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番外614 日向の花畑にて

 礼装に着替えて、落ち葉がかき分けられて歩きやすくなった森の小道を少し進んでいくと、少し開けた日当たりの良い場所に出る。色とりどりの花が咲いた――そこが母さんの眠る場所だ。


「綺麗な場所――」

「代行殿に見せてもらった記憶のままですが……実際に見ると温かく感じます」

「確かに……」


 それを見たエレナが呟くと、アルクスとヴィアムスもそう言って、カルセドネとシトリアも揃ってこくんと頷く。

 アピラシアも花畑は心が安らぎます、とそう言って胸のあたりに手をやっていた。蜜蜂の本能に根差した部分が刺激されるのかも知れないな。


 花畑も墓所も――きちんと手入れされているのが窺える。以前墓参りに来た時に母さんに贈ったデフォルメされたドクロのマスコットも……墓石の縁にちょこんと腰かけている。これも前に来た時そのままだ。新品のように綺麗な状態なのでハロルドとシンシアがこれもしっかりと掃除してくれているのだろう。


「二人とも、いつもありがとう」

「勿体ないお言葉です」

「私達の大切なお仕事ですから」


 ハロルドとシンシアは俺の言葉に揃って笑みを浮かべた。

 だが何というか……前に来た時とは雰囲気が少し変わったかも知れない。いや、見た目の様子ではなく、魔力的なところで……より温かい雰囲気になったというか。

 ああ。そうだ。勘違い、ではないな。花畑全体を包む魔力が増している。母さんの影響なのかな。


 パルテニアラによれば、ああして精霊のような存在にはなったが、時間が経たないと中々活動するための力も増してこなかった、との事で。

 こうした事例が過去にないわけではなく、怨霊のような存在なら強い恨みといったような動機を源泉に動けるのでまた話が変わるとの事だ。


 母さんは恨みとはまた違う動機――みんなを守る為に自らイシュトルムを押さえる封印となっていたからな……。その分だけ力を使ってしまっていたのだろう。もし顕現できるのだとしても、かなり先の事になってしまうそうだ。


 とはいえ、ここに来ると見守られているような温かな感覚があるから……今はこれでいいのかも知れない。


「ただいま、母さん」


 フォレスタニアから持ってきた花束を墓前に置いて、それから黙祷を捧げる。

 イシュトルムとの戦いで消耗してしまったというのなら……俺としても母さんにはゆっくりと休んで欲しい。心配いらないと思って貰えるぐらいに、俺も頑張るから。

 そうして目を開けようとした時に、ふわりとした風のようなものが髪の毛を軽く撫でていく。母さんがそうしたのか、そう思っているからそんな風に考えてしまうものなのか、判別しにくいものではあるが……。


「お久しぶりです、リサ様」


 グレイスも穏やかな笑みでそう言ってから黙祷を捧げる。そうしてみんな墓前に向かう。


「ああ。今……」

「ええ」

「髪をそっと、撫でられたみたいな」


 と、黙祷が終わった後にグレイスやローズマリー、ステファニアが顔を見合わせて笑顔になっていた。マルレーンも自分もあったというようにこくこくと頷く。

 次に黙祷を捧げたシーラやクラウディアもだ。シーラが耳をぴくぴくと反応させ、クラウディアも笑顔になる。


「ん。同じく」

「私もだわ」


 みんな髪に軽く触れられたような、そんな感覚があったらしい。グレイス達は前にここに来た時も同じような事があったからな。今も母さんが歓迎してくれていると知って嬉しそうな様子だ。


「リサ様、今も見守って下さっているのね」

「きっとそうです」


 嬉しそうに目を細めるイルムヒルトにアシュレイがそう言って、月面の時の事を思い出したのか、目を閉じて胸の辺りに手をやっていた。


「ふふ。パトリシア……。久しぶりじゃな」

「会いに来たわ、パトリシア」


 と、静かな言葉でお祖父さんとヴァレンティナが墓前に声をかける。お祖父さん達も前の墓参りの時に居合わせているからな。

 それに続いて七家の長老達、父さんとダリル。ロゼッタとアウリア。それからシオンとマルセスカ、シグリッタ。エレナとカルセドネやシトリア、ハロルドとシンシアが黙祷を捧げる。エレナは俺に大変お世話になった、と自己紹介を交えつつ丁寧に挨拶をしていた。


