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番外613 誕生日の朝に

 そうしてみんなと共に湖で遊んだり、森でキノコや山菜を取ったりして明日の朝に使える品々を確保した後で母さんの家に戻る事となったのであった。


「ハロルドとシンシアは、森に慣れてるからかしら。流石ね」


 と、イルムヒルトが微笑むと二人ははにかんだように笑う。

 そうだな。二人ともキノコや山菜、果実であるとか、この近辺の森で食べられるものはかなり網羅しているようで。特にキノコに関しては間違えやすいものには手を出さず、特定が簡単な物に絞って採取していたあたり、流石という印象だ。


 家に戻ると随分と良い香りが漂っていて、探索に時間を使っていたこともあって食欲をそそられる。


「何だか……こうして食事の用意が進んでいるところに帰るというのは、懐かしい気がします」


 そんな風にグレイスが言う。


「そう、だね。こうしてグレイスと一緒に帰った事もあったな」


 俺にとっても郷愁を誘われるものだ。父さんのところに遊びに行って……グレイスと共に家路につく時に母さんの家から食事の匂いが漂ってくるという事も多かった。森や湖に行く時は俺達を守るという意味でも母さんも必ず一緒だったから、今と状況が同じというわけではないけれど。


「でも、今はみんなが一緒です」


 俺の言葉にグレイスがそう言って微笑み、マルレーンも笑顔でこくんと頷く。ああ、そうだな。

 そうしてほのぼのとした空気の中で家に到着する。


「それじゃ、家に上がる前に生活魔法で手と靴を綺麗にしておくよ」


 家に上がる前にまずは生活魔法で手や靴の汚れを落とす、というのも母さんが当たり前にやっていた。キノコや山菜採りに行ったのでそれに倣ってみんなに生活魔法を使っていく。


「ふふ、ありがとう。リサ様との暮らしも……こんな感じだったのかしら」


 と、手を取ったステファニアがお礼を言ってくれる。


「ああ。家の周りで遊んで帰ってくると生活魔法を使ってくれてたな」

「それは、ああ……良いわね。夕暮れの森と木の家に、帰ってきたら魔法で、というのは」

「幻想的で……素敵ですね」


 と、その光景を想像したのかステファニアとアシュレイは目を閉じていた。二人は……母さんに憧れていたりするからな。


 そんな話をしながら家の中に入ると、アイスゴーレムと共にマクスウェルの日常用ゴーレムが食器を用意しながら待っていてくれた。


「ふっふ。今日の料理は出来上がりが楽しみだな」

「おお。それは楽しみですな」

「うむ」


 今日の献立とその味を知っているマクスウェルは核を明滅させて言う。アルクスとヴィアムスも期待しているようだ。


 そんなわけで収穫物を保存してから、みんなと共に食堂にある大きなテーブルの周りに座って夕食である。白米に豆腐とワカメの味噌汁。ツナマヨをサラダに加えたもの。カレーポテト。そして今回は豚――ならぬオーク肉でメインの一品を用意した。


 迷宮産オークではあるがソルジャー、ジェネラル、キングとランクが上がるたびに肉質が良く、美味しくなると言われている。

 今回は迷宮の一角――密林要塞に出現するジェネラルを食材として用意しているので、質としては中々の物のはずだ。


 作ったものは醤油と砂糖、生姜を使って味付けしたオーク肉の角煮である。

 時間を掛ければ普通の鍋でじっくり煮ていってもしっかりとしたものが作れるが、今回は料理の工程をバロールにも少し手伝ってもらい、鍋に構造強化を用い、風魔法で圧力を掛けて即席の圧力鍋を作って料理を進めた。角煮と一緒に煮卵や大根も一緒に煮込んであるので、卵は薄い茶色に色付き、大根にはしっかりとタレが染みて良い塩梅だ。


