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番外620 フォレスタニア城の新施設

「バロメッツに関しては植物なら大抵のものは食べられるようですな。毒草や棘のある植物も問題にしないあたりは普通の羊と大分違いますぞ」


 マルブランシュ侯爵が教えてくれる。なるほどな。ウルスはこくこくと頷いて何となく誇らしげにしているが。


「では、食べさせる植物の種類に関してはそこまで気を遣わなくても良い、と」

「そうなりますな。かなり食欲旺盛で野生では問題を起こす事もありますが、見た所皆さんに懐いているようですし、単体では問題はないでしょう。食べれば食べる程、毛の伸びる速度も早まるので食糧が十分なら毛刈りも捗るかと」


 と、マルブランシュ侯爵がバロメッツについて色々と教えてくれた。


「稲藁があるから普段の食糧はそれで確保できるけれど……それと並行してフォレスタニア城や東区の別邸で、庭の除草も手伝ってもらう、というのも良さそうね」


 俺とマルブランシュ侯爵の言葉を受けて、クラウディアがそんな風に言うと、ウルスは声を上げて応じていた。手伝いも頑張る、との事だ。うむ。


「後で庭師の面々を紹介するよ」

「ん。ジェイク達」


 そうだな。シーラの言葉に頷く。

 因みにウルスの声を翻訳したところによると、魔力が豊富で稲藁がすごく美味しい、だそうである。まあ……火精温泉の水とノーブルリーフ農法で育っているからな。

 そんなわけで……ウルスに関しては問題無さそうだ。


 そうして少し休憩所で茶を飲んだりした後で、今度は地下水田をみんなで見に行く。


「地下水田です。植物の生育に必要な光を、魔法で確保しているわけですね」

「……ああ、これは素晴らしい技術ですね」


 フォルセトの言葉にネシャートは地下水田を眺めて感動した面持ちで大きく頷く。

 バハルザードは荒地や砂漠が多い国だ。耕地面積が少ないという問題をかなり改善する技術でもあるからな。ネシャートにしてみれば感動を覚えるというのも分かる。

 元々は月の民の技術だ。厳しい環境で活用する事こそ元々の目的に沿うものなのだろう。


「水耕栽培ができる作物なら、もっと小規模でも同じような事ができそうですね。地下は一年中温度が安定していますから、魔道具による環境維持も簡単になるかも知れません」


 そう俺が言うと、見学にきた面々は真剣な表情で頷いていた。その上で栽培に適した作物を見出して農業を行うといった具合だな。データ収集等の面で、事前に色々と頑張る必要もあるけれど。


「木魔法は植物を活性化させたり、植物の状態を察知したりできるって聞いたけれど……土魔法と同じく、やっぱり農業にはすごく役立ちそうだね」

「はい。私の場合は盾や防御柵を作ったり、蔦を絡めて敵兵の自由を奪ったり転ばせたりといった術ばかりで、そういった面での活用はまだまだですから……。こうして実際にそうした方面での魔法技術が使われているのを見ると、とても意欲が湧いてきます」


 ダリルの言葉にネシャートは嬉しそうに笑う。そんなネシャートの様子にダリルはどこか眩しいものを見るように、目を細めて頷くのであった。




 そうして植物園見学も終わり、みんなでフォレスタニア城へ戻ってくる。

 ウルスを連れて帰ると早速シャルロッテが感動した面持ちでハグしていたりしたが。


「ああ……。このもこもことした毛の感触……。実に素晴らしいです」


 と、シャルロッテは満足そうな表情で、撫でられるウルスも心地よさそうにしていた。

 マルブランシュ侯爵の話によれば、普通の羊よりも早く毛が伸びて……ウール毛としても上質だが、魔力の通りも良い、かなり優れた素材になるとの事で。確かに触り心地も良かったからな。シャルロッテの感想も分かるような気がする。