 同行してきた面々に動物組や魔法生物組も続く。そうして墓所に向かってぺこりとお辞儀をするラヴィーネやコルリス、ティールである。様子を見ているときちんと動物組や魔法生物も撫でていったようなのが母さんらしいというか。カドケウスやバロールは五感リンクで俺に触れられた事を伝えてきてくれたし、ティールが嬉しそうに声を上げて、コルリスも触れられたであろう場所に手をやっている。ガシャドクロもうんうんと頷いていた。


 場の魔力も少し活性化しているようだ。やはり一人一人、どこかに触れられたような感覚があったようで。母さんの墓参りが初めての面々は最初こそ少し戸惑っていたが、みんな笑顔になっていた。


 きっとみんなの想いや言葉も、母さんに届いているのではないだろうか。少ししんみりとした空気があったが……暫くその場所に留まってから別れを惜しみつつ頷いて顔を上げる。


「それじゃあ、母さん。また来るよ」


 そんな言葉に、もう一度――ふわりと頬を撫でるような風が通り過ぎる。

 母さんが応えてくれたような気がした。いってらっしゃいと言われたような、そんな温かい感覚が、胸に広がるのであった。




 そうして母さんの家の火の始末や水回りの確認、後片付けと掃除、しっかりと戸締りを済ませて、みんなでガートナー伯爵領から転移門を使ってタームウィルズへと戻った。

 余裕を持って行動しているのでまだ国内外の招待客は来ていないが……転移港に造った迎賓館でお茶でも飲みながらみんなで待たせてもらうというのが良いだろう。


 今回の誕生日にはハロルドとシンシアも呼んでいる。

 父さんとしては二人にあまり負担がかからないように、定期的に休みの日を設けるように言っているし、申し出てくれれば臨時の休みも与えられるよう交代用の人員というのを選出してあるとの事である。母さんやハロルド、シンシアに好意的な武官から選ばれているらしい。

 但し、二人は休みの日も森の散策を日課にしているので、そうした交代要員が過去必要とされたことはあまりないそうだ。


 ハロルドとシンシアは森を不在にしてどこかに出かけるという事を普段はしないらしいが、交代要員がきちんといる事と、あの森で何かあれば自分も分かるからとフローリアも言った事で、それならばと招待に応じてくれた。


 二人ともかなり真面目に仕事をしてくれるし感謝もしているが、あまり根を詰め過ぎても良くないからな。今回の招待で色々と楽しんでいってくれたら俺としても嬉しい。


 迎賓館のサロンに場所を移し、みんなで腰を落ち着けてお茶を飲む。

 やはりというか、話題は先程の墓所での事になった。


「やっぱり中々顕現となると難しいのかしら」

「同じような例としてはパルテニアラ様がいらっしゃいますが……精霊化や神格を得ても中々顕現できるだけの力は溜まらなかった、と仰っていましたね」


 ロゼッタの疑問にエレナが答えると、みんなも興味深そうに聞いていた。そうだな。俺もその辺が気になって、以前工房でパルテニアラに聞いてみたのだが、その時の話だろう。


「母さんはイシュトルムの力を封じていましたし、僕も月で助けられました。今は――見守ってくれていると分かっただけでも嬉しいですね」

「そうさな。それは確かに。それに先々にも期待の持てる話ではあるな」


 と、お祖父さんが言うと七家の長老達はしみじみとした様子で頷いていた。

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。


明日、明後日、作者は所用で不在となるので、感想返信、修正等の対応が遅れてしまうかも知れません。


お話の投稿については、時間のある時に予め書いておいた

時系列の繋がりがなくても大丈夫そうな閑話を2話分用意してありますので、

そちらを予約投稿させて頂ければと思っております。

番外編の続きに関しては作者が帰ってからということでご了承頂けたらと思います。

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