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番外616 フォレスタニア城の宴

 城に到着し、正門が開くと魔力楽器が鳴り響いた。誕生日の祝いとみんなの歓待。両方を兼ねての演奏だ。楽士隊の役回りを請け負っているのはゴーレム楽団である。

 魔力楽器はキーボードやシンセサイザーのような作りで、音色を様々に変えられるからな。何台も用意しての演奏は――何というか壮大な印象になる。


 さながらオーケストラのような旋律の響きに、王達も「おお、これは――」と楽しそうな表情で反応し、ドミニクやユスティアと一緒にやってきたハーピーやセイレーン達、深みの魚人族といった音楽好きな種族も驚きの後に笑顔になっていた。


 迷宮村のみんなが演奏している魔力楽器は座ったまま演奏できる作りだが――足回りに工夫が凝らされている。ゴーレムメダルを組み込んであるので俺達の移動や演出上の都合に合わせて移動可能というわけだ。

 正門から迎賓館のある中庭に向かって進んで行けばゴーレム楽団が立体的に動いて、演奏も立体的な広がりを見せる。


 それに合わせて俺もマルレーンのランタンを借りて、光の粒や泡を飛ばして幻術の演出を上乗せしてやる。


 中庭に到着すると石のアーチから水路へと流れる水のカーテンがライトアップされて――更に幻想的な光景が広がる。演出の見た目は結構煌びやかだが……実際のコストはかなり抑え目だ。色々自前で用意できるのが強みだからな。


 曲の盛り上がりに合わせて周囲を舞う光と泡を動かす。迎賓館前に到着すると同時に曲も最高潮となり――幻術の光と泡が渦となって螺旋状に舞い上がった。曲の終わりとタイミングを合わせて空中で一つの塊となって……そして弾けて散った。


 俺も迎賓館の前まで出て、みんなの視線を集められる位置で一礼する。


「今日は――こうして沢山の方々に集まって頂き、誕生日を迎えられた事、誠に嬉しく思います。皆様との絆が此度の機会を作ったと思えば、こうして祝福を頂ける事は大変嬉しいものです。返礼という程ではありませんが、宴の席を用意しましたので皆様に楽しんでいって頂けたら幸いに存じます」


 その言葉と共に一礼すると拍手が起こった。

 そうして背後の扉も開き、みんなを玄関ホールから大広間へと案内する。広間では既に座席と食事の用意が進んでいて……扉が開け放たれると食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。


「訓練を兼ねて、迷宮をあちこち回って食材を用意しました」

「それはまた……境界公にしかできない宴ではあるな」


 俺の言葉にエベルバート王が笑い、レアンドル王も感心したように頷く。

 珍しい所ではエンデウィルズの恐竜肉、定番になりつつあるマンモス肉も、まだまだ珍しい食材ではあるか。恐竜に関しては鳥の味に似ているが中々繊細な味で良いものだ。マンモス肉共々、量が確保できるというのも宴向きではあると思う。


 他にもエリンギに似た味のウィスパーマッシュを宵闇の森に狩りに行ったり、魔光水脈に様々な魚介類を確保しに行ったり……。

 迷宮は作物系の魔物が少ないのでそのあたりは狩りではなく収穫した物や買った物から、という事になるが、それでも十分な量の食材を確保している。更に植物園の果物をデザートにしたり、といった具合だ。


 それらの食材を料理するのはセシリアとミハエラ達。それから迷宮村の使用人である。それから協力を要請したコウギョクも快く引き受けてくれた。

 セシリア達の料理の腕はミハエラ仕込みなので相当なものだし、コウギョクの腕前も一級品である。こちらの料理は東国の面々には珍しいし、ホウ国の料理はこちらでは珍しい。

 寿司に天ぷら、カツにカレー等々……俺が地球側から持ち込んだ料理も色々と用意されて、それぞれの好みに合わせて選べるので、宴の席ではみんなに楽しんで貰えると嬉しいのだが。


