。

 更に奥には小部屋。ここは寝床らしく、さらさらとした細かな砂をベッドにしているらしい。時々動物がするように砂浴びもしているし、眠るときは半分潜って顔だけ出したりといった具合らしい。


「砂浴びは馬等もしますが、ベリルモールもするんですね」


 エレナが言うと、ティールも不思議そうに首を傾げる。


「それで体毛や体表を清潔に保ったりするらしいね。寄生虫を除ける為にする動物もいるらしいけれど、まあ……マギアペンギンはやらないかな」

「道理で……ベリルモールの体毛の手触りが良いのはそういうわけですね」


 と、俺の言葉にエレナは感心したように頷いていた。シャルロッテはアンバーの頭を撫でながらしみじみと頷いていたりするが。

 まあ確かに、毛足が短くてビロードやベルベットのような感触だったりするのは事実だな。


「アンバーは、ここでの暮らしはどう?」


 そう尋ねるとコルリスが鼻先を近づけてアンバーに話しかけるような仕草を見せていた。実際はコルリスの魔力が少し変化して、それを受けてアンバーの魔力も変わるといったようなやり取りで……そうか。魔力を変化させてやれば嗅覚で感じ取れるから、それで意思疎通のような事をしているのかな?


「静かで、いい匂いがする場所だから過ごしやすいって言っているそうよ。鉱石も沢山取れる場所があって嬉しいって」


 と、ステファニアが翻訳すると、その通り、と言うように、コルリスとアンバーは揃って頷くのであった。そうか。それは何よりだ。ティエーラや四大精霊王達もいる場所だしな。その辺りで気に入ってくれているのかも知れない。

 ともあれ野生のベリルモールの暮らし方とは結構違う、とは思うのだが、アンバーに関しては割と馴染んでくれているようで何よりだ。

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