 そうして各々に配膳が済んだところで夕食である。

 口の中で崩れるぐらいにしっかりと煮込まれた角煮は……ほのかに感じる生姜の風味と僅かに甘い醤油ベースのタレの味と相まって中々の出来だ。白米と合わせると食欲をそそられる味と食感というか。大根も……味が染みて簡単に切れるぐらいに柔らかくなっている。


「ん。これは美味しい」


 と、魚介類ではないがシーラにも好評である。みんなも角煮を口にして笑顔になっていた。味噌汁やツナマヨサラダ、カレーポテトにしても、初めて触れるハロルドとシンシアには衝撃的だったようで、一口ごとに目を丸くしていた。


 そうして食後にはイルムヒルトの奏でるリュートの音色とセラフィナとフローリアの歌声とが響いて……のんびりとした時間が過ぎていく。食後のお茶が済むと外はすっかり暗くなっていた。

 ハロルドとシンシアにも遠慮せずに泊まっていくようにと告げると、二人は恐縮しながらも嬉しそうに頷くのであった。




 明けて一日――。目を覚ますと、何やら寝室の中をきらきらと輝く光の粒が舞っていた。

 ああ、これは――マルレーンのランタンによる幻術、かな?

 上体を起こすとみんなは先に起き出していて、俺が目を覚ましたところで声を揃えて言ってくる。


「お誕生日おめでとう!」


 その言葉と共に、光の粒が弾けてきらきらと降り注ぐ。

 ああ……そうか。みんなもこっそりと打ち合わせてくれていたわけだ。


「ん……。ありがとう」


 少し頬を掻いてから笑って答えると、みんなも笑顔になる。


「みんなでこれを誕生日にと、用意していたのよ」


 と、魔法の鞄からローズマリーが衣服を出してくる。みんなが前にくれた紋様魔法の施されたウェストコートと揃いになるようなデザインのズボンで……表地はあまり派手にならないように普通だが、裏地には色々と紋様魔法の刺繍が施されていた。


 アルケニーの糸を用いた生地で……身体能力強化に再生能力上昇。ウェストコートは対魔法防御系の術式が施されていたが、こちらは主に身体機能の強化に主眼を置いているらしい。空中機動を武器にしている俺にとっては有難い装備だ。


「ああ。これはまた……気合が入っているな」


 それを見て言うと、みんなも笑顔になって頷く。


「ふふ。エレナやパルテニアラにも手伝ってもらってね。対呪法系の防御力も高まっているわ」


 と、クラウディアが笑みを浮かべる。なるほどな……。後で二人にもお礼を言っておこう。

 早速着替えてウェストコートと共に装着してみると……サイズもぴったりだった。


「背が伸びたら、それに合わせて裾直しもしますね」


 と、グレイスは微笑む。


「大事にするよ。動きを最適化できるよう、訓練を積まないとな」


 身体強化の術式は常時発動タイプではなく、ボタン代わりに付けられた魔石に魔力を込めて発動させるという、任意発動系の物のようだ。俺自身の魔力にはほとんど変化を生じさせずに動きの限界値をいきなり引き上げられる。この辺も俺に合わせてくれているようで有難い。




 そうして朝のサプライズを経て――。昨日採ってきたキノコを使って炊き込みご飯を作ったり、海老や山菜の天ぷらといった品々を用意したりしてみんなで朝食をとり……のんびりと父さん達の到着を待っていると、やがてガートナー伯爵家からみんなを乗せた馬車がやってくる。


「おお、テオドール、誕生日おめでとう!」

「誕生日おめでとう」


 馬車から降りてきたお祖父さん達と七家の長老、ヴァレンティナといった面々がそんな風に口々に言って俺の事をハグしてきたりと、中々賑やかな誕生日だ。


「ありがとうございます」


 と、俺としてはされるがままで苦笑するしかない。そんな光景にグレイス達だけでなく、父さんも上機嫌そうに微笑みを浮かべていたりして、やや居心地が悪いような気もしないでもないが。


 馬車にはアウリアやロゼッタも乗って来ていて、母さんの墓参りに同行したいとの事だ。では、みんなで母さんのところに行くとしよう。

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