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番外618 宴の後の会談

 ダリル達の会話はやはり農業に関する事で、割と真面目な内容で盛り上がっている様子だ。ネシャートは木魔法の使い手。しかし農業に携わる魔術師という意味ではまだまだ入口に立ったばかり。

 ダリルは色々勉強しているが魔法に関しては自分が行使しないので、どうしても伝聞系になってしまうという事で、ミシェルやマルブランシュ侯爵の話はかなり興味深いものであるらしい。


「同じ土地で連作を行うと実りが悪くなるでしょう? 土魔法、木魔法を農業の助けに使った時、一時的には良い結果が出ても後の収穫が悪くなる場合がある、というのは同じ事、と考えられているのですな。この辺りは実験で結果を出しております」

「つまり……魔法を活用する場合は、その辺りに気を付けて術を使う必要がある、という事ですか?」

「そうですな。或いは間を置いて土地を休ませるか、どうしてもその土地しか使えないなら他の方法で土壌を良くする必要があるわけです」


 マルブランシュ侯爵の話にダリルも質問をして、ミシェルやネシャートも真剣な表情で頷いていた。


「そのあたり、ノーブルリーフ農法や水田ならどうなのかとも考えましたが……ミシェル殿に尋ねるのは些か問題がありますな」

「そう、ですね。私の実験もテオドール公、アシュレイ伯、フォルセト様に任されたものですから、私の一存では内容はお話できないと理解しております」


 と、丁寧に頭を下げるミシェルである。マルブランシュ侯爵は柔和に笑みを浮かべ「心得ておりますよ」と笑う。


 俺達も近くにいたので……フォルセト、フローリア、それにメルヴィン王やファリード王といった面々で顔を見合わせて頷き、会話に参加する。


「少しお話が聞こえましたが……そうですね。ある程度の所までは問題ありませんよ。ミシェルさんは着眼点が良いので安心して実験を任せられます」

「食糧の問題は重要な事であるからな。テオドールも普及を目的に実験を進めているのだし、同盟間では問題あるまい」

「同じく。ハルバロニスの技術には助けられているが、バハルザードのみで情報を秘匿しようとは思っていない。餓えた民を見るのは気分が悪いからな」


 俺とメルヴィン王、ファリード王がそう言うと、ミシェルとフォルセトは笑顔で頷いた。


「では――。ノーブルリーフ農法ではそうした連作時の不作は起きないようですね。ノーブルリーフ達の扱う術が植物の育成自体を促進しているのか、土壌そのものの質を良くしているのかはまだ実験と観察が必要ですが」

「稲作に関しては水田ですからね。水の流れが土壌の栄養を運んで、田がそれを溜め込むのだとハルバロニスでは考えられています。植物園の水田に関してはやや特殊と言いますか――火精温泉の水を引いていたり、育成環境にフローリアさんや花妖精、ノーブルリーフ達がいますので、また環境が違うというか、前提が色々変わっているように思います」


 というミシェルとフォルセトの言葉に、ダリルやネシャートだけでなく、マルブランシュ侯爵も含めて興味深そうに頷いていた。


「ネシャートさんは魔法を農業に役立てたいとお考えの様子。是非植物園も見学していって下さい」

「良いのですか?」

「勿論です。以前とそう変わりはないので今回は皆で訪問するという予定はありませんが……ネシャートさんがヴェルドガルにいらっしゃった時、僕達は西方に赴く予定があったので、そのあたり、お待たせしてしまったかなと気になっていたのです」

「それは、助かります」


 一応あの設備は実験施設であるため、立ち入りや見学には制限が設けられる。だがまあ、信用のおける相手から申し入れがあれば断る理由もない。

 農業系の魔法技術の見学会という事で、マルブランシュ侯爵やミシェルも参加するという事で話が纏まる。


「ふむ。ダリル殿も共に見学にというのは如何ですかな。農業に造詣の深い魔術師が一緒というのは後学のためになるはずです」

「それは――ご迷惑でなければ。是非、見学に参加させて頂けたらと思うのですが……」

「勿論です」


 マルブランシュ侯爵がダリルに尋ねる。ダリルが俺に視線を向けて尋ねてきたので俺も二つ返事で許可を出す。何というか、俺とダリルの関係だと国内貴族への口利きになってしまうのでお互い気軽には頼みにくいところがあるが、こうして公的な場で正当な理由として予定を立てる分には何も問題はあるまい。


 マルブランシュ侯爵も、ダリルに対しては中々好印象を持ったようで。だからこうして気にかけてくれたのだろう。俺の異母兄だからこそ、気を回して話題を振ってくれたのかも知れない。


「楽しみですね、ダリル様」

「うん。そうだね」


 と、ネシャートに微笑みかけられて、明るい笑顔で応じるダリルである。

 そんなネシャートとダリルを見て、メルヴィン王やファリード王、父さんも何やら納得したように頷いたりしていたが。


 宴の席はそんな調子で思い思いに話をしたりして盛り上がりを見せていた。星座や幻影劇場の話題も多く出ていたので、出し物も好評だったようだ。




 そうして宴の席も終わり、訪問客のみんなを迎賓館の客室に案内したり、宿泊に関する指示等をしていたが……その手が空いた頃合いを見計らって、メルヴィン王にサロンで少しお茶でもどうかと誘われた。

 サロンにはファリード王と父さんもいて……ああ。こうした面々だと話を察してしまうところもあるが。多分、ダリルとネシャートに関する話だろう。


「これは皆様お揃いで」


 と、苦笑して言うとファリード王もにやりと笑う。

 面子を見て俺が用件を察したのを理解したというわけだ。つまり、この面子はダリルに関する事を話していた、ということなのだろう。


「すまんな、誕生日に」

「いえ、ファリード陛下もお忙しい立場ですし、元々その為の時間を取る予定でした。内容としても良いお話なのではないかと思いますから」


 俺からは――先日のダリルの様子を俺の見解を交えて話す程度の事しかできないが。元々ファリード王にはこうして誕生日にきてもらった時にその話を伝える予定ではあったし問題はあるまい。


「僕から話をしてみたところでは、ダリルはネシャートさんには良い印象を持っているようですよ。異性としての好意かは分かりませんが、人として尊敬できる、と考えているようです」


 そう言うと、ファリード王は真剣な表情で頷いた。


「ふむ。尊敬、か。その話と併せて……実際の様子を見た感じでは――良いのではないかな」


 ファリード王は単刀直入だ。そんな言葉に父さんは恐縮です、と一礼する。

 ネシャートはファリード王にとっては大切な友人の忘れ形見、ということらしい。そんなファリード王から見て、ダリルの人柄やネシャートとの会話から見た互いの様子は好ましいものだった、という事なのだろう。


「急ぎ過ぎても変に意識してしまうだろうが……良縁であろう、これは。互いに心に決めた者が別にいるという事でもなければ、明日の見学の様子を見てから婚約についての話題を実際に振ってみる、というのも良いのかも知れんな」

「確かに。ガートナー伯爵家の立場としても良いお話と理解しておりますよ」


 と、ファリード王と頷き合う父さんである。

 ファリード王と父さんの方でお互いに認め合い、話がついているとなると……。まあ、貴族の場合、こういう話は案外ととんとん拍子に進むものであったりするが。


 何はともあれ、明日植物園を見学という事になっているので、話が動き出すのもそれからといったところか。

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