 そうしてみんなが席について各々に好みの料理が行き渡ったところで宴も始まる。俺が乾杯の音頭を取る。


「平穏と我らの絆に!」

「平穏と我らの絆に!」


 と、俺の言葉にみんなの声が続いて――掲げられた杯が呷られる。そうしてゴーレム楽団が演奏を再開して宴が始まった。


 コウギョクの料理は――恐竜肉の皮に熱した油をかけながら焼く、というもので、表面はパリパリ、中はジューシーな仕上がりだ。皮の付いていない内側の部分は甘辛な味付けで炒めたりという具合である。

 ミハエラ達は恐竜肉の表面に近い部分は香草詰めのローストターキーのようにしたり、内側の肉はシチューの具にしたりとそれぞれに工夫を凝らして……これがまたどちらも良い味である。


 使用人や城で働いているみんなも料理を食べられるように多めに作っておいてお代わりも自由という仕様なので……気に入った料理を満足行くまで食べるもよし、色んな料理を少しずつ食べて違いを満喫するも良しといった具合だ。




「いやはや。料理は美味いし飲物も甘くて冷たくて実に最高じゃな!」

「全くです……! 地上の果実は素晴らしいですね……!」


 と、パイナップルのジュースを飲んで満面の笑顔になっているアウリアとモルガンである。果実系の飲物は海の民だけでなく妖精にも好評なようで、セラフィナと共に妖精の女王ロベリア、植物園からやってきた花妖精達も並んで窓枠に腰かけてジュースを飲んで笑顔になっていたりして。妖精達の様子に高位精霊達も嬉しそうだ。


 動物組、魔法生物組も美味しい食事と魔力補給ができてご満悦といったところである。動物組に食事を与えていたシャルロッテも上機嫌であるが。

 そんなわけで食事の席も一段落といったところか。この後に出し物も用意しているけれど食事の後はお茶を飲みながら思い思いに歓談できる時間を設けているのだ。


 招待客は知り合いだが王や貴族達の集まりだからな。こうして歓談できる時間を作る事で繋ぎを作ったり、色んな話をしてもらおうというわけだ。


 ゴーレム楽団に代わってイルムヒルトが音楽を奏でたり、リン王女やユラ、セイレーン、ハーピー、深みの魚人族といった面々がそれぞれ各国の楽器で特徴的な旋律を奏でて歌声を響かせたりと、宴会会場は終始賑やかで楽しそうな雰囲気であった。

 それぞれの音楽が気になるのか、文化的な交流会になったりするのもこうした場ならではだろう。


 俺の所にも代わる代わるみんなが誕生日の祝福の言葉と共に挨拶に来てくれる。みんな前に話していたように特産品やお土産も持ってきてくれていて……各国のドレスであるとか装飾品であるとか、俺向けというより奥さん達向け、という物も多い。まあ、それらで眼福になるのは結局俺だったりするのだけれど。


「ふふ、こうして皆さんにテオのお誕生日が祝ってもらえるというのは……私としては嬉しいですよ」


 グレイスが微笑んでそう言うと、みんなも同意するように頷く。


「私は――賑やか過ぎるのは苦手だけれど、皆知り合いだものね。こういう席なら悪くないわ」


 そんな風にクラウディアがにっこりとした笑みを浮かべて、マルレーンもこくこくと頷いていた。

 そうして挨拶回りも一段落した頃合いで、俺も会場のみんなに口を開く。


「今日はありがとうございます。沢山の贈り物まで頂いてしまって……この上は僕からも何をお返ししようかと悩むところではあるのですが……一先ずは魔法を使った出し物で皆さんにも楽しんで頂けたらと思っております」


 そう言うと会場から拍手が起こった。というわけで――俺は宴会会場の窓から見える中庭へと移動する。外はすっかり暗くなっていて……照明を落とせば出し物を行うには良い頃合いである。

 マルレーンのランタンやミスリル銀線に繋いだゴーレムメダルを用いた出し物だが、楽しんでいって貰えたら俺としても嬉しい。

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