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番外621 ダリルの想いは

「ふむ。国元に帰る前に、ダリルには聞いておきたい事があってな」


 と、アクアリウムや模型部屋を見た後……城のサロンでのんびりしていると、父さんが頃合いを見計らってか、ダリルにそんな風に切り出した。父さんとしては関係者の揃っているここでダリルに確認してしまおう、というわけだ。


「聞きたい事……。何でしょうか?」


 改まった様子の父さんに少し居住まいを正すダリルである。


「ここでは少しな。そうだな。中庭の東屋にでも場所を移そうか」

「分かりました」


 父さんがそう言ってダリルが共に立ち上がり場所を移した。それを見送った後で……ファリード王も言う。


「ああ。そう言えば俺もネシャートに聞いておきたい事があったのだったな」

「では……私達も場所を変えますか?」

「そう、だな。どこか良い場所はないかな?」


 ネシャートに尋ねられたファリード王が俺に視線を向けてくる。


「そうですね。迎賓館からは外れますが、奥の船着き場はどうでしょうか。腰を落ち着けて話もできます」


 あの場所は泳いだりもできるし、みんなで集まって話をしたりお茶を飲んだりといった用途でも使っているからな。


「では、そこで話をするとしよう」

「案内致します」


 というわけでファリード王とネシャートもアルケニーのクレアに案内される形で奥へと向かった。

 俺としては――後で報告を待つだけになるかな。ヘルフリート王子の時と違って立ち会う理由があるわけではないし。まあ……全く気にならないかと言えば嘘になるが。

 ダリルとネシャートが婚約する場合、転移門関係で行き来が増える事になるだろう。そういう背景もあってメルヴィン王や俺にも経緯を報告すると言われているから、後で詳しい話は聞けるだろう。


 ともあれ、父さんもファリード王も、政治的な都合が良かったとしても政略結婚としての色が強くなるような方法は好かないそうで、心に決めた相手がいないならこれからの交流で婚約を考えてみてはどうか、というニュアンスで話を進めるつもりらしい。


 父さんは先代ガートナー伯爵と先代ブロデリック侯爵の都合に翻弄されたところがあるし、ファリード王も先王と側近らが暗君や佞臣だったために苦労しているからな。

 話の運び方が示し合わせたかのようにこういう方向になったのも理解できるし、父さんとファリード王も意外と話が合うかも知れない。

 お互いの親や後見人との関係が良好というのも重要だろうしな。


「お二人の気持ちが重要ですが……お互いに良い印象であるならお話も上手く纏まると良いですね」


 グレイスが目を閉じて言うと、オフィーリアやカミラ、カティアを含めて女性陣はしみじみと頷いていた。




 そうして暫くしてから、先に戻ってきたのは父さん達だ。父さんから俺とメルヴィン王とで話を聞いてみる事となった。


「――ふむ。大事な話でもあるから単刀直入に聞こう。ダリル。お前には心に決めた将来を誓い合っている相手であるとか、もしくは想いを寄せている相手というのはいるのかな?」


 と、父さんが東屋で尋ねた所、ダリルは少し驚いたような表情をしていたそうだ。

 唐突……というわけでもない。貴族家の後嗣であるならば何時話が持ち上がっても不思議の無い事ではある。だからだろう。ダリルもすぐに表情を真剣なものにして、少し考えた後に父さんに尋ねる。


「伯爵家の後嗣として……婚約を考える必要がある、という事でしょうか?」

「そうなるな。だが、家の都合を考えてというものではない」

「心に決めた……と言う異性はいません。気になっている方なら……ええ、まあその……」


 そんな風に言って、ダリルはやや言葉を濁してしまったらしいが。


「まあ、先方でも同じような話をしてその意思を確認しているので、少し持って回ったような言い方になってしまっているが。私も先方も家や貴族の都合を押し付けるような事をしたくないと考える方でね。だからこそ、当人達同士の気持ちが大事になると考えている」

「だから、僕に特別な人がいないかと最初に尋ねたわけですか」

「そうだ。誰に憚る事も無く、お前の意思で聞くかどうかを決めるべき話だ。そこを確認しないと話は前に進まないし、それで良いのだと思う」


 その質問に父さんは頷いてそう答えると、ダリルはまた暫く目を閉じて考えていた様子だったが、やがて目を開いて言ったそうだ。


「その……僕の考えが間違っていたらやや見当はずれな事を言ってしまうのかも知れませんが、もしも、もしもですよ? 僕が今、予想している方との縁談が持ち上がっているのであるなら……僕は、嫌ではありません。ですが、きっとその方は困るのではないでしょうか。国の為に勉強をしに来ている方だと思いますので、国外で婚約するとなっては……いや、そもそもお話を受けてくれるとも限らないのですけど……」


 と、熟慮している部分とやや混乱しているところが見えたようだが。ダリルがネシャートの事を言っているのは間違いないと父さんは判断したそうだ。

 ともあれ、父さんの話の中から判断材料を拾ってネシャートの事ではないかと察した事や、自分の気持ちよりもネシャートの立場を慮っている事などは……以前よりもダリルがかなり思慮深くなっているのを裏付けている気がする。


「そうだな。私だけでなく先方も、当人同士の意思を重視したいと思っているからね。肩すかしになっては悪いとまず名前を出さずに話をしたが……多分、お前の予想した通りの相手だ」

「やはり……ネシャートさん、ですか?」

「そうだ。先程言っていた気になっている相手というのも彼女かな?」

「ええと、そう、です。けれど先程も言いましたが……僕より、彼女の気持ちを優先させてあげて下さい。僕はあの人の事を尊敬できる人だと思っていますから、それで落胆したりはしません」

「分かった。先方にはそう伝えよう」


 父さんが小さく笑って頷くと、ダリルもまた安心したような表情で頷いた。

 とまあ……父さんから聞いた事の顛末はそんな内容であった。ダリルとしてはネシャートの事は嫌っていないし、魅力的にも思っているが、何はともあれネシャートの気持ち次第というわけだ。ダリルらしい反応や返答な気がする。


「そうしてダリルは少し気持ちを落ち着かせてくると、中庭の散歩に出かけた」

「なるほど……」


 だがまあ、ダリルは心配していたが、婚姻がネシャートの目的の邪魔になる、という事はないように思う。

 転移門があるから国元と行き来し、研究成果を共有して農業に関する実地試験をしたりというのも容易になっているし、木魔法を農業に活用する勉強や研究を進めるならタームウィルズやフォレスタニアは実際恵まれた環境だからだ。

 その辺りの事に俺が言及すると、父さんも静かに頷く。


「そうだな。ダリルにはその気持ちを汲んで敢えて言わなかったが……ネシャート嬢が実地で農業の為に魔法研究をしたいというのなら、ガートナー伯爵領でもその為の土地や畑の都合をつけるぐらいはできよう。実地試験であるなら大規模である必要はないのだしな」


 そうだな。それも話が纏まれば、の事であるし、ダリルやネシャートの立場だとあまりその辺の厚意に最初から期待してしまうというのも違うだろう。

 まあ……バハルザード王国の民の将来に関する事であるからこそ、俺達としても転移門の使用許可が出せるというところがあるのだし。


 後は……ファリード王からの報告待ちか。まあ、これで縁談が纏まったとしても結婚というわけではなく婚約者になるという段階なので、すぐさま何かしらの状況が動くというわけでもないが……さて。

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