「ああ。ウルスに紹介しておくよ。魔法生物のジェイクと小カボチャ達。庭師の仕事もしているから、ウルスと一緒に仕事をする事が多くなるかも知れない」


 シャルロッテが感触を堪能して落ち着きを取り戻したところで、植物園で話していた通りジェイクや小カボチャ達を引き合わせる。ウルスは嬉しそうに声を上げてジェイク達に挨拶をしていた。

 ジェイクや小カボチャ達はそれほど自意識が強いタイプの魔法生物ではないが、ウルスの前足と軽く握手を交わす。どうやら仲良くやっていけそうだな。


 そうして見学会も終わり、滞在している面々と共にのんびりと城で過ごす。


「ああ。これは可愛いわね」


 アクアリウムを見たキュテリアが笑顔になっていた。

 アクアリウムの光珊瑚はまだそこまで育っているわけではないのだが、水槽の内側を小型のブラシで掃除している内部作業用のゴーレムの動きを、キュテリアは大分気に入ったようで。水槽の壁面に発生した藻や水苔を削ぎ落とし……再び水中に散ったりしないように内部作業用ゴーレムは木魔法で一塊のブロック状に変える。いくつか掃除に使える術式を覚えさせたからな。


 ゴーレムの保有する魔力は大きくないから術の規模も小さめだが、水槽内部に必要な作業という視点で考えれば十分に実用に堪える。


 藻や水苔を食べる生物がいるならば、ゴーレムが清掃した時に作られたブロックを餌にしたりもできるのだろうが……今の所はそうした生物もまだ水槽には入っていない。

 ゴーレムは水槽の上の方まで泳いできて、備え付けの受け皿に藻ブロックを乗せるという作業をこなしている。受け皿に乗せられた藻ブロックは外の人間が気が付いた時に片付ければいい、というわけだ。

 そんなわけで……内部作業用のゴーレムもしっかりと仕事をしてくれているというのもあって、アクアリウムの水質に関しては今の所安定している。


「船の甲板を掃除している水夫を連想してしまうな」

「ああ。それは確かに」


 デメトリオ王やコンスタンザ女王も、そんなゴーレムの動きに表情を綻ばせていた。


「ゴーレムの使っている道具は実際の甲板清掃用の道具を意識して作りました」

「なるほどな。道理で……」


 と、楽しそうなデメトリオ王である。ゴーレムは一通りの内部作業を終えるとぺこりと一礼して、岩場を背に腰を落ち着ける。その近くにはイソギンチャクもいて。作業を終えたゴーレムを労うように触手で背中をぽんぽんと軽く叩いたりしていた。キュテリアはそんな様子を見てうんうんと頷いていたりするが。


「案外このイソギンチャクは賢いのです」

「家人を認識して気遣ってくれたりもしますからね」


 ブロウスとオルシーヴがそんな風に教えてくれる。なるほどな……。マルレーンがにこにことしながら水槽に向かって手を振ると、ゴーレムとイソギンチャクが揃って外に向かって手を振っていた。そんな様子にみんなの表情も綻ぶ。


 アクアリウムだけでなくアピラシアの小型模型部屋も各国の王達には好評なようで。


「城も街も……よく出来ているな、これは」


 と、イグナード王は家の屋根を大きな手で大切そうに摘まんで、家の中が作り込まれているのを見やると、笑顔になっていた。


 アピラシア自身も模型を色々と作ってもらったから気合が入ったらしい。アピラシア自身で作っている城のディテールがかなり大変な事になっている。


 頑張りました、と満足げなアピラシアである。城の大きさは前に見た時からそこまで変わっていないが、装飾面での強化がなされている。幸い建築関係の本も城の書庫にあったからな。それを参考に研究したとの事で。


「いやあ、これは凄いですねぇ」

「ふふ。私達も負けていられませんね……!」


 ビオラとコマチが頷き合ったりしていて。蜜蝋で作ったとは思えない精巧な作りに職人組もまた創作意欲を刺激されているようだ。ドロレスも「これは船の模型作りにも気合が入りますね」と笑顔になっていた。


 劇場や運動公園のように大規模な施設というわけではないが、模型部屋やアクアリウムもみんな楽しんでくれたようで何よりである